アクセサリーを入れる箱と、メモと、鍵。
箱の中には先日贈ったエメラルドの指輪と、その横に黒い石のはまった見慣れない指輪。
置かれていたメモには、阿部ちゃんとは思えないほど乱れた字が並ぶ。
『ブラックダイヤモンド
持ち主をあらゆる悪い事から守ってくれる魔除けの石だそうです。
捨ててくれて構いません。
これからもめめの活躍を願っています。
ごめんなさい。』
鍵は渡していた合鍵。
玄関は閉め忘れたんじゃなくて、締められなかったんだとわかる。
俺は今日の事を、もう謝れないのかも知れない。
謝ったって元に戻れるかもわからない。
俺が自分を止められず一番後悔する手段をとった上に、あまりに深く傷つけてしまった。
電話は出たくないだろうし、メッセージも追い詰めてしまいそうで送れなかった。
食欲はないけど、せっかく作ったご飯がそのままだったので食べる事にした。
何も考えたくなくて、夢中でかき込む。
『もっとゆっくり食べなよ』って笑う阿部ちゃんの声が聞こえた気がして、途中から全部しょっぱくなって、もう味なんてわからなかった。