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二年後、飲食業界最大手と言われていた、篠宮ホールディングスのスキャンダルは世間を賑わせた。
母の実家の國見家も、かなりの風評被害を受けたそうだ。
いっぽうで國見家からは尊に対して正式な謝罪があり、彼はそれを受け入れた。
父は本社社長を辞任し、子会社の社長に収まる事となる。
次期社長について話し合う席で、尊は祖父や役員、株主たちを前にこう告げた。
『篠宮怜香の罪について、結婚したというのに私の母の元へ通い続け、子供までもうけた父、篠宮亘にも大きな責任があります。その意味で父への処分は妥当なものと思います。ですが兄、篠宮風磨については、今回の事件に一切の関与がなく、私が篠宮怜香を断罪するつもりでいると言ったあとも、協力的な態度をとってくれました。兄は能力がありますし、今後も篠宮ホールディングスを牽引していく大きなカリスマとなるでしょう。個人的な意見となりますが、私は兄に社長を就任してもらいたいと思っています』
尊がそう思っていると思わず、俺は驚いた顔をするのを必死に堪える。
同時に、彼がそこまで俺を信頼、評価してくれている事を嬉しく思った。
相変わらず自分という男については、他の皆が言うほどカリスマ性もなく、叶うならのんびりと過ごしたい、だらけた人間だと自称している。
けれど弟がそのように期待してくれているなら、応えなければ兄ではないと思った。
それに両親の代わりに俺が篠宮ホールディングスを守り、今度は後ろ暗い所のない、クリーンな会社だと世間に知らしめなければ、という使命感もあった。
そして尊がこうやって俺を押し上げた真意の裏には、『ちゃんと〝社長〟をやって、会社についたマイナスイメージを払拭しろ。それが長男であるお前の責任だ』という気持ちがあるように思えた。
――頑張らないと。
――俺は長男だから。
今まで篠宮家の本家長男である事にメリットを感じた事なんてなかったが、今感じている重圧は、俺を良い方向へ成長させてくれると感じた。
尊には上村朱里さんという恋人ができ、弟がもう孤独ではない事を知った俺は、心底安堵した。
エミリと朱里さんはすぐに打ち解け、ずっと前から〝兄弟〟だった俺と尊に比べ、本当の姉妹のような仲になっている。
こういう時、不器用な男より、社交性、共感性の高い女性は凄いな、と感じる。
そして俺と尊も、彼女たちの影響を受けて少しずついい方向に変われている。
今日、俺は拘留されている母の面会に行った訳だが、事前に父から母とどのような会話をしたかも聞いていた。
父と会ったのは数週間前、七月の終わりぐらいだ。
久し振りに赤坂の実家へ行くと、今は家政婦さんが通いで来る以外は父が一人で暮らしているからか、閑散とした印象に感じられた。
豪邸と言える家だが、この家には温かな思い出はほぼなく、どこを見てもいまだに母のヒステリックな怒鳴り声が脳裏に蘇りそうだ。
それぐらいこの家での記憶は、ストレスとワンセットになっている。
『元気?』
リビングのソファに腰かけている父に話しかけると、父は力なく笑った。
『それなりに』
『やつれてるけど、ちゃんと食べてる?』
『……努力はしてる』
以前も活力に満ちているようには感じられなかったが、今の父は余計に元気がないように思える。
『新しい生活は?』
『まぁまぁだ』
会話をしながら、父とはずっとこういうやり取りしかしていなかったと思った。
基本的に父は俺に興味がなく、テストで百点をとったとか、全国模試で何位だったと報告しても『そうか、頑張ったな』だけ。
一言答えるだけで、それ以上掘り下げて子供の状況を知ろうとする人ではなかった。
父の向かいに座った俺は、溜め息をついてから言う。
『そろそろ、母さんに会いに行こうかと思ってる』
『そうか』
また、父は一言しか返事をしない。
こういう父を目の当たりにしているだけに、エミリとの間に子供が生まれたら、もっと話しかけてコミュニケーションの多い親子になりたいと強く思った。
コメント
1件
弟が兄を社長に推すシーン、本当にぐっときました。あれだけの確執を乗り越えて、尊から「信頼している」と伝えられる——兄としても、長男としても、これ以上の励ましはないですよね。それに「ちゃんと社長をやれ」という無言のメッセージも感じ取るところが、この兄弟の絆の深さを物語っていて。父との温度差のある会話も切なくて、でも次の世代はきっと違う家族を作っていくんだろうなと思わせてくれる、温かい回でした。
上野文
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臣桜
50,509
五來 小真
29
#シングルマザー