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…………
「あなたは唯花に、、、金咲さんに何を吹き込んだんですか」
どうしてか彼女は目を丸くしている。
「驚きました。
まさか夢の中で優燈くんが私よりも早く、
言の葉を発せる日が来るとは」
…いや絶対にそっちじゃないだろ。
僕の失言に目を向けないのはどうしてだ。
…考えても無駄なことを考える癖は直そう。
一応それっぽく返答しておく。
「場数じゃないですか。
こうして唯花さんと会うのも5回目ですし。
…てか僕ら、なんか最近やけに頻繁にお会いしていません?」
「え、そうかなぁ。
これで会いたくなって会いに来た、って言ったらどうしますか?」
「客観的に見て恋に落ちます」
「そこは主観ゴリゴリでいいと思いますよ」
「あ、あの…、ありがとうございました」
「私何かしましたっけ?」
「僕が中学生で多感だった頃、僕はあなたの言葉に救われました。
行き場を失った僕は、あなたの言葉が|拠《よ》り所でした。
…だからあなたは、命の恩人なんです」
「…じゃあ、その《《ありがとう》》の言葉は、唯花ちゃんにも言ってあげてください」
「あなたが唯花、、、金咲さんじゃないとして、あなたはどうして金咲さんに執着するんですか」
「執着じゃないですよ。
……私はあくまでも、優燈くんの夢中の存在でしかないです。
私が執着しているなら、つまり優燈くんが執着していることにもなるんですよ」
「……」
してやられた感は否めない。
僕だって幼くなった彼女が、現実に存在している根拠は未だに語れない。
「だから私が代わりに願いを言ってあげます」
彼女は息を整える。そして、
「唯花ちゃんと付き合ってください。
あなたにはその資格があります。
彼女に最大の愛をぶつけてあげるの」
「ちょ、ちょま…、いやそれ」
「…時間が来ちゃった。
もっと優燈くんもノンレム睡眠してよね」
無理難題を、さぞ当然かのように突き付ける。
彼女は最後に言った。
「あ、さっきのは、私との約束だからね。
絶対に果たしてね、またね」
………
金咲さん、、、唯花は確かに美形で、非常に僕の好みな風貌と態度の女性ではある。
でも今後も釣り合いが取れることはない。
…その構図はまるで月とミジンコだもん。
…そして、夢の彼女はなぜ僕を選抜したんだ?
全く理解が及ばない。
こればかりは本当に。
…やっぱり彼女と意見と僕の意思とは相反する。
僕は夢に洗脳されているのかもしれない。
ふと、人を好きになるってなんだろうと思う。
ある人は、日夜その人の事が頭の中を駆け巡ることを意味する、といっていた。
じゃあ今、僕の頭を巡回しているのは誰だ。
夢の彼女か。現実の彼女か。
…それとも根本を辿って僕自身なのか。
他人を愛すには、相応に自分も愛することが大事だし、間違ってはいない。
…でも僕は何が好きなのか、分からない。
明晰夢は僕の現実と空想との区別を、崩壊させてしまった。
一方的でも確実に恋できるのは金咲さ、、唯花だ。
なかなか呼称が慣れないけど、距離はぐっと縮まっている。
夢が必ず現実になるとして、年下の僕のどこを好きになるのか。
そんな疑問が時間を潰していると、現実の彼女からメッセージが届いた。
「今週の日曜日、空いていたりする?
二人でデートしない?」
デート。英語にするとデイティング。
僕は齢15にして、遂に女性からのデートのお誘いを受けたのだ。しかも歳上。
唯花は惚れてみると言っていた。
それなら僕は惚れさせてみせる。
…やるなら全力だよ。
…だって後悔はしたくない。させたくもない。
折角だしここは一つ、現実の方でも彼女に恩を返しておこう。
僕の《《ハル》》は、実はとっくに始まったいた。