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数秒だったか、数分だったか、それすら分からなかったけれど、どうしても、グランツの視線が私から外れることはなかったので、私はうんざりと口を開くことにした。
「どうして、そんなに見てるの?穴空くんだけど」
「エトワール様」
「……また、私の護衛に戻りたいとか言っても聞いてあげない。確かに、言った私が悪いかも知れないけれど、それでも簡単に主人を変えるような忠誠心だったなんて」
「…………」
そこまでいって、私はハッと自分の口を塞いだ。確かに、イライラしていたのもあったけれど、トワイライトとアルバの前で喧嘩するのはよくないし、今はトワイライトの護衛なんだから彼女の前で護衛を侮辱、怒るなんてもってのほかだと思った。でも、それ以上に縋るような目で見てくるグランツを見て、何か言ってやりたくなったのは事実だ。私はそんなに心が広い人ではないから。
私は自分より少し大きいトワイライトを腕の中で抱きしめながら、グランツを再度見た。彼は、私がまがらないのを察したのか、目を伏せて頭を下げた。
「すみません、気分を害してしまったようで」
「……別にいい。でも、今の貴方の主人はトワイライトで、守るべきは彼女よ。それだけは、覚えておいて。もし、心残りがあるようだったら、前の主人の最後の命令ぐらい聞いてよ」
「……ッ」
それだけ私はグランツに告げて、トワイライトをつれて聖女殿に戻ることにした。グランツは衝撃を受けたような、酷く歪んだ顔をしていたが、もうこれ以上声をかけても意味がないと私は考えた。
私も彼も頭を冷やす時間が必要だと思ったから。
それに、別に彼を攻略すると決めていたわけではないし、一人攻略大賞から外れたと思えばそれで住む話なのだ。元から、彼と恋がしたいとは思っていない。主従関係で、それでこそ私は彼を可愛い年下としか見ていなかったわけだし。
「アルバ? 立ち止まって如何したの?」
「いえ、何でもありません。すぐ行きます」
私は、ふと後ろを振返り私の後をついてこないアルバに声をかけた。彼女は、グランツと何かを話しているようだったが、私には聞き取れなかった。トワイライトは私の手をギュッと握った早く以降と急かしてくる。
アルバは、フッと微笑むと再度グランツに何かを囁いて私の方まで来た。
「何を話していたの?」
「少し世間話を」
「わー嘘くさい」
「主人には聞かせられない話ですから」
と、アルバはにこりと笑った。その笑顔を見て、私を守る為に何か言ってくれたのかな何て想像して、私の口角も緩み上がった。
その様子を見ていたトワイライトは、少し寂しそうに私に純白の瞳を向けてきた。
「そういえば、トワイライトは私のいない間如何だった? 多分、聖女殿とか神殿のこと教えてもらったり、まわっていたりしたと思うけど……嫌なことする奴がいたら言ってね。私がなんとかするから!」
少し見栄をはって言うと、トワイライトはクスリと笑った。
私は、口ではそう言ったがきっと私に権力も何もないのだろうと虚しくなった。トワイライトに嫌がらせをする人なんてそういないだろう。いるとすればヘウンデウン教か。だが、この場所は安心できるところだと思うから心配していない。
闇魔法の者が神殿近くの聖女殿に来たとしても、その光の強さで魔力を失うだろうし、警備も本物の聖女が現われたことによってよりいっそ手厚くなるだろうし。
「はい。色々教えてもらいました。それで、その神殿に行って魔力を測ったんですけど、測定器の水晶玉が壊れてしまいまして」
「え……あぁ」
トワイライトは申し訳なさそうにそう呟いて、俯いてしまった。
確か私も召喚された次の日に魔力を測定しに行ったなあと、あれは結構前のことだったのかとぼんやり思い出しつつ、私も過去、水晶玉を割ったことも同時に思い出した。あれは、年代物とかいっていたけど、新調したのかと。でも、それをトワイライトが壊してしまったと。
トワイライトは本当に申し訳なさそうなかおをしていて、また自分の力を恐れているようにも見えた。だから、私は安心させるために彼女の頭を撫でてあげる。
「心配しなくても大丈夫よ。あれは壊れるものだし」
「で、ですが、神官様はそう簡単に壊れないと」
「私も、壊しちゃったし。聖女の魔力ってそれぐらい凄いって琴よ。それに、そんな魔力を持っているんだから、胸はればいいじゃない。だって、その力で世界を救えるのかも知れないから」
私は、最後少しオーバーに言ったが、彼女は納得してくれたようでこくりと頷いてくれた。まあ、水晶玉がいきなり破裂したんだから、怖いと思うのも無理ない。それも、それが自分の力によって木っ端微塵になったとすれば尚更。
私もあの時吃驚したし、申し訳ない気持ちで一杯になったから、彼女の気持ちがよく分かった。
「そう、そうですよね! この力は、世界を救うためにあるですもんね」
と、フンスっと彼女は両手で拳を作って胸をはった。
その仕草が、私より少し身長が高いというのに小動物に見えてしまって、私はまたもや和んでしまった。矢っ張りヒロインは違うなあ何て考え、ふと彼女の魔法属性が気になってしまった。トワイライトは光魔法に分類されるだろうし、私が光だったから闇……何てことはないだろうと思っているが。
「そういえば、トワイライトは適性は光魔法だったの?」
「はい、お姉様と同じ光魔法です。神官様も、お姉様が水晶玉に触れたときのこと思い出していたみたいで、懐かしいって言ってました」
トワイライトは、そう言ってにこりと笑った。
そういえば、神官さんに最近あっていないなあ思い出して、明日にでも顔を出しに行くかと頭の中で予定を立てた。神殿は、ブライトと顔を合わせるかも知れないと思ってあまり行かないように、遠ざけていたが、トワイライトの魔法も見たいしいい機会かも知れない。まあ、噂によるとブライトは忙しくて神殿に顔を出せていないようだけど。
そんなことを思っていると、私の想像をぶち壊すように、トワイライトは口を開いた。
「それで、お姉様をよく知っているという侯爵様に出会ったんです」
「え……」
「お姉様の知り合いですよね。黒い髪をハーフアップにされた、綺麗なアメジストの瞳を持った侯爵様」
と、トワイライトは私の反応に気づいていないような様子で、話を続けた。
私は先ほど、ブライトは来ていないと思っていたが見事にフラグ回収したことで、頭が真っ白になりそうだった。でも、よくよく考えれば、本物の聖女が来たのだから、父親に魔道騎士団団長を持つブライトが来ても可笑しくないし、私が召喚されて間もない頃も、彼はよく来てくれていた。だから、可笑しいことではないのは頭では理解しているが。
(もしかしたら、また顔合わせなきゃいけなくなってしまうかもだし……でも、グランツと同じで合わせる顔がないというか、喧嘩したままというか)
星流祭のことをも思い出して、私は一気にブルーになった。トワイライトは慌てて大丈夫かと私の背中を撫でて、アルバも大丈夫ですかと、私の方に駆け寄ってきた。そんなに大事ではないし、そんな人からすればたいしたことでない事で取り乱している私も私なのだが。
私は、二人に大丈夫と言う意思を伝え、トワイライトに確認のため聞いてみることにした。
「その人って、ブライト・ブリリアント侯爵……であってる?」
「はい。確かそう言ってました。とても綺麗な方でしたし、親切にして下さって」
「そう、なの……何か私のこと言ってた?」
「え、えっと。『エトワール様は元気にしていますか』と」
トワイライトはゆっくりと思い出すように言葉を紡いで、私の顔色を伺った。そんなに私の顔は青ざめているのかと思ったが、確認しようがない。
(何が元気にしていますか、よ。アンタとかグランツとかのせいでこっちは胃がきりきりしてるのよ)
と、今すぐ彼に言ってやりたいところだったがブライトがここにいるわけも無いし、いつも彼からあいに来てくれるため彼の住む場所を知らない。知ったところで転移魔法使っていっても迷惑になるだけだ。
それに、元気にしているかと尋ねたらしいが、その前にこの間の調査については何も聞かされていないのだろうかという疑問の方が増さった。彼の耳に災厄によって人間が形を変えて怪物になる……というものは入っているだろうし、私とリースが大変なことになったことも、きっと知っているだろう。なのにも関わらず、元気にしていますかはあんまりだと思う。まあ、トワイライトとは今日初めて顔を合わせたんだろうし、あまり深くは聞けないだろう。それに、私のことを心配していなければ深くは聞かないだろうし、そもそも会いにも来ないだろう。
(彼も攻略対象から外す予定だったし、まあ……)
そんな風に悩んでいると、もう残りがリースかアルベドかのどちらかになってしまったことに後から気がついた。まだ、完全に×を付けたわけではなかったが、それでもあの双子は論外として考えて、グランツとブライトまで蹴ってしまったら本当にその二人しか残らないのではないかと。
「お、お姉様どうか、されましたか?」
「ううん、何でもないの……ううん」
私を心配してくれるのは、今アルバとトワイライトとリュシオルぐらいだ。もういっそその三人の中で選びたいぐらいに。
それでも、アルバには幸せになってもらいたいし、勿論アルバもリュシオルにもいい人を見つけてもらいたい。色々と矛盾しているが、今私に出来ることは、死なないこと、悪役にならないことだろう。
「トワイライト、アルバ……」
「はい、何でしょうか。お姉様」
「どうしましたか? エトワール様」
「…………二人ともいい人見つけて、結婚してね。そして、幸せになってね」
何だか、自分で言っていて虚しく、お別れの言葉みたいになってしまったため、トワイライトもアルバも顔を青ざめさせて周りのメイド達を呼び寄せ、大事になってしまったのは、また別の話だ。