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一人、この星一つ無い空に想いを馳せた。彼女の名前は加々美星螺。星螺は海に顔を出した。一匹の透明な触手を纏った海月を迎えに行くために。
以前、星螺はその海月と一緒に次の代官祭りへ行くという約束をした。だが、あいにくの天気。本当ならば前夜祭での催しごとで祭典の神、ヨミヨイ様を迎える儀式を整えるはずだった。ボランティアやその団体による準備は空が澄んでいる夕方に済ませるものだった。このあいにくの天気では、灯されるべき蝋燭も痺れを切らして照らしつけてくれないだろう。その小さな灯火を待つ、人々にとっては、この雨は憎悪を植え付ける格好の的なのだ。
海岸沿いを通る星螺は傘無しでは歩けない。今にも雨粒に潰されてしまいそうだ。閑散とした空気の中、微かに海を輝かせる灯台を目指して歩き続けた。ゆらゆらと煌めいている波の近くに来た途端に大きな波が星螺の方に向かってきた。星螺は差していた傘を畳み、その時が来るのを待っていた。
「……。」
海から陸に流れ着いたのは紛れもない女の子だった。
おかしいと思った星螺は前にその海月と撮ったツーショットを漁りまくった。その結果、男の子であることは明白の事実だった。本当に遭難者かもしれない。こんな美少女を星螺は知る由もない。震えた手つきでその美少女の頭を触るといきなり目を見開いてくるくると周りを見渡した。よく見ると、瞳の色が水色だ。まるでここら一帯の海の色を集めたかのような色彩だ。
その美少女は口を開いて
「これが…僕っ!?」
と、終始驚いていた。勢い余って星螺は
「貴方……ましゅろんなの?」
と、聞いてしまった。その質問を聞いた美少女は頬を赤らめてこくりと頷いた。整った顔立ちと綺麗な白髪。大好きな海月は白色の触手を持っていた。柔らかめの肌は海月の傘のように、ふにふにとしている。
「僕…女になっちゃったのかな……?」
美少女に変貌を遂げた海月は今にも泣きそうだ。星螺は心の底からましゅろんのことを想っていた。だが、この日は流石の星螺もわらいの波に耐えられず吹き出してしまった。可愛いましゅろん。星螺は降っている雨に気づかないほど顔が熱くなっていた。どれくらい経っただろう。気づけば雨はとっくに止んでいた。体を震わせた星螺はその美少女を家に連れ帰った。(傍から見たら犯罪現場かもしれない…)
美少女は星螺に抱きつき安心して眠ってしまった。これがましゅろんならば浴衣は女物を着させなければならない。今からネット注文するのにも時間が足らない。色々と迷走した星螺は眠った少女を置いて家を出た。
そして直ぐに和服専門店へ向かった。もし、やってなくても構わない。星螺は家路にある和服専門店、きまえ和服に向かった。きまえ和服はレンタル和服屋でもあり、全ての着物や浴衣を購入できる昔ならではの自家生産制のお店だ。
「あった……!!」
この前、星螺が見つけた綺麗な浴衣が売り出されてあった。一点物だから、売られてしまったのでは。そんな心配が的中しなかった。まるで皆既日食になりかけて離れていってしまった月のようにならなくて良かった。星螺は息を切らしつつ、その浴衣を購入した。店主は無人。いつでも盗める。だが、この浴衣には金を払うだけの価値がある。当然、購入者が倫理観というものを欠如していれば転売されることだろう。
「ありがとうございました。」
星螺は深く頭を下げ、店主が居たはずの椅子に敬意を払った。
雨が止んだ街はいつもと同じように止めどない時をただ一方的に閲覧しているだけだった。星螺が走っても、小鳥が羽ばたこうが、関係がない無機質な街の空気を吸った星螺は清々しい気分で家路に着いた。不意に、その買った浴衣を見つめた。白色の綺麗な布で出来た美しい浴衣だ。
これをあの美少女に着させたらどうなるのだろうか…。そう考えただけで心臓が高鳴るのを感じる。星螺は空を見上げ星一つ無かった夜空に一番星を見つけた。星螺の周りには心地の良い静けさが家路を輝かせていた。
続く。.:*・゜