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―それから15年後―
大阪 ミナミ 某クラブ
「ご指名ありがとうございます! 真美で…す。」
このホステスを指名したのは、ガラの悪いチンピラ風な男、そしてもう一人、がっしりとしたその身に特注のスーツを纏い、冷めた視線を女に送る少し大柄な男の二人組。
特に大柄な男はその端正な顔立ちに似合わない異様な威圧感とオーラを放ち長い脚を放り出しソファーに腰掛けていた。
指名した女の姿を見てチンピラ風な男が口を開いた。
「お!毎度!金矢金融ですぅー!事務所になかなか顔出さんからわざわざこっちから店まで出向いて指名したったでぇ!ほな!今夜は楽しい夜にしてもらおかー!」
「ちょ…ちょっとなんぼなんでもお店まで来るのはやめてくださいよぅ…。」
「わざわざ店にまで来させとんのはそっちの方やろ。利息の支払いの期限!とっっっくに過ぎとんのやぞ?」
「声が大きいですって!皆に聞かれてしまうでしょ…。」
「利息分も支払わんと!誰かに聞かれて恥ずかしい事しとるのはお前の方やろ!わざわざ店まで出向いて指名までしたってんねやから、サービスしてやぁ。」
「い、今ほんまに手元にお金が残ってないんです…。父親が突然倒れてしまって急な入院費が必要になって。だから…もうちょっとだけ待ってもらえませ…。」
「そんなでまかせ、通用せえへんで。」
一際、ドスの効いた声でもう一人の大柄な男が女の言葉を遮ぎった。
「か、金矢さん…。」
「どうせあんたの事や…。そのへんの男かホストにでも貢いで散財したんやろ。こっちが何も知らんと思って安い同情買おうとしたってそうは行かへんで。」
「……な、なによ!そんな事言われたって無いもんは無い!無いもんをどうやって支払って言うんよ!」
「ほーら!本性あらわしよった!開き直りよってからに!」
チンピラ風な男が豹変した女の態度を煽るかのように言葉を返した。
「ほな、今からええとこ紹介するからそこいって働いてもらおか。あんたやったらその気になれば一晩で30万くらいは稼げるやろ。無理やったら稼げるまでそこで働いてもらう。」
「そ、そんなん…無茶やわ!」
突飛押しもないその提案に動揺する女
「何が無茶や、わしから銭借りてる以上、あんたに選択肢なんぞあらへんのや。」
金矢と呼ばれるその男は表情を変えず冷たく女にそう言い放った。
そのとき…
コツコツコツ…
硬い大理石の床をヒールが叩く音…
近くのテーブルに居た一人のホステスがその異変に気付き、男達のテーブルに近づいて来たのだ。
正しくは、回りの人間もこの異変に気付いてはいたものの、男の異様なオーラに圧倒され、ややこしい事には関わりたくないと意図的に視界と意識に入れないようにしていただけであった。
「あの!失礼します。先程から騒がしいようですけど。うちの真美がお客様に何かご迷惑おかけしましたでしょうか?」
その声に覇気がみなぎり、口を真横に結んだその表情、一目で気が強い女だと分かる。
「あぁ!明香先輩ー!助けてくださいぃ!私この人らに脅されてるんです!出禁にしてください!出禁に!」
「なんやとこのアマぁ!」
チンピラ風の男はその言葉に反応してすぐさま反論したが、一方の金矢は黙ったまま、じっとその女の姿を鋭い目で見つめていた
「…………。」
割って入ってきた女の物怖じしない態度と口調、男はその姿をじっと見つめ、少し間をおいてから口を開いた。
「ふっ……。大迷惑かけられとるなぁ。この女に300万の金貸しとるんや。それが利息分の支払いもできひん、そやから支払えるような金策を提案してやったんや。」
「金策なんて!こ、この人ら私に今すぐ体売って働いて返せって…そんな事言うんです…!」
一連の話を聞いたもう一人の女は呆れたように口を開いた
「そういう事…。たかだか300万ぽっちのお金返して貰われへんって騒いで女を叩き売ろうとするなんて…あんたらちっさい男やな!」
またもやチンピラ風の男がその言葉に反応し一際、勢いよく反論する、
「なんやとぉー! 借りたもんきちんと返さん人間の方が根性腐っとるんと違うんかいー!!!」
それに負けじと間髪入れず女も反論する。
「ギャーギャーやかましいなぁ!300万くらい私が払ったるわ!」
その言葉に驚愕し、チンピラ風の男は固まり目を見開いた
「な、なにぃ…?」
「それで文句ないやろ?300万きっちり用意して払いにいったる!」
「いや、先輩…そこまでしてもらわんでも!」
焦った後輩のホステスはそれを止めに入った。
「助けて言うてきたんはあんたやろぉ?黙っとき!」
「そ、そやけどこれは私の借金です!」
「今更なに見栄張ってんの!そしたらあんた返せる当てでもあるん?」
「いや、それは無いですけど……。」
止めに入るも時すでに遅し、気が強くて頑固なこの女は一度言った事を頑として翻さない。
「あの、兄貴ぃどないしまひょ…。」
それまで強気に出ていたチンピラ風な男は反論の余地がなくなり途端に弱気になった。
兄貴と呼ばれたこの男は少し呆れたように口を開いた
「……どないもこないもあらへん。銭さえ払うてもろたらこっちはそれでええ。そこまで言うんやったらこの後輩の借金は今からあんたの借金や。利息はトイチやで。」
「ト、トイチて…。上等やわ!明日きっちり用意して持っていったる。」
「…言うとくけど300万言うのは元金の事や。利息分と合わせて360万きっちり耳揃えて返してもらうで。ワシはまだあんたの事信用したわけやあらへんからな。逃げたらその時は…分かっとるな?」
「心配せんでも約束は守る。もし約束破ったらその時は私の事売り飛ばすなり、なんなり好きにしたらいいわ!」
「ふっ…。ほな、今日のところは帰らせてもらう。竜一、行くぞ。」
「え……?へ、へい!」思っても見なかった展開に焦る竜一と呼ばれる男。
「ちょっと待ちぃ!」
女がお店を出ていこうとする男たちを呼び止めた。
「お金返しに行く言うてる相手に自分の名前も名乗らんと帰るつもり?それはなんぼなんでも失礼と違うの?」
金矢は振り返らず、少しだけ足先をずらしてこちらに向け…
「今更名乗らんかてあんたはワシの事よう知ってるはずや…。」
何かに気付いてるかのように軽く怪しい笑顔を浮かべた。
「はぁ…?どういうことやの!」
男の意味のわからない言葉に困惑する
「ほな、明日。」
そう言い残し金矢はクラブをあとにした。
「あぁ、ちょっと兄貴ぃ!あ!事務所の場所はここや!そっちの姉ちゃんが詳しく知ってるから聞いて来なはれ!ほな! 兄貴ぃー!待ってください!」
もう一人の調子のいい男は一枚の名刺を置いて、クラブを飛び出していった、
“あ、ありがとうございましたぁ。”
クラブのボーイは少し困惑した様子で嵐のように去っていった二人組を見送る。
「せ、先輩、ほんまにごめんなさい…。 私こんなつもりなかったんですぅ!」
「こんなつもりもどんなつもりもないわ!あんな暴利な闇金からお金借りるなんてほんま信じられへん!アホにも程があるわ!!」
「だってぇ…。」
「だってもクソもない!男に夢中になってお金でものにできるなんて思ってるからこういうドツボを招くんや!真面目に働き!男はその後!」
「はい!もう二度とこんなアホな真似しません、これからは真面目に仕事します!!!で、でも!ほんまに300万もの大金…いいんですか?あの男の取り立て鬼みたいにえげつないんですよ…?」
震える声でそう訴える後輩ホステス。
「ふんっ…!私も伊達にこの世界で働いてない。 これでもそこそこ稼いでるし、貯えだってある。300万くらいどうってことないわ。」
どうってことない訳がなかった。
夜の世界に入ってから、コツコツ貯めたお金だ、その重みは本人が十分に理解しているはずだった。
「先輩神様……。ほんまにありがとうございます!!!この埋め合わせは一生かかってでもさせてもらいます!!」
「また調子のええ事言うて。あんたのこと全然信用してないからなぁー。とにかく!仕事に戻るで!」
「ほんまですってばぁ!それはそうと先輩…あの”金矢”いう男と顔見知りですか? “ワシの事よう知ってるはずや”とか帰り際言うてたけど…。」
「え……今なんて…言った?」
「え?だから”ワシの事よう知ってるはずや”って言っ…」
「そ、そうじゃなくて! その前のあの男の名前…。」
「え…だからあの男は金矢金融事務所の”金矢”いう名前です。」
「金矢…。下の名前って知ってんの?」
「下の名前?確か…… “塁《るい》”やったと思いますけど…。なんかミナミの鬼とか呼ばれてめちゃくちゃ恐れられてる街金らしくて、私お金借りる時そんなん全然知らんかったんです…。なんであの男の名前そんな気になるんですか?」
「…………!?」
“金矢 塁…”
その名前を聞いてからその後の後輩の言葉はもはや何も耳に入ってこなかった。意識が一気にあの頃に引き戻される…
まさかあの塁が…
いや、そんな訳……。
忘れもしないその名前。まさかこんな場所で再び聞く事になるとは思いもしなかった。果たせなかった約束をしたあの日の記憶が鮮明に思い出された…。
その塁が金融屋?
これは何かの間違いに違いない…
別人だ。
そう自分に言い聞かせていた。
#純愛