テラーノベル
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それは、最初から嘘だった。
目覚ましが鳴って、私は起きた。
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
スマホを確認すると、いつもと同じ時刻。
ニュースも、天気予報も、特別なことは言っていない。
今日は、晴れ。
最高気温は平年並み。
キッチンに行くと、母が朝食を作っていた。
「おはよう」と言われて、「おはよう」と返す。
味噌汁の味も、
焼いたパンの匂いも、
昨日と変わらない。
家を出て、駅へ向かう。
人の流れに逆らわず、
改札を通り、電車に乗る。
車内のモニターには、
「本日も平常運転です」と表示されていた。
学校に着く。
授業が始まり、ノートを取る。
先生の声は少し眠くなるくらい、普通だ。
違和感は、何もない。
ただ一つだけ、
説明できないことがあった。
「今日」という日が、
どこにも書いていない。
教室のカレンダー。
職員室前の掲示。
黒板の隅。
日付が、空白だった。
誰も気にしていない。
私だけが、それに目を止めている。
昼休み、友人に聞いた。
「今日って、何日だっけ?」
少し考えてから、
友人は笑った。
「何言ってるの。今日でしょ」
その答えが、
冗談なのか本気なのか、分からなかった。
帰り道、街は変わらず賑やかだった。
店も、信号も、看板もある。
でも、どの時計も、
同じ時刻を指している。
動いていないわけじゃない。
最初から、その時間で固定されているみたいだった。
家に帰ると、母が言った。
「今日もお疲れさま」
“今日も”。
私は、急に怖くなった。
今日が、昨日の続きなのか、
それとも、
最初から繰り返されているだけなのか。
夜、ベッドに入る。
スマホを見ると、日付表示が消えていた。
時間だけが、残っている。
明日になれば、
全部元に戻る。
そう思って、目を閉じた。
目覚ましが鳴る。
カーテンの隙間から、
同じ角度の光が差し込んでいる。
スマホを手に取る。
ニュースは、同じ内容だった。
「本日も、平常運転です」
その文を見た瞬間、
ようやく理解した。
異常が起きていないこと自体が、
異常なのだと。
この一日が嘘なのか、
世界が嘘なのか、
私の認識が嘘なのか。
誰も答えない。
ただ、
「いつも通り」が、
完璧に再現され続けている。
それを、
疑ってしまった私だけが、
今日から外れてしまった。
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