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今日は祭り当日だ。
会場には大掛かりな飾り付けをし、家の者は皆着飾って参加する。それはもちろん、僕や彼女も例外ではなく、特に彼女は今回の主役とも言える立場なので、今日は着物の正装だけでなく、装飾品を大量に付けさせられた。さすがに送り人である僕にこんなに装飾品はいらないと思うのだが…。彼女は立場による差別を嫌う。大方彼女が、「送り人とと同じ扱いにしないなら、装飾品は付けない」とでも言ったのだろう。
そんなことを思っていると、準備が終わったようで、彼女が襖を開けた。
「待たせてしまってごめんなさい。」
そこには、美しく着物をまとった彼女がいた。例えるなら、それは花のようだった。
「いえ、問題ありません。」
僕はそう答えてから時計を確認すると、丁度会場に向かう時間だった。
「では行きましょうか。」
僕がそう言うと、僕達は二人で祭り会場へと向かった。
会場につくと、僕達は町の人々に見つからないように巫女の待機所に移動した。巫女は町の人々に簡単に姿を見せてはいけないのだ。
待機所にしばらくいると、彼女が言った。
「…緊張します。失敗してしまったらどうしましょう…。」
彼女は不安そうに言った。普段は凛としている彼女も、まだこう言った事に経験がない少女であることには変わりない。不安なのも当然だ。
僕はここに誰もいない事を確認してから言った。
「あなたなら大丈夫ですよ。舞台に上がっても、踊り始めてしまえば案外楽しいものです。それに、神楽の動きなんて僕達以外で知っている人なんていないんですから、失敗しても笑って誤魔化せばいいですよ。」
嘘だ。
本当の所、当主様は神楽の動きを完全に把握している。でも、それを言っては今緊張している彼女には逆効果だ。
彼女は「それもそうですね。」と言うと、僕の方に振り返って笑顔で言った。
「ありがとうございます!」
一瞬、彼女の表情が曇ったように見えたのは、気の所為だろうか…。
それは、昔の事。
家の集まりで彼女が神楽を披露することになった時の事。
『緊張するよ…。失敗したら伯母様怒るかな……?』
『大丈夫だよ!伯母様は神楽の動きなんて知らないんだから。まちがえても笑ってごまかしちゃえ!それでもしバレたら一緒に怒られよう?』
『うん、ありがとう!』
それはもう戻らない光景。