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「離れてアミ!」
ユキはアミを突き放す様にその場から退かせ、刀と鞘を十字に構え、アザミの拳打をがっしりと受け止めようとした。
だがーー
“なっ、何て速さと力! 受け止める事も流す事も出来ない!!”
アザミの拳打の威力は、常識の桁が外れていた。
刀と鞘で柔らかく受け止めたにも拘わらず、その衝撃を吸収しきれず、ユキは後方まで弾き飛ばされた。
その軌跡からは、衝撃に依って砂埃が巻き上がる。
「刀ごと叩き潰すつもりが、上手く受けたな。だが、次はそうはいかん」
アザミが悠然と歩を進めた時、背後から何かによって貫かれる。
“ーー何っ!?”
吹き飛ばされた筈のユキが、何時の間にかアザミの背後から刀を刺し貫いていた。
「ほう、何時の間に? 相変わらずの速さだな。だがーー」
アザミは身体を捻りながら、右肘を繰り出す。その肘鉄を頭部に直撃されたユキは、その衝撃で後方へ弾き飛ばされた。
「俺への攻撃が無意味だという事を、そろそろ理解しろ」
飛ばされたユキの跡を追う様に、アザミは右拳を振り上げながら追撃する。
「くっ!」
何とか踏み止まり、突きによる反撃を繰り出すが、アザミはお構い無しに突っ込んでいく。
「攻撃が無意味という事は、防御する事無く攻撃出来るという事だ!」
刀で貫かれた身体を気に留める事無く、右手による掌底を繰り出す。
「がはっ!!」
攻撃の最中に避けられる筈もなく、ユキはその掌底を顔面にモロに喰らい、吹き飛ばされながら倒れ込むのだった。
立ち上がれない事は、誰の目にも明らかであった。
アザミは倒れて動けないユキの下へゆっくりと歩み寄り、左手でその白銀髪を掴み上げる。そして、その血が滲む腹部へ拳を叩き込んだ。
「うぐぅ……かはぁ!」
ユキは堪えきれず、口から大量の血を吐き出した。
アザミは尚も無慈悲に、その腹部に拳を叩き込み続ける。その度にユキは口から血を吐き出し続け、その腹部は痛々しい迄に真っ赤に染まっていく。
「もうやめてぇ!!」
アミは涙ながらに懇願する。
“これ以上は……ホントにユキが死んじゃう!”
「黙っていろ」
アザミは攻撃の手を緩める事無く、冷酷な迄の紅い瞳でアミを見据える。
アミはアザミの持つ、その恐ろしい迄の殺気と雰囲気に、まるで金縛りにあったかの様に動けなかった。
アザミは不意に攻撃の手を止め、掴み上げているユキを自分の方に向かせる。
「お前、これ以上は本当に死ぬぞ。これが最後のチャンスだ。潔く敗北を認め、俺と共に来い」
これが事実上、アザミの最後の情けだった。当初に持ち掛けた提案を、再度投げ掛けていた。
「ユキ! もう負けを認めて! 死なないで!!」
“例えユキが狂座側に行ってもいい”
アミはこれ以上、ユキの傷付く姿を見たくはなかったからこその想い。
「お前が此処で死んだら、誰があの女を護る? 此処で死ぬ事は、只の犬死にでしかない。お前が狂座に忠誠を誓うなら、あの女の身の安全は保障しよう」
それはアザミの慈悲なのか?
それとも気まぐれ?
だがその言葉に、嘘も裏も感じられなかったのもまた確か。
「さあ選べ。此処で二人共死ぬか。俺と共に歩み、二人共生き残るかを」
決断を迫るアザミに、口から血を流しながらもユキは、断腸の思いでその問いに応える。
「は、敗北を……認めます。狂座に忠誠を誓い……ます。だからどうか、アミの命だけは……」
ユキのその答えに、アザミの冷酷な表情が緩む。
「そう、それでいい。潔く敗北を認め、己を知る事も重要な事だ」
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