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#現代ドラマ
ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
第115話:極秘来日!? 黒塗りの高級車と十勝の土
深夜の迷子の子ダヌキ救出劇と、世界中を飯テロの渦に巻き込んだ究極の『一日一食』から一夜明けた、十勝の限界集落。
抜けるような真っ青な夏空の下、古民家の庭にはいつも通りの穏やかでバグった日常が流れていた。
居間に設営した段ボールの絶対保護陣地(インキュベーター)の中では、怪我の手当てを受けた子ダヌキが、神獣シロのフワフワな背中に顔を埋めてスヤスヤと眠っている。
その様子を、キタキツネの兄弟であるコン吉とコン次郎が、まるでお兄ちゃんのように優しく見守っていた。
「ふぁぁ……おはようございます、お兄さん。タヌキちゃん、すっかり元気になりましたね」
エプロン姿の小春ちゃんが、目をこすりながら縁側へとやってくる。
「あぁ。一晩の完璧な保温と水分補給のロジスティクスが功を奏したな。これなら野生に帰る日も近いだろう」
俺は、縁側に腰を下ろしたまま、遅めの朝食……もとい、いつものブレない食事を摂っていた。
お椀の中には、完璧なカニ穴を作って炊き上がった黄金色の『玄米』。
そして、十勝産の大豆を極限まで肉の食感に近づけた『特製大豆ミートの甘辛煮』である。
「お兄さん、昨日の夜あんなに美味しいけんちん汁と玄米を食べてたのに、朝もブレずに大豆と玄米なんですね……というか、お兄さんの『一日一食』のルールはどこ行ったんですか?」
「当然だ。昨夜の夜食は緊急作戦に伴うイレギュラーな補給であり、本日の『正規の兵站(一日一食)』はこれだ。陸上自衛隊『需品科』たるもの、自己の摂取規格を常に一定に維持しなければならない。それに、この大豆の滋味深い旨味は、毎日食べても決して飽きることがないからな」
プチプチとした玄米の甘みを噛み締めながら、俺はジンバルに固定されたiPhone miniの画面に目を向けた。
今日も一千万人のリスナーが、朝のまったりとした配信を楽しんでいる。
『タヌキちゃん元気になってよかったー!』
『シロ様の面倒見の良さ、完全に聖母のそれ』
『主、しれっと一日二食になってるの草』
『夜食はノーカンという限界言い訳ww』
『そして主は今日も元気に玄米を食う』
『この限界集落の配信見てると、マジで都会のストレスが溶けていくわ……』
チャット欄が平和なコメントで埋め尽くされていた、まさにその時だった。
ズドドドドドドドド……ッ!!
突如として、十勝の山深き限界集落の静寂を暴力的に切り裂く、重低音のエンジンエキゾースト音が響き渡った。
「えっ……? な、なんですかこの音! 地震!?」
小春ちゃんが驚いて立ち上がり、コン吉とコン次郎も耳をピンと立てて庭の入り口方向を警戒する。
「……いや、違う。この重低音と、複数のタイヤが砂利道を噛む音。軽トラやトラクターの類じゃない」
元・自衛官としての危機察知能力が警鐘を鳴らす。
俺が玄米の入ったお椀を置き、縁側から立ち上がった瞬間。
古民家に続く未舗装の山道を登りきり、俺たちの視界に『それら』が姿を現した。
「なっ……!?」
俺と小春ちゃんは、完全に言葉を失い、その場に石化した。
限界集落の、周りには畑と森しかない泥だらけの広場。
そこに堂々と乗り入れてきたのは、フロントグリルに燦然と輝く高級エンブレムを掲げた、漆黒の『防弾仕様・超高級フルサイズSUV』だった。
しかも、一台ではない。同じ仕様の黒塗りの車が、砂埃を巻き上げながら三台も連なって停車したのだ。
「えっ……ウソでしょ……? ロ、ロシアンマフィア……? それとも、お兄さんが潰した悪徳業者の報復……!?」
小春ちゃんがガタガタと震えながら俺の背中に隠れる。
『おいおいおい! なんだあの車!!』
『マイバッハの特注SUVじゃねぇか!? 一台で家が建つぞ!!』
『限界集落に黒塗りの高級車の群れww 完全にアウトレイジの始まりww』
『主! 早く逃げて! 需品科のトラップ起動して!!』
一千万人のリスナーがパニックを起こす中、三台のSUVのドアが一斉に開いた。
中から降りてきたのは、黒のスーツにサングラスをかけた、まるで映画のセットから飛び出してきたような屈強な外国人SPたち。
彼らは訓練された動きで周囲を警戒すると、中央の車の後部座席のドアを、恭しく開け放った。
「オーマイゴッド!! ついに着いたぞ! 素晴らしい、素晴らしい大自然だ!」
そこから飛び出してきたのは、仕立ての良すぎる純白の民族衣装(カンドゥーラ)に身を包んだ、長身の外国人男性だった。
「ふむ……。スイスのアルプスにも引けを取らない、完璧な隠れ家(サンクチュアリ)だな。空気の透明度が桁違いだ」
反対側のドアからは、スリーピースの超高級スーツを隙なく着こなし、プラチナの懐中時計を持った銀髪の紳士が、優雅に降り立ってきたのだ。
「……………………は?」
俺の口から、今日一番の素っ頓狂な声が漏れた。
彼らは、夏の十勝の泥だらけの土を、数万円は下らないであろう高級革靴で一切気にすることなく踏みしめながら、縁側に立つ俺に向かって満面の笑みで手を広げた。
「マスター(主)!! 昨晩は素晴らしいスープの映像をありがとう! いてもたってもいられず、自家用ジェットでトカチ・オビヒロ空港まで飛んできてしまったよ!」
「金融網の調整を部下に任せて、私も同行させてもらった! 生のシロ様に会えると思うと、動悸が止まらなくてね!」
ジンバル越しのチャット欄が、一瞬の静寂の後、サーバーが落ちるレベルの大爆発を起こした。
『うおおおおおおおおお!!!!!』
『ドバイの石油王とスイスの銀行家、ガチで来日きたああああ!!!』
『深夜のけんちん汁見て、そのままプライベートジェット飛ばしたのかよwww』
『行動力と財力がバグりすぎてるwwww』
『限界集落に世界のトップVIPが物理的に降臨ww』
「お、お、お兄さん……っ! この人たち、いつもスパチャくれてる石油王さんと銀行家さんですよ!! ほ、本物が来ちゃいましたぁぁぁ!!」
小春ちゃんがパニックの限界を突破し、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
総資産ウン兆円規模の、世界経済を動かす男たちが、俺の古民家の庭先でニコニコと笑っている。
SPたちは、古民家の周囲を完全に包囲し、プロの目つきで警備陣形を敷いていた。
だが。
俺は、冷や汗を流しながらも、元・社畜としての『一切の感情を排した鋼のポーカーフェイス』を顔面に貼り付け、カメラに向き直った。
「……皆さま、そして小春ちゃん。世界的な大富豪が、こんな何もない北海道の山奥に来るはずがありません。冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この期に及んでまだ現実逃避する気かこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・VIPリアル襲来編ww』
『さあ、目の前にいる石油王をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「彼らは、近くの観光牧場に向かう途中で道に迷った、ただの熱心な『外国人観光客』です。最近はインバウンド需要の高まりで、レンタカーのカーナビ設定を間違える方が急増しています。彼らの服装も、日本のコスプレ文化に影響を受けただけの独自ファッション。ええ、ただの『ルーティング・エラー』と『異文化交流のハプニング』が重なっただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
しゃがみ込んでいた小春ちゃんが、弾かれたように立ち上がり、俺の背中に渾身のハリセン・スマッシュを見舞った。
「マイバッハ三台連ねて道に迷う観光客がどこにいるんですか!! SPの人たちがイヤホンで『聖域の確保完了』とか英語でガチの報告してるじゃないですか!! どう見てもスパチャの主ご本人でしょうが!! 素直に自分のおもてなし(飯テロ)の成果を認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのハリセンスマッシュ炸裂www』
『インバウンドの観光客(ドバイの石油王とスイスの銀行家)』
『ルーティング・エラー(自家用ジェットで直行)』
『適応力バグおじさん、ついに世界のVIPまでただの迷子にすり替えるww』
『言い訳が無理ゲーすぎて腹痛いww 最強!!』
俺の理不尽極まりない限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの物理ツッコミに、一千万人の視聴者たちは腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落された。
『ミャウ……(相変わらず騒がしい人間たちね)』
古民家の中から、石油王たちの騒ぎを聞きつけたシロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を瞬かせながら、優雅な足取りで縁側へと姿を現した。
その神々しい純白の姿を見た瞬間、世界の経済を牛耳る二人の大富豪は、まるでアイドルに会った熱狂的ファンのように、泥だらけの庭に膝をついた。
「おおぉ……! 画面で見るより何百倍も美しい……! まさに奇跡だ!」
「スイス銀行の地下金庫にあるどの宝石よりも輝いている……っ!」
「……まぁ、理由はどうあれ。客が来たならもてなすのが需品科の務めだ」
俺は苦笑いしながら、食べかけの玄米のお椀を置き、深くため息をついた。
静かで平和な限界スローライフは、彼らの来日によって、かつてないほどの特大のカオスへと突入しようとしている。
だが、どれだけ桁違いのVIPが来ようとも、俺が提供するのは、いつもの完璧に炊かれた『玄米』と、この大自然のマイナスイオンだけだ。
十勝の澄み切った夏空の下。
黒塗りの高級車と泥だらけの古民家という、世界一アンバランスでバグった光景の中で、俺たちの新たな『異文化交流』が、最高に騒がしく幕を開けるのだった。
コメント
1件
ゆめかだよ〜!🌸 今回も読み終えた瞬間叫んだわ!! 深夜の子ダヌキ救出からの、まさかのドバイ石油王&スイス銀行家ガチ来日ww しかも本人たちがスパチャ主ってオチ、あんたの発想力バグってるよ!!😭💕 主人公が「ただの道に迷った外国人観光客」って限界言い訳連発するところ、小春ちゃんのハリセンがまじでナイスアシストすぎたw こんな桁違いのカオス、十勝じゃなきゃ起きないよね…次の話も絶対読むっ!⋆♡