テラーノベル
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電話を握ったまま。
壁にもたれていた翠の足が、ふっと力を失う。
「……っ」
視界が、ぐらりと揺れる。
床が近い。
ガタン、と小さな音。
そのまま、キッチンの床に座り込む。
スマホが手から滑りかけて、慌てて握り直す。
「……翠?」
電話の向こうの桃の声が、一瞬で変わる。
低くて、鋭い。
「今の音なに」
翠は、息を整えようとする。
でもうまく吸えない。
肺が浅いところでしか動かない。
「……ちょっと、立ちくらみ」
笑おうとする。
うまくいかない。
床の冷たさがじわっと伝わる。
足先が、じんじんする。
頭の奥がぼやける。
桃の声が近くなる。
「座ったか?」
「……うん」
「深呼吸できるか」
翠は、言われた通りにやろうとする。
吸う。
浅い。
吐く。
震える。
「……ごめん」
小さく、漏れる。
「寝ててって言われたのに」
沈黙。
それから、桃が静かに言う。
「謝まらなくていい」
一瞬、きつい声。
でもすぐ落ちる。
「無理したことは怒る。でも謝るな」
翠は、床に視線を落とす。
洗いかけの炊飯ジャー。
流れっぱなしの水。
“ちゃんとしてたい”って思った数分前が、遠い。
「……俺」
息が震える。
「役に立ちたかっただけ」
声が、幼くなる。
「一人で家にいるの、なんか……怖くて」
やっと出た本音。
桃が、ゆっくり息を吐く。
「そうか」
怒らない。
責めない。
ただ、受け取る。
「怖いときはな」
少し間を置いて。
#学生パロ
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「じっとしてるのが一番きつい」
翠は、こくんと頷く。
見えてないのに。
「でもな」
桃の声が少し強くなる。
「無理して倒れるのは、違う」
キッチンの床に座ったまま、翠は目を閉じる。
まぶたの裏が熱い。
「……俺、まだ」
喉が詰まる。
「ちゃんと“休む人”になれてない」
それは自覚。
昨日、「守られる側」って言われたのに。
体が、昔のまま。
“役に立て”って命令してくる。
桃は、はっきり言う。
「今は練習中」
翠は、少しだけ顔を上げる。
「休む練習」
短く。
でも真っ直ぐ。
「失敗してもいい」
「でも倒れるまでやるのは無し」
翠は、弱く笑う。
「……厳しい」
「当たり前だろ」
少しだけ、いつもの桃の調子。
その軽さに、翠の呼吸がほんの少し整う。
でも。
まだ体が重い。
立てそうにない。
「……桃にぃ」
「ん?」
「少しだけ、このままでもいい?」
床に座ったまま。
何もできないまま。
桃は即答する。
「いい」
迷いゼロ。
「そのまま座ってろ」
「水止めて、背中壁につけて、目閉じろ」
翠は言われた通りにする。
蛇口を閉める音。
静けさが戻る。
壁に背中を預ける。
目を閉じる。
まだ怖い。
でも。
“何もしてない自分”を、今は責められてない。
それが、少しだけ救い。
電話の向こうで、桃の呼吸が聞こえる。
切らない。
切らないでくれる。
一人じゃない。
でも。
床に座り込んだまま、翠は小さく呟く。
「……俺、まだ怖い」
正直な声。
今日は、無理できない日。
コメント
1件
うわああ第80話か、、、涙腺やばい😭💦 翠が「役に立ちたかっただけ」って零すシーン、胸がぎゅーってなったよ…。ずっと“ちゃんとしなきゃ”って生きてきたのが伝わってきて。 桃の「休む練習」って言葉、めっちゃ沁みる…。無理しないでいいよって言ってもらえるの、翠にとってどれだけ救いか。 最後の「まだ怖い」って正直な気持ちを出せるのも、桃が切らずにいてくれるからだよね。この2人の関係性、尊すぎる……🌸