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君は舞う。花のように。
『あの日』と何も変わらず、穢れなど知らないで…、
ただ、美しいまま…。
この町では、五十年に一度、夏の終わり、晩夏に祭りが行われる。この祭りが行われるのは、かつて不幸にも愚かな巫女の元に生まれた呪い子の少女を弔い、呪い子がもう二度と生まれないように神に『祈り』を捧げるためらしい。『祈り』というのは、呪い子の少女が亡くなった後の巫女から伝えられてきた伝統的な神楽である。ちなみに、これらの事はこの家の関係者しか知らない。そして、神楽を舞っているのが誰なのかも、町の者は分かっていない。巫女である彼女が大衆に顔を出すのはこのような大きな家の行事だけなので、学校にも通っておらず、彼女の顔で誰だか分かる者この家の人間で以外にはいない。
今日は祭りの一日前。彼女が神楽の練習始めて三日目、練習の最終日だ。
普通に考えれば、短過ぎるように感じるだろう。しかし、彼女は巫女になる前に、一つの教養として神楽を最初から最後まで完璧に叩き込まれていて、記憶からは消えていても体は覚えているので、完璧に舞うことができる。
正直、練習なんていらないくらいだ。
それでも彼女は心配だと言うので動きの確認だけすることにした。僕もある程度動きは覚えているので、僕が彼女の動きを見て、間違いがあれば指摘する…、と言っても、この三日間近くで見ていたが、間違うことなどそうそうない。
そして、今回も完璧に舞い、神楽が終わると彼女はこちらに駆け寄り、僕に確認をする。
「どうでしたか?」
「今回も完璧でしたよ。これなら本番も問題無いでしょう。」
そう言うと、彼女は安心した様子で「よかった…。」と言った。最終確認も済んだと言う事で、今日の練習はこれで終わりにし、他の準備をする事にした。
正直、僕としては早くこの練習を終わりにしたかったのだ。
神楽している彼女を見ていると、『あの日』を思い出してしまうから…。