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「別の手段……、ですか?」
二つの秘術を使わず、この戦いをカルスーン王国の勝利へ導く方法なんてあるのだろうか。
私には思いつかずとも、オリバーには何らかの考えが浮かんでいるらしい。
「エレノアから【時戻り】のことについて聞いてから、ずっと考えていることがあるんだ」
「ずっと……」
「そう。八度目の【時戻り】からずっと、ね」
「え!? オリバーさま、今なんとーー」
私は思わずオリバーに聞き返した。
現在、オリバーは九回目の【時戻り】、私は十回目の【時戻り】の内容をそれぞれ記憶している。
【時戻り】の水晶を使っているのは私なので、使用者ではないオリバーが以前の出来事を覚えているのは不可能なはず。それは祖先である彼も例外ではない。
「前の僕は君と僕に手紙を残していただろう?」
「はい」
「僕には他に日記が残されていたんだ」
「日記……」
「そこには日々のことや戦況について書かれていたよ」
隠し部屋は現実と時間が歪んでいて、封を切った私宛の手紙もそこに残されていた。
前のオリバーはその他に自分のために日記を残していたらしい。
「マジル王国出身の商人の話がとても参考になったなあ」
「でも、今は戦争中で互いに国交を閉じているのでは?」
「商人の話は戦争前のものだ。スティナ義母さんがあそこの生地を好んで買っていた事があってね、よく屋敷に来ていたのさ」
「そうだったんですね」
「日記とは言え、毎日書き続けるのは大変だったみたい。特に何もなかった日は、昔話とか平和になったら何をやりたいかとか書いてあったね」
「毎日続けられるのが凄いと思います。私でしたら三日で書くのをやめてしまいそうです」
私は疑問を口にするも、オリバーがすぐにそれをはらした。
マジル王国は、織物を自動で織る機械が運転しており、生産性がとても高い。そのため、質が高いシルクでも安く購入できる。
スティナはそれに目をつけ生地を購入し、翌日、商人が商品をソルテラ伯爵邸に届ける際に、販路を増やそうと商人がオリバーに営業かけたといった経緯だろうか。
「当時の僕がふとその商人との話を思い出したんだろうね」
「何を話されていたんですか?」
「カッラモンド。僕たちの国ではダイヤモンドのことだね」
オリバーは知っていたんだ。
商人の話を聞いていた当時は、ただの雑学に留めていたが、今になって思い起こされたらしい。
「先祖が生み出した大きなくぼみ。そこでしか採れない石が、二つの国で違った使われ方をしていたと知ったときは驚いたね」
「……そこでオリバーさまは判ってしまわれたのですね」
私の言葉にオリバーは頷く。
「この戦争は僕に秘術を使わせるためのものだとね」
屋敷でオリバーと再会した時、私はまだ何も話していないというのに、彼は核心を突いていた。
結論は過去の自分が残した日記を読み、秘術を放つ前から出ていたのだ。
「文明はマジル王国のほうが発展してる。カルスーン王国に手を出す必要なんてない、と思ってたんだけど、僕に利用価値があったなんてね」
「……オリバーさまは秘術を放った後、カルスーン王国がどうなるかはご存知だったのですか?」
「知らないよ。未来のことだもん。だけど、エレノアはそれを観てきたんだよね」
「はい。悲惨な最期でした」
「君はそんな中で、生き残れた」
「私は、マジル王国の人間ですから」
「うん。それも、高位な立場にいる」
「え!?」
私は一度オリバーに身分を明かしたものの、それは前の【時戻り】でだ。
彼が酷い殺され方をして以降、私自身の話はしないことに決めていた。
それなのに、どうしてオリバーは私の秘密を知っているのだろう。
「はったりだよ」
「っ!?」
「その驚きようだと、事実みたいだね」
「オリバーさま……」
「ごめんって。怖い顔で見ないで」
やっぱり今のオリバーは知らない。
けれど、私の驚いた顔をみて、本当なのだと判られてしまった。
「メリルがあんなに引き留めるんだもの。それはエレノアを屋敷に出したくないからだってわかったさ」
「メイド長は……」
「メリルについては屋敷に帰ったらどうにかするよ」
オリバーが私の存在について勘づいたのは、三日前のメイド長とのやり取りのようだ。
いくら同行者が新米メイドの私とはいえ、主人にあそこまで食い下がるのには理由があると察しのいい人間には悟られるだろう。
「向こうでそのような立場にいる君なら、マジル王国の反撃にも生き残れただろうね。まあ、時戻りの部屋があるから、あそこにいれば命は助かる」
「……もう、あのソルテラ邸が瓦礫の山となる悲惨な光景は見たくありません」
「そうか」
オリバーと長話をしている間にも馬車は動く。
予定では本日中に基地に到着する。
馬車が止まったら到着の合図だ。
「僕は基地に到着したらすぐに前線へ向かう」
「その”別の方法”というのを行うのですね」
「うん。これが通用しなかったらお手上げだ」
「……」
「君はこの基地で僕の戻りを待っていてほしい」
「承知いたしました」
この会話が終わると、馬車が止まった。
目的地に着いたのだ。
出窓を開くと簡易的なテントが沢山並び、処々に武器、防具、食料が積まれた木箱が積み上げられている景色がみえた。
そこには大勢のカルスーン兵士がいる。
「オリバーさま、到着いたしました」
「うん。馬車の運転ありがとうね」
馬車の扉が開かれ、御者がオリバーに声をかける。
オリバーは御者の働きを労いつつ、馬車から出た。
「ソルテラ伯爵だ!!」
「太陽の英雄だ!」
周りの兵士が、オリバーを尊敬と羨望の眼差しで見ていた。
初代ソルテラ伯爵は童話にもされているくらい有名な人物で、カルスーン国民の支持は厚い。その先祖の彼が苦戦している戦場へ来て、皆を激励するのは士気の向上にも繋がる。
私は皆に手を降るオリバーの後ろをついて歩く。
「オリバー・ソレ・ソルテラさま、遠路はるばるこの戦場へ来てくださりありがとうございます」
偉い人がこの場をこの場を代表してオリバーに握手を求めた。
オリバーは彼の手を握り、それに応える。
「あの、一言いってもいい?」
「どうぞ! あなたの言葉で私達の士気も上がるでしょう」
「じゃあ、言うね」
オリバーはコホンと咳払いをし、喉の調子を整えたあと、彼は兵士の前で宣言する。
「僕はこの戦争を終わらせにきました!」
その一言で、周りは兵士の歓声の声に包まれた。