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八雲瑠月
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――これで二回目だろうか? 女の子の家にあがりこむのは……
書也は思わず不審者のように周囲を見回し続けた。書也のいる場所は閑静な住宅街、目の前には昭和の時代から建っていそうな二階建ての赤い屋根の家、表札には熱情と書かれている。そう、ここは熱情友美の家なのだ。
「ちょっと! 人ん家の前で何やってんのよ!? 馬鹿みたいに突っ立ってないで、早く入りなさいよ!」
二階にいた友美が窓を開けて、叫ぶように言ってから、窓を閉めた。後ろから部活通いと思われるラケットバックを背負った体操服の女子テニス部の二人組が通り過ぎ、こちらをチラリと見て、笑っていた。
『何あれ?』
『彼女と喧嘩でもしたんじゃないの?』
小声だが、そんな声が聞こえてくる。
どうやら、ここで立ち止まっていたら、よくない事が起き続けるのだろう。書也は意を決して、友美の家のドアを開けて入った。
「お邪魔します」
玄関からは田舎のおばあちゃんやおじいちゃんの家に来たようなそんな匂いがした。玄関の棚上には木彫りの熊の置物や黒電話が置かれていた。木の廊下先には珠暖簾があり、奥で野球中継のテレビの音声と、何処からかまな板で何かを切る音が聞こえてくる。独特な煮物のような匂いも奥からする。
「おじいちゃんとおばあちゃんいるけど、耳が遠いの。あんまり気にしないで、上にあがってきて」
階段上から友美の顔がひょっこり飛び出した。
『友美の小説仲間かぃ? お茶や菓子はいるんかい?』
珠暖簾の奥から老婆の声がする。
「おばあちゃんには聞こえるか……いらないから! 早く上がって、書也」
「ああ」
ギシギシと鳴る階段を上がると、二階にはトイレと他にも三部屋あった。二部屋は『あけみ』『ともはる』とひらがなで書かれたドアプレートがあった。
「今日は運が良いわ。あけみとともはるはお母さんと一緒に動物園だし、しばらくは邪魔されずに批評ができるわね」
友美はそう言って『ともみ』と書かれたドアプレートのドアを開けた。
案の定、多くのプラモやフィギュアが飾られた室内だった。ショーケースや本棚の上、机にプラモやフィギュアが多く飾られている。ただ、本棚にはほとんど漫画はなく、ライトノベルの文庫本やライトノベル小説の書き方、幻想動物図鑑、武器防具図鑑、ネーミング辞典、ゲーム企画書の書き方、TRPGルールブックなどの本が多かった。友美は思ったより小説の勉強をおろそかにしないようだ。
「な、何を!? 人の部屋をじろじろと見て……これでも片づけた方なんだからね」
友美は恥かしそうに言って、テレビの下に無造作に置かれたゲーム機と数枚のゲームソフトのケースをテレビ台の下に押し込んだ。
「ところで見て欲しいプロットがあるって言うのは……」
書也は少し嫌な予感がしながらも、友美に聞いた。
「これよ!」
友美は目を輝かせ、待ってましたと言わんばかりな表情で、タブルクリップで止めたプロットの束を書也に差し出した。表紙には少女隊 確蟹VⅤと書かれていた。
「えと、読み方はしょうじょたい……かく? かにぶいぶい? ん? アルファベットのVと数字の五のファイブが混じってないか?」
「読みが違うわ。これは少女隊 確蟹VⅤ(たしかにブイファイブ)と読むの」
書也は思わず呆れた表情になる。
「タイトルが|愛の誤字や脱字並みにややこしい事になっているだろう」
「このVとⅤは蟹の鋏を現わしているのよ」
友美はタブルピースをし、横にカニ歩きをして見せる。
「そしたら二つのVでも良かっただろう」
「二つのVじゃ語呂が悪いじゃない。それに五人だし、VⅤのかっこ良いでしょ?」
「いや、そしたらV5にするべきだったんじゃないのか?」
「別にタイトル名を批評してもらいたい訳じゃないのよ!」
そう言って、友美は書也からプロットを取り上げると、プロットから鉛筆で描いたような数枚のラフ画を取り出して、床に置いた。よく見れば確蟹VⅤの少女ヒロイン達のようで、それぞれ五人がツインテ―ルとサンバイザーで統一し、独特なチアガールのような衣装を身に着けていた。
「これは?」
「愛やエロスに表紙や挿絵を描いてもらうラフよ。さすがに絵描きじゃないから、顔までは描いてないけど」
「文章だけだと思ったら……わりとデザインまで考えてるんだな」
書也は友美のラフ画を見て、感心したように言う。
「はぁ? これぐらいは考えるわよ。あんたの方こそ、この一週間、何やってたのよ? まさかプロットはできても、表紙絵や挿絵のデザインを考えてないなんて事はないでしょうね?」
睨むように顔を近づける友美に書也は思わず怯んだ。
「絵は小説が完成したら、考える方が良いと思って……プロットのキャラ設定の修正で容姿が変わったり、別キャラになったりするだろ?」
「あんたはそういう考えな訳ね。まあ、いいわ。それじゃあ、プロットを見てくれる」
友美が座布団の上に胡坐で座ると、ガラステーブルにプロットを置いた。
「ああ」
書也は対面するガラステーブルに敷かれている座布団に座り、胡坐をかくと、プロットを手に取った。前回に比べると、友美の世界観設定やキャラ設定は単純なものになっているような気がした。だが、それは逆に言えば、目新しさやオリジナリティーが無くなっているように思えた。それと単純にこれは……