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「おい、防火シャッターが開かないぞ。どうなっているんだ?」
先頭を歩いていた生徒が大きな声を出した。おまけに、辺りは少しずつ煙が充満しつつあった。
「どうすればいいんだよ!」
誰かの声が聞こえた。僕は、煙を吸い込まないように息を止めると、そっと元来た道を戻り始めた。すると、後ろから先生達が走ってやってきた。彼らは慌てた様子で言う。
「みんな落ち着け! とにかく外へ出ろ!!」
「外に出ろったって、どうやって……」
動揺が広がる中、煙を吸い込んだ生徒がゴホゴホと咳をし始めた。そして、ひとりがぱたりと倒れた。
でも大丈夫だ。僕は知っている。この煙には、睡眠ガスの成分が含まれているだけだ。これこそが、ゾンビをあぶりだす作戦として、僕が先生に提案したものだ。ゾンビは眠らない。だったら、睡眠ガスをばらまいたあと、立っていられるのは、ゾンビと、あらかじめ準備していた僕達だけだ。
普通ならこんなことをしたら大事件だけど、先生が属している組織は、こんな大規模な出来事でも隠蔽できるらしい。
「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
他の男子生徒が倒れる友人に声をかける。
「うぅ……ん」
友人は苦しそうにうめくと、そのまま動かなくなった。しばらく混乱が続いたが、やがて静かになった。僕は、隠れて先生から渡されていたガスマスクをつけ、様子をうかがっていた。
「……よし、誰もいなくなった」
みんな眠った。ということは、少なくとも、この中にゾンビはいないわけだ。それを確認すると、僕は体育館を目指した。体育館に着くと、何人かの人影があった。そこにいたのは、先生と外国人の講師、佐々木絵美、それにもう一人女子生徒がいた。確か彼女は、佐々木の友達の佐藤里香という名前だったはずだ。
「佐藤さん、無事だったのデスね」
外国人講師のロバート・ホフマンが声をかけていた。佐藤は少し震えながら言った。
「ええ。でも、私以外の人は皆倒れて……」
「そうデスね……。でもあなただけでも助かったのはよかったデス。さあ、早くこっちへ来て」
佐藤の手を引いて、講師は他の人がいる舞台の上へと連れて行く。僕はその後を追った。
「みなサン、よく聞いてくだサイ。今の状況はとても危険です。もし外に出るなら、必ず二人以上で行動してクダさい」
「そんな……。私、怖くて動けません」
佐藤は泣きそうな声で言った。
「なら、ここに残っていてもいいですよ。ただし、ここにいる限り安全だという保証はありませんけどネ」
「……分かってます」
佐藤はしぶしぶと言った感じで返事をした。すると、今度は佐々木が口を開いた。
「あの、先生。私もここに残ります」
「そうですか……。では、お二人はここで仲良くしていてくだサイ」
そう言うと、先生は舞台から降りていった。そして、僕らに向かって言った。
「いいデスね。絶対に一人にならないように」
「分かっています」
と、そこに先生が口をはさんだ。
「佐々木と佐藤がここに残るとして。人数的に俺とあんた、それから秋川に動くことになるわけだが。その前に確認しておきたいことがある。俺は、みんなが倒れたのはあの煙が原因じゃないかと思っている。そこで聞いておきたい。あんたたちは、なぜ無事だった?」
「それは……」
僕は先生と打ち合わせて、答えを用意しておいた。
「僕は、教室にスマホを忘れちゃって。途中で教室に引き返したんです。たぶん、それで煙を吸わずに済んだんじゃないかって」
「なるほどな……。あの煙は低い場所にとどまっていた。確かに、そういうことなら納得できる」
先生はうなずく。僕は続けて質問した。
「先生こそ、どうして平気なんですか?」
「ああ……、実はな、俺は煙を見ておかしいと思って、下まで降りずに職員室に電話していたんだ。今日の避難訓練で煙を使うなんて聞いていなかったからな。何か非常事態でもあったのか、確認したかったんだ」
「じゃあ、この煙が避難訓練のものじゃないってことは知っていたんだ……」
「まあ、そうだ。だから、煙を吸わないうちに体育館に逃げてきた」
ここまでは先生との打ち合わせ通りだ。問題は、ここからだ。佐々木、佐藤、外国人講師……この三人の中に、ゾンビや黒魔術師が紛れ込んでいるのだろうか?(続く)
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