テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翔太は自炊をしないタイプらしく、日曜の夜まで、出前を取ったり、カップ麺を食ったりしながら2人でだらだらと過ごした。途中、一度家に戻ってゲームを持ってきたから概ね快適だった。日曜の夜、夕飯用に買ったコンビニおにぎりを食べ終えると、俺は重たい身体を引きずって、翔太の家を出た。
💙「家まで送ります」
💜「ああ、いいよいいよ。もう殆ど痛まないし。2日も世話になって悪かったな」
💙「でもそれじゃ俺の気が済まないので」
翔太は俺を家の近くまで送ると言って聞かない。仕方なく俺はその申し出に甘えることにした。
病院前を通り過ぎ、3日前に何となくキスしてしまった場所を通りがかる。道は暗く、人通りも少ない。俺は一人であの時を思い出し、顔を赤くしていた。すると、翔太が例の街灯の下でふと立ち止まり、俺の服の裾を引く。え?まさかのおかわりの催促??とまたしても鼻の下を伸ばしていた所へ、暗がりの中から一人の男が現れた。
🧡「翔太くん、その男、誰?」
そいつは関西なまりで、ひょろひょろの優男だった。顔はかっこいいけど、どことなくなよっとした印象だ。首から大きなカメラをぶら提げている。
🧡「彼氏おらんって言うてたやん。あれ、嘘やったん?」
💜「誰?」
💙「スーパーの…」
ああ、とすぐに合点がいった。アレか。翔太をストーキングしているとかいう…。
💜「俺が彼氏だよん」
「え?」と驚く翔太の声と「は?」と憤慨する男の声がハモった。
💜「だから、俺たち付き合ってるの。しっしっ!外野はもう諦めなさい」
男を本当に犬や猫のように払うと、男は嘘やん…と喘ぐように呟いた。
🧡「証拠見せてや」
💜「俺の言葉を信じなさ…んっ!!…」
いきなり翔太に胸元を掴まれて下から唇を奪われる。
思いがけず柔らかい感触再び…。
男は後ずさりをして、躓き、尻もちを着くと、そのまま逃げるように去って行った。
💙「…すみません、いきなりキスしてしまって。それと、ありがとうございました」
💜「いんや…」
そう返事をしつつも、またまたドックンドックンと胸の動悸が止まらない。
俺、心臓病なのかなもしかして。
翔太は特に今のキスを気にした素振りもなく、それどころか、白い手を俺の手に絡ませてきた。
💙「行きましょう」
それから二人で俺の家まで手を繋いだまま帰った。意味が解らなかったけど、この時のすべすべした冷たい手の感触はよく憶えている。
◆◇◆◇
💛「ふっか。どうしたよ。ぼーっとして」
学校に着き、下駄箱を開けると、いつもの通りに可愛い封筒が何通か入っている。まとめてぐしゃっと丸め、ポケットにそのまま突っ込むと、一緒に登校していた照が怪訝そうな顔をした。
💜「んぇ?何が?」
💛「だっていつも俺に何通来たか自慢してくんじゃん。今日それ、しないから」
💜「は?そうだっけ」
💛「変だな…熱でもあんのか」
おでこに手をあてられそうになって、慌てて避ける。昨日の夜から何だか頭がぼーっとしてる。考えたくないけど考えてしまう、翔太のこと。
💛「モテることだけが生きがいのお前がマジでどうかした?」
なおも照は食い下がって俺の顔を覗き込んで来る。正直言って鬱陶しい。俺は適当なことを言った。
💜「俺たち受験生よ?そんな浮かれた気持ちでどうすんだってことよ」
🩷「へえ。深澤。やっと3年生の自覚を持ってくれたか」
💜「……げ」
ちょうど廊下の向かいに立っていた、ジャージ姿の担任につまらないことを聞かれてしまった。担任の佐久間は、にゃは、と独特の笑い方をし、腕組みをしてこちらを見ている。背の低い佐久間を見下ろすようにしている照は、佐久間、今日も可愛い、と気持ち悪いことをぼそりと呟いた。
そうだ、男同士の恋愛に何となく拘っていたけど、親友の照は佐久間にゾッコンなんだった。
後でそこら辺の話、聞いてみるか。
💛「先生、おはようございます♡」
🩷「うん。照はいつも元気でいいな」
佐久間はにこにこと照の頭を撫でる。この担任は、スキンシップが重要と考えてるタイプのようで、背伸びしてまで背の高い照の頭をナデナデしている。照の方はと言うと、大分デレデレして喜んでいた。
🩷「進路希望、出してないのお前だけだからな。早く提出しろよ、深澤」
💜「へいへい」
佐久間に言われて、延び延びになっていた進路のことが頭をよぎる。
💛「お前、先生に迷惑かけんなよ」
ドスの利いた声で教室に入りながら照に注意されるが、俺だって悩んでるんだちょっとは。
席に着き、よれよれになった進路希望表を取り出す。空欄のままの進学・就職の二択。それに、第一希望、第二希望…の文字。
俺は将来、何になりたいんだ?
ぶっちゃけちゃえば楽で稼げる仕事がいいけど、俺は頭も人並みだし、スポーツが得意なわけでもない。特にずば抜けて優れていることがこれと言ってあるわけでもない。金がかかる私立大学は論外だし、いっそ就職したほうがいいのかな…でも遊ぶ時間減るしな。ママ活でもするか…。でも若い子の方が好きだし……。
💜「ああ、わかんねぇ…!!」
取り出したはいいものの、結局何も書けず、また進路希望の紙はさらにぐしゃっとなって胸ポケットにしまいこまれてしまった。
◆◇◆◇
💜「なあ、お前と佐久間ってどこまでいってんの?」
💛「ぶっっっ!!!」
💜「……汚ねぇな、飛ばすなよ」
目の前で弁当をがっついてるところを、そんな質問をしたものだから、照は盛大に飯粒を俺に飛ばした。
💛「な、なんで?」
💜「バレてねぇとでも思ったのか。放課後、時々二人で会ってるだろうが」
💛「…………」
照の顔がたちまち赤くなる。
俺は知ってるんだぞ、空き教室で二人で親密そうにしてんの。俺は購買で買ったメロンパンを齧りながら照の次の言葉を待った。
💛「清い交際しかしてねぇよ。まだ俺生徒だし」
💜「ふーん。でもいつかはしたいと思ってんだ?お前としては」
💛「そりゃな。俺だって男だし」
💜「あっちも男だよ」
💛「まあそうだけど」
俺は照の目をじっと見る。
💜「抵抗とかなかったのか?男同士とかっていう…ほら…」
照はウィンナーを飲み込むと、箸を振りながら言った。
💛「あんまねぇな。だって先生可愛いし。好きな気持ちに男も女も関係ねぇだろ?」
💜「そんなもんかねぇ」
💛「何が言いたいんだよ?」
💜「だって照、童貞じゃん」
ごんっ。
今度は本気の鉄拳が飛んできて、目から火花が飛び散った。マジのダメージをやり過ごし、やっと目の焦点が合うと、照が言う。
💛「セックスに男も女も関係ない。俺は先生とならヤレる」
💜「ごめんて」
鼻息荒い照の言葉を聞いて、なんだか俺は胸がじんとしてしまった。そして思ってしまった。もしこのふわふわした気持ちの正体が本物の恋愛感情なら、俺は翔太を抱けるかもなって。
コメント
2件
いわふかの絡みも最高です!!