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第116話:大富豪と農作業。土にまみれるVIPたち
ドバイの石油王とスイスの銀行家。
世界経済を裏で操るトップVIP二人が、マイバッハの車列と黒服のSP部隊と共に十勝の限界集落へ物理的に降臨してから数十分後。
彼らは今、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を瞬かせる純白の神獣シロの前にひれ伏し、その神々しい毛並みを前に完全に語彙力を喪失していた。
「オーマイゴッド……! 画面越しでも美しいと思っていたが、実物の放つこのオーラ! まるで砂漠に湧き出るオアシスのようだ!」
「毛先の一つ一つにまで神秘が宿っている……! スイス銀行の金庫を空にしてでも、この猫の肖像画をルーブル美術館に飾るべきだ!」
泥だらけの庭で高級スーツと純白のカンドゥーラを汚すことも厭わず、シロを崇め奉る二人。
「……なぁ、小春ちゃん。あの二人、本当に世界的大富豪なんだよな?」
「そうですよ! スパチャの額も異常でしたけど、乗ってきた車もSPの数も本物じゃないですか! お兄さん、もっと危機感持ってください!」
俺は縁側でほうじ茶を啜りながら、深くため息をついた。
ひとしきりシロのマイナスイオンを浴びて満足したのか、二人はバサッと立ち上がり、キラキラとした瞳で俺を見た。
「マスター(主)! 私は決めたぞ! 我々も今日から、君のような『究極のスローライフ』を体験したい!」
「そうだ! 日々の株価の変動や企業の買収劇にはもう疲れた。この素晴らしい大自然の中で、君と同じように大地と共鳴する時間を過ごさせてくれ!」
『石油王と銀行家、まさかの限界集落ステイ宣言ww』
『大富豪のスローライフ体験(マイバッハ横付け)』
『主の胃袋とメンタルがマッハで削られていくww』
ジンバル越しのリスナーたちが大盛り上がりする中、俺は静かにほうじ茶の湯呑みを置いた。
「……なるほど。俺と同じ生活を体験したい、と」
「イエス! 満天の星空の下でスープを飲み、猫と戯れる……最高じゃないか!」
「お安い御用だ。少し待っていろ」
俺は無言で立ち上がり、物置へと向かった。
そして、戻ってきた俺の腕に抱えられていたのは、貸し出し用の『古いジャージ』二着と、泥のついた『緑色のゴム長靴』二足、それにホームセンターで買った『特用軍手(イボ付き)』の束だった。
俺はそれを、数十万円のスーツを着た銀行家と、特注のカンドゥーラを着た石油王の足元に、ドサッと投げ落とした。
「……マスター? これは?」
「履け。そして手袋をつけろ。スローライフとは、決して『何もしない怠惰な時間』ではない。自らの手で兵站(ロジスティクス)を確保するための、過酷な生存戦略だ」
俺は元・陸上自衛隊『需品科』としての冷徹な目で、世界のVIPたちを見下ろした。
「今は夏の収穫期。裏の畑には、村のおばあちゃんから管理を任されている新じゃがが山ほど眠っている。昼飯を食いたければ、自らの手で掘り起こせ。労働なき者に食料の配給はない」
「お、お兄さん!? 相手は世界のVIPですよ!? なんでいきなりガチの農作業(イモ掘り)させようとしてるんですか!!」
小春ちゃんが悲鳴を上げるが、俺の意志は揺るがない。
だが、さらに驚くべきは、VIPたちの反応だった。
「……労働なき者に、食料はない。なんという……なんという原始的で、力強い哲学だ!!」
#現代ドラマ
ゆうき あきや
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#心理描写重視
「素晴らしい! デジタルな数字のやり取りではない、己の肉体を使った純粋な価値の創造! これこそが私の求めていたものだ!」
二人は大歓喜し、ためらうことなく最高級の服を脱ぎ捨て(SPが慌てて受け取った)、俺が渡したジャージと長靴に着替え、軍手をはめた。
数分後。
十勝の広大な畑で、泥まみれになりながらスコップを振るう、石油王と銀行家の姿があった。
「おおおっ! 見ろバンカー! 私のスコップの下から、黄金色の塊(メークイン)が出てきたぞ!!」
「ハハハ! 私の掘り当てた男爵イモの方が大きい! まるで土の中に眠る金塊を採掘している気分だ!!」
「キュンッ!(手伝う!)」
コン吉とコン次郎も、楽しそうに前足で土を掘り返し、イモ掘りのサポートに入っている。
その様子を、一千万人のリスナーが腹を抱えて見守っていた。
『世界経済のトップが、十勝の畑でイモ掘りしてて草』
『マイバッハで乗り付けてイモ掘る男たちww』
『主の容赦のなさ最高ww 誰が相手でも兵站のルールは絶対ww』
『石油王、油田掘り当てるよりイモ掘り当てて嬉しそうじゃねぇかww』
数時間後、完全に体力を使い果たし、泥だらけになったVIP二人が、縁側にへたり込んでいた。
「ハァ、ハァ……! 信じられないほどの疲労感だ。だが、不思議と心は羽のように軽い!」
俺は彼らの前に、ふかしたてのジャガイモにバターを乗せたものと、いつもの完璧に炊き上げた『玄米』、そして大豆ミートの生姜焼きを並べた。
「食え。それが、あんたたちが自らの手で確保した兵站だ」
「……美味い!! なんだこのイモは!? 私の専属シェフが作るピュレより遥かに甘いぞ!」
「大地のエネルギーが直接体に流れ込んでくるようだ……! そしてマスター、君の食べているその茶色い米(玄米)も一口くれないか!?」
世界のトップ富豪が、泥だらけの顔でジャガイモと玄米を貪り食う。
俺はそのカオスな光景を背に、iPhone miniのカメラに向かってキリッとした顔で『限界言い訳タイム』を発動した。
「皆さま。彼らは決して世界的な大富豪などではありません。ご覧の通り、ただの農業体験ツアーに参加した熱心な外国人留学生です。日本の『ワーキングホリデー』の制度を利用して、十勝の農業を学びにきただけの、ピュアな青年たちですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、泥のついた軍手で俺の背中に愛あるスマッシュを見舞った。
「後ろにマイバッハ停まってるし! SPの人たちも畑の周りでガチの警戒態勢取ってるじゃないですか!! どこにこんな厳重警備の農業留学生がいるんですか!! 素直にVIPを顎で使った自分の図太さを認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの軍手スマッシュ炸裂ww』
『農業体験ツアー(マイバッハ三台とSP部隊付き)』
『純粋な外国人留学生(総資産ウン兆円)』
『適応力バグおじさん、ついに世界のVIPを留学生扱いww』
チャット欄が一千万人の大爆笑で埋め尽くされる中、俺は「痛ぇな」と苦笑いしながら、熱いほうじ茶を啜った。
『ミャウ(よく働いたわね、人間たち)』
シロが、泥だらけの銀行家の膝の上にポンと乗り、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「おおぉ……! 労働の後の、女神の癒やし……っ! 私は今、世界で一番幸せな男だ……!」
銀行家が感激の涙を流し、石油王も羨ましそうにそれを見つめている。
何もない限界集落。
だが、自らの手で土にまみれ、収穫の喜びを知り、神獣の癒やしに包まれるこの時間こそが、彼らにとっては何百億円積んでも買えない『世界一贅沢な体験』なのだろう。
十勝の澄み切った夏空の下。
俺のストイックな玄米生活と、VIPたちのバグった農業体験は、最高の笑顔とカオスを生み出しながら、平和な夕暮れへと向かっていくのだった。
コメント
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うわー、今回もカオスで最高でした!石油王と銀行家がシロにひれ伏すシーンから笑ったけど、まさか本気で「スローライフ体験」したいって言い出すとは思わなかった(笑)。で、主が陸自の「需品科」魂で容赦なく軍手と長靴とスコップを渡してイモ掘りさせる流れがもう…!「労働なき者に食料なし」って哲学が世界のVIPに刺さりまくってて、逆に感動すら覚えました。ジャガイモにバター乗せただけで「大地のエネルギー!」って泣く銀行家、完全に沼ってますね。小春ちゃんのツッコミも冴えてたし、何よりこの世界観の「適応力バグおじさん」具合がたまらない。読んでてすごく楽しかったです!