⚠️作品の前にご注意下さい⚠️
R18ものではありませんが、
TASUKUの嘔吐シーンがあります。
無理な方はお控え下さい。
星崎視点
打ち合わせが済んで出演者リストを見ると、
数組が歌った後にセカヲワ、
TASUKU、
ミセスの順番でその後にも、
他の出演者のパフォーマンス予定だった。
順番が近いこともあって、
深瀬さんの生歌を間近で聴けることが楽しみで、
自然と表情がほころんでいた。
(そろそろかな)
打ち合わせが済んだことで、
今か今かと心待ちにしていた時、
スタッフから声がかかった。
コンコンッ
「TASUKUさん準備できましたので、
リハのスタンバイお願いできますか?」
「すぐに行きます」
ギターケースから相棒のアコギを出して、
ストラップを首にかけた。
ギタリストのスイッチが入る、
この瞬間が一番好きだ。
音楽と繋がっている間だけは、
息苦しいこの世界でもちゃんと息が吸えた。
僕はステージがあるセットを目指して歩く。
深瀬さんのおかげで全く緊張せずにいられた。
彼がリハーサルで新曲を歌う。
スポットライトを浴びながら堂々とした立ち振る舞いで、
力強く歌い上げる様子を見て、
やっぱりすごいなと圧倒された。
「ふーさん⋯格好いいな」
オーラがキラキラと輝いて、
眩しいくらいに見えた。
それと同時に急に深瀬さんの存在が遠く見えてしまい、
ほんの少し言いようのない寂しさを感じた。
まるで深瀬さんが自分から離れていきそうで怖くなった。
(裏切りはもうウンザリだ)
完璧に深瀬さんが歌い上げて、
いよいよ僕の番が回ってきた。
深瀬さんがエールを送るように、
ハイタッチをしてくれた。
「頑張れっ!」
「はい。
行ってきます!」
僕が歌うのは新曲である「足りない物」という曲で、
アコギ用に作ったものだ。
〜あなたが願う
形の変わらないものってなんですか?
日常生活でありきたりな時を過ごす
大切な人といる時
あなたない望む世界ってどんな形ですか?
木々にざわめき
ふと耳を澄ました
空の青さを感じて
この世界が群青色に染められたらいいな
あなたが考える心の声ってなんですか?
普段通りの日々が一人で先走るように過ぎてゆく
暖かさが体に触れるとき
どうして耐えて我慢するの?
言いたい事を伝えよう
変わる変わらないかは
そんなのどうでもいい
伝えるだけでも伝えよう
あなたが思う感情って何ですか?
いつもと変わらない世界で過ごしてみる
肩を並べあっている時
空を眺めて思う事って何かありませんか?
一度きりの人生誰も代わりはしてくれない
二度目は無いんだからさ
明日(あす)にはきっと
明日(あす)に突き抜ける風が吹くから〜
誰かに寄り添うというよりは、
世の中に問う目的で作ったフレーズに、
アコギの繊細な音色が重なることで、
一番届けたい人の心に届くように、
一言一言一音一音に乗せて紡いでいく。
例え聞いた人全員に刺さらなくても、
せめて一人の心にだけは刺さるように、
丁寧に歌い上げた。
僕は静かにステージから降り、
安堵の息を吐いた。
まだ本番ですらないのに、
こんなので大丈夫だろうかと不安がまたぶり返してきた。
(ふーさんに癒されたい。
でもミセスさんも新曲だっけ?
やっぱり聴きたいな)
とりあえず邪魔にならないように、
隅から様子を見ることにした。
やはりベテランの風格というか、
三人は独特な空気感を持っていた。
まさにプロの纏う空気といった感じだろうか。
この空気感は決して新人が放てるものではない。
オーラだけで格の違いがわかるほどだ。
大森さんの繊細な歌声に、
藤澤さんの優しいキーボードが寄り添い、
若井さんのロックサウンドなギターが突き抜けていく。
三人の音が束になって、
空間全体を包み込んでいくのを感じた。
「やっぱ⋯すごいな。
スゴイしか言えないくらい凄いや」
それはまさに、
言葉にならない音楽だった。
やっぱり格好いい。
彼らはきっと音楽に愛された人なのだ。
僕とは明らかに違う世界にいた。
(何だこれ?)
多分僕は彼らの才能に、
嫉妬している。
そう自覚してしまうと自分の中に、
黒い感情が広がっていた。
自分が誰かを妬んだり、
僻んだりしたことがなかったために、
初めての感情に戸惑いを隠せないほどに動揺してしまう。
「⋯うっ!」
口の中に苦い汁がせり上がり、
胃酸が逆流してきたのだと気づき、
口元を手で押さえながら、
慌ててトイレに駆け込んだ。
案の定僕は便座に手をついた瞬間に、
激しく嘔吐した。
多分食べたものを全部吐き出してしまったくらいに、
胃が空っぽになる感覚があった。
「しんど⋯⋯」
誰もいないトイレで、
一人呟いた言葉だけがやけに反響する。
雫騎の雑談コーナー
作中にて登場した「足りないもの」という楽曲ですが、
実際に俺が高2で作詞したものです。
まだ世間の荒波とか、
それはそれはブラックな厳しい社会とか、
障害者への風当たりの強さとかを知らない、
のほほんと守られていた学生時代に書いたものなので、
大部アラがあるのはご理解ください。
因み俺は知的障害者です。
一般就労までの道のりが険しいため、
現在B型事業所という職業訓練場のような場所に通って、
仕事を提供させていただいてます。
本気でギタリストや作曲家を目指して勉強中です。
障害者でも音楽の世界に飛び込んでいける事を証明したい。
その気持ちをTASUKUに代弁させています。
自己満足かもしれませんが、
誰かの心に響く音楽や物語を発信したいと思っています。
あまり作品には関係ない話になってしまいましたが、
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
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