テラーノベル
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それは、最初から嘘だった。
そう思ったのは、
君の声を思い出そうとして、できなかったときだ。
好きだよ。
確かに、そう言われたはずだった。
放課後の校舎裏。
夕方の風。
他愛ない話の途中で、君は少し困ったように笑って、
その言葉を口にした。
少なくとも、私はそう覚えている。
けれど、その場面を何度思い返しても、
音だけが抜け落ちている。
口の動きはあるのに、
肝心な言葉が聞こえない。
翌日から、私たちは何も変わらなかった。
君は普通に話しかけてきて、
私は普通に返事をした。
昨日のことには、
一切触れられなかった。
触れてはいけない話題のように、
そこだけ、空白になっていた。
「昨日さ」
そう切り出しかけて、
私は言葉を飲み込んだ。
もし、あれが本当にあった出来事なら、
君のほうから何か言うはずだ。
そう思うことで、
私は自分を納得させた。
それでも、期待は消えなかった。
少し近づいただけで、
胸が痛くなる。
目が合うだけで、
意味を探してしまう。
君の何気ない一言が、
全部、特別に聞こえた。
でも、それは私だけだった。
ある日、友人に聞いてみた。
「私と君、どう見える?」
返ってきたのは、
少し考えたあとの、首をかしげる仕草。
「普通の友達、じゃない?」
その答えが、
ひどく現実的で、
どうしようもなく正しかった。
帰り道、
あの日と同じ場所を通った。
夕方の風も、
景色も、変わっていない。
変わったのは、
私の中にあった何かだけだ。
もしかすると、
君は何も言っていない。
私が、
そう聞きたかっただけなのかもしれない。
期待して、
勘違いして、
勝手に傷ついただけ。
それなら、全部説明がつく。
でも、そう思おうとすると、
胸の奥が、少しだけ否定する。
確かに、
あのとき君は、
何かを言おうとしていた。
それを、
私が都合よく受け取ったのか、
それとも、聞き逃したのか。
答えは出ない。
君は今日も、
いつも通りに笑っている。
その笑顔が、
優しいのか、残酷なのか、
もう判断できなかった。
好きだと言われた記憶も、
言われなかった現実も、
どちらも、私の中では同じ重さで残っている。
だから、思う。
あの言葉が嘘だったのか、
それとも、
嘘だと思うことで守ろうとしているのか。
その境目は、
最初から、どこにもなかった。
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