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アザミはユキの腹部を貫いている刃鋼線を、指先で操作し引き抜く。
「が……はっ!」
それと同時にユキは崩れ落ち、吐血する。その腹部の傷は致命傷とも云える吐血量。
「ユキ!!」
アミは崩れ落ちたユキを支える様に抱き抱える。その腹部からは血液が止めどなく溢れ出し、危険な状態にある事は一目瞭然。
倒れたユキ。そして目の前の有り得ない光景。アミにはその現実は受け入れ難いものであった。
「どうして……?」
アザミの首が胴体から離れた瞬間を、アミは確かに見た。
その筈が、そんな事実は最初から無かったかの様に佇むアザミのその姿に、アミは心の底から恐怖せざるを得なかった。
それは絶望という名の恐怖か。
「何故? 確かに手応えは有った筈……」
吐血しながらもユキはアザミに問い掛ける。それに対しアザミは、両手で相手を讃える様に拍手しながら応えた。
「いや見事だった。お前のその戦略、技量には正直感服した。普通ならお前の勝ちだ」
アザミはそう言い口許を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。
「普通……ならな」
“何だ!? 奴から感じられるあれは……”
ユキの額から冷汗が流れ落ちる。それは傷に依るものものではなく、アザミから感じ取れる、その異常な迄の邪気を感じたからだ。
「俺の邪気に気付いたな。見せてやろう」
アザミはその身に纏う黒装束を右手で剥ぎ取り、上半身を顕にする。
「ーーっな!!」
その姿に二人とも、思わず目を見張った。
アザミの上半身は、左目の間に在る赤い刻印と同じ様なものが無数に刻まれていた。赤い刻印は不規則に点滅しており、これがアザミの身体全体から異様な迄の邪気を纏っていた。
「これが俺の能力ーー“怨呼再閻呪”。この刻印が刻まれた肉体は、何人たりとも滅する事は出来ない。再生能力を超えた再生、復元能力に依ってな」
アザミのその姿、能力に二人は絶句する。
「俺の渾名は別名“不死身”のアザミ。首を飛ばそうが頭を潰そうが無意味な事。元より死の無い存在だからな……」
首を飛ばしても倒せない。それは即ち、倒す方法が無いという事。
それでもユキは、腹部の傷を抑えながらも立ち上がった。
「ならば、復元出来ぬよう粉々に吹き飛ばすのみです!」
ユキは刀を鞘に納めて居合いの構えを取る。だが、今にも倒れそうな位、足元が覚束無い。
「ふっ、無理するな。その腹部の傷は致命傷だ。しかも体力も限界に来ている今のお前では、俺に傷一つ付ける事も出来はしない」
アザミがその言葉を言い終わる頃には既に、ユキはかの奥義を放っていた。
“神露ーー蒼天星霜”
鞘走りから成る、音の刃と極低温が複合した“星霜剣”奥義ーー
蒼白の奔流に巻き込まれたアザミは一瞬で多数に分離し、その全てが凍り付く。
だが、直後二人は信じられない光景を目にする。
「そ、そんな……」
凍り付き多数に分離したアザミの肉体は、まるで水銀が一つに戻るが如く、元に戻っていく。
“ばっ……化け物!?”
その光景は、それ以外の形容詞は見当たらない。
「だから言っただろう。無意味だとな」
アザミは何事も無かったかの様に、元に戻っていた。
「ごほっ……」
ユキはその場で膝をつき、左手で口を抑え吐血する。
「ユキ!!」
アミは急ぎ、ユキの下に駆け寄った。
“駄目、これ以上は……もう闘う処じゃない!”
見ると腹部からの流血は止まらない。急ぎ手当てをしないと、命に関わるのは一目瞭然だった。
「傷のせいで技の威力も急激に衰えてきたな。もう限界だろう……だが、悪く思うなよ」
突如瞳が緋く輝いたアザミは、右拳を握り締め力を集約する。その拳からは、はっきりと視覚出来る程の、形容し難いまでの凄まじい闘気を纏っていた。
「刃鋼線は一つの攻撃する手段に過ぎない。俺の真の武器は、この“鬼”の力による直接打撃ーー」
“鬼”
※一般的に鬼は邪悪なる者の象徴であり、古来から妖怪の類いでもある。また地獄の獄卒としての顔もあり、共通しているのは最も強大な力を持つ、最強の邪悪生物で在るという事。
妖怪が人と交わる事も有るように、稀に鬼と人が交わる事も有る。
人で在って人で無い。人で在りながら人を超えた者。鬼との混血で在る者は、異能力とは異なる――異能さえも超えるとされるその力は、先天性異能者『特異点』と同等の位置付けに在る。
アザミはその鬼の力を受け継いできた一族の末裔であった。毛髪と呼応する異彩色魔眼とはまた異なる、特徴的な緋色の瞳こそが、鬼の血を受け継ぐ者の証。
ーー鬼の力と不死身の復元能力。これこそがアザミが特異点ーー四死刀をも倒し、狂座に於いて直属最強と謂われる所以であった。
「ユキ!? 早く逃げよう!」
アミはユキを抱える様に撤退を促すが、重傷を負った彼と共に、アザミから逃げる事は不可能に近いのは痛感していた。それでもアミは、これ以上ユキが傷付く姿を見たくなかったのだ。
「殴り殺してくれる!!」
そんなアミの想いとは裏腹に、アザミが凄まじい迄の突進力で襲い掛かってきた。