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クラスメイトが事故死して、教師が自殺した。そして友人がゾンビにされた。次々に起る異常な事態、それでも日常は続いていることに、僕は奇妙な感覚を覚えた。
「…………」
僕は窓の外を見た。空には白い雲が流れていく。いつもと変わらない風景だ。新任の英語の先生は、自分は白魔術師だと名乗り、この学校に黒魔術師が潜んでいる、と言った。普通ならとても信じられない。だけど、僕は友人の加藤拓海の変わり果てた姿を見てしまった。あれから2、3日しかたっていないなんて、信じられない思いだ。
「ん?」
ふいに視線を感じた。教室の扉の方を見る。すると一人の女子生徒がこちらを見ていた。彼女は無表情で僕を見つめている。僕は彼女のことをよく知っている。僕のクラスメイトで、拓海の彼女だ。名前は佐々木絵美という。彼女は僕の方を見て、何か言いたげな顔をしている。でも何も言わなかった。
「……」
そういえば、昨日の放課後も彼女は僕の方を見ていたような気がする。その時は何とも思わなかったけど、今になって考えると気になる。まさかとは思うけれど……?
そんなことを考えながら授業を受けているうちに昼休みになった。僕は弁当を持って立ち上がる。そして一人で屋上に向かった。ここなら誰も来ないだろう。屋上に出ることは禁止されているからだ。でも僕と拓海はよく……。
僕は屋上に出る扉を開いた。ギイィッと音がして扉が開く。風が吹き込んできて前髪を揺らす。今日は天気が良くて気持ちが良い。僕はベンチに座って弁当を食べ始めた。食べ始めてすぐに、屋上の扉が開かれた。誰か来たようだ。僕は顔を上げると、そこにいたのは……
「えっ!?」
思わず声が出る。そこにはなぜか佐々木絵美の姿があった。彼女は黙ったまま僕の隣に座る。そして自分の鞄の中から弁当を取り出した。
「僕に何か用?」
「私もよく分からない。ただ何となくここに来てみただけ」
「そっか」
僕と拓海は仲が良かった。だけど、僕は佐々木とあんまり話したことがない。拓海から彼女と付き合うことになったと聞いたときは、少し意外な気がしたものだった。彼女は拓海とはタイプが違ういわゆる優等生で、だから僕は正直言って彼女が苦手だ。
「……」
彼女は黙って弁当を食べる。僕も同じようにして食べた。しばらく沈黙が続く。その沈黙を破ったのは意外にも彼女だった。「ねえ、あなたはどう思った?」
「何を?」
「拓海の事故のこと」
彼女は箸を置いて聞いてきた。僕は答える。
「さあね……。何とも言えないよ
」本当のことを言えないというのもあったけれど、これは素直な感想だった。拓海が死んだこと、僕はまだ実感できずにいた。だってあまりにも突然のことだったのだ。それに、僕たちは今まで普通に過ごしてきたはずだった。それなのにどうしてこんなことになってしまったのか、本当に理解できない。
「そう……」
彼女は再び箸を手に取ると弁当を食べ始める。僕もそれに倣って食べることにした。やがて弁当を食べ終わると、彼女は立ち上がった。そして言った。
「じゃあ私はこれで失礼するわ。お邪魔しました」
「うん。……その、何の力にもなれなくて、ごめん」
僕は手を振る。彼女は軽く頭を下げると階段を下りていった。一人残された僕は空を見上げる。雲一つない青空が広がっていた。
午後の授業が始まった。
先生は教室に入って教壇に立つと、生徒たちに向かって語りかけた。
「ああ、今日は授業の途中で避難訓練がある。ベルがなったら速やかに下に降り、体育館に集合してくれ」
それだけ言うと先生は教科書をひらいて、前回の授業内容の確認を始めた。
「避難訓練かぁ……」
「面倒くさいな……」
みんな不満そうだ。それも無理はないと思う。今は教師や生徒が次々と死ぬという異常事態が起きている。避難訓練どころではないというのが正直な気持ちだろう。しかし、結局僕らはその指示に従うしかなかった。
ベルが鳴ると、全員が急いで教室を出た。校舎の中を駆け抜けて、一階にある体育館に向かう。ところが――
「おい、防火シャッターが開かないぞ。どうなっているんだ?」(続く)