テラーノベル
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「ぜんっぜん! いつきくんは悪くない。当たり前だよ、その反応」
次の日。俺とりゅうせいがギクシャクしているのを嗅ぎつけたのか、だいきに屋上へ連れ出された。しゅうとから聞いていたのとは、ずいぶん反応が違う。
「え、だいき……別に気にしてなかったって、しゅうとが言ってたけど」
「気にするに決まってるだろ! 幼馴染で今でも仲が良いってことは、天使ちゃんのことが大好きに決まってるじゃん! 心配で夜も眠れないよ。俺、何気ないふりをするの、手が震えたもん」
自分と同じような反応をしている親友の姿に、思わず笑みがこぼれる。
「でもさ、俺ら一回喧嘩してるから。……素直に気持ちを伝えるのも大事だけど、相手とずっと一緒にいたいなら、時には自分の気持ちを押し殺して、優しい嘘をつくことも必要なのかなって思うんだよね」
「うわ、だいき……なんか、すっごい大人でびっくりするんだけど」
「もう、本当……しゅうちゃんと付き合うと成長させられますわぁ」
冗談っぽく言っているけれど、だいきだって散々振り回されてきたもんな。……いや、だいきもだいきで散々だけど。
「俺も仲直りしたい。このままじゃ、苦しすぎるわ」
「俺は、いつきくんのそんな余裕のない顔、久しぶりに見られたからワクワクしたけどね」
「趣味わるー」
「あ! じゃあさ、その日の夜……つまり、あいつらが大阪に行ってる夜、二人で飲まない? 一人で考え込むより、気が楽でしょ。俺、いつきくん好みの店を見つけたんだよね」
「うわ、いいじゃん。前、散々奢ってもらったから、今回は俺がご馳走するよ」
「えっ!? やったぁ! めっちゃ楽しみ!」
なんだか、救われた。だいきがいてくれてよかった。持つべきものは親友だな。
「……じゃあ、今日仕事が終わったら、全員ゆうたさんのお店に集合。しゅうとにも声かけたから。そこから、俺らは飲みに行こう」
「え、いっちゃん、もしかして結婚報告?」
「早すぎだろ! まだ一ヶ月も経ってないぞ」
「なんで勝手に話進んでんすか。……今日は、ちゃんとゆうたさんのことを紹介できてなかったから、親睦会です。みんなも知りたいでしょ? あの人が、どれだけいい子で可愛いのか」
いっちゃん、なんで俺のことを真っ直ぐ見て言ってるんだ? もしかして、俺とりゅうせいのわだかまりを解くために、わざわざ場を設けてくれるのか。……お前、どんだけ男前なんだよ。
「それ、いっちゃんがゆうたの事惚気たいだけじゃん」
「うるせー、りゅうせい。……なんでお前、呼び捨てなんだよ」
「いっちゃんもすればいいじゃん。年下なんだから」
「リスペクトしてる人を、酔ってバカにでもなってねぇ限り、呼び捨てになんてできるわけないだろ」
「……あ、だから。しゅうとは今でも俺のこと、『さん』付けなんだ」
「……それは微妙っすね。単に呼び方を変えるのが面倒だっただけっすよ」
「おい、りゅうせい! おじさんを馬鹿にすると痛い目にあうぞ!」
だいきをからかって、りゅうせいがケラケラと笑っている。
よかった。……喧嘩の最中でも、あいつの笑顔を見るとやっぱり安心する。
「うわぁ、いつきくん、完全にお父さんの顔してるぅ」
「うるせぇ。お父さんって言うな」
隣にいるいっちゃんの肩を、軽く小突いて「ありがとう」を伝える。
いっちゃんなら、俺が今どんなに救われたか、きっと分かってくれているはずだ。
「うわ! 新作増えてる! ゆうたがまたデザインしたの?」
「はい。最近、また考えるのが楽しくって。……全部、いつきさんのおかげです」
「うわー、俺買いたいから選んじゃお!」
ニコニコと、照れもせずに恋人への感謝を口にするゆうたくん。もう、いい子確定じゃん! 分かってたけど!
「僕、少し荷物を片付けたら追いかけますから。皆さん先に行って始めててください。ここでお待たせするのも悪いですし」
「ゆうたさん。今日の主役はあなたなんですから、気にする必要はないですよ。なんなら準備しといてください、俺が全部やっちゃいますから」
「あ……」
ゆうたくんが返事をする間もなく、いっちゃんが慣れた手つきで段ボールを抱え、二階へと上がっていく。うわぁ、これは惚れるわ。
「うわ……いっちゃん、かっこいい。王子様じゃん」
「……だいきさん、目がハートになってますよ?」
「じゃあ、俺も手伝ったほうが早く終わるよな」
「なんなの、ダブルいつきで王子様じゃん!」
「で、だいきくんは手伝わないんだ」
「今、肩、脱臼してて」
「言い訳ダサッ!」
しゅうとのツッコミに笑いながら、俺も段ボールを抱え上げる。
おっも……! こんな重いの、いつも一人で二階まで運んでるのか?
すごいな、ゆうたさん。この華奢な体のどこにそんなパワーがあるんだ。
「あ、いつきくん、こっちです」
「はーい。……いや、これは大変だわ」
「でしょ? この店、ぜんっぶ『一馬力』でやってんすよ、あの人。マジでリスペクトでしょ?」
「……もう、飲みに行かなくても、あの子の凄さがわかる気がするよ」
「いいえ。この親睦会は、りゅうせいといつきくんの仲直りの会でもあるので。ちゃんと行きますよ? あなたたち二人がギスギスしてると、俺らも楽しくないんで。……あなたたちは、バカップルでいたほうが、お似合いなんです」
「……ふふっ。そうなんだ」
心の中で「ありがとう」と言って、いっちゃんの肩を軽く叩く。
本当にいい男だな。いっちゃんがいてくれて、本当によかった。
「いつきさん、これで終わりです。お二人とも、ありがとうございました! ……りゅうせいくんが、またたくさん買ってくれました!」
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萩原なちち