テラーノベル
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翌週、彼の誕生日の週がやってきた。たまに〈元気?〉とメッセージがくるので〈元気〉と返すだけの日々を過ごしていた。
木曜日のお昼休みに社食で小泉さんと松井さんに会ったので、成り行きで一緒にお昼を食べることになった。
「そういえば、白田さん忙しそうですね」
「え?」
「今週は用事があるって一週間休んでるじゃないですか」
「そうなの?」
「えっ」
逆に驚かれてしまった。
「あー、最近ちょっと会えてなくて」
「そうですよね。新しいことを始めるのって大変ですものね」
ん?
「軌道に乗ればまたたくさん会えますよ」
なんか励まされてしまった。新しい? 軌道?
もうわけがわからなくなった。彼女(のはず)の誕生日を監督のせいでドタキャンして、女に大好きと言われ、一週間会社休んで、新しいことを始める? そして、彼の誕生日には会えない。
何が起こっているのか。もしかしたら私は完全な部外者、いわゆるモブなのかもしれない。ってわけで別に何も起こっていないのかも、そんなアホなことを考える。
「やっぱり夢だったのかー」
マンションに着くと入り口に夢で見た男が立っていた。オートロックだから入れなかったのねー
……って!
「白田くん! どうしたの!」
「最近会えないから来ちゃった」
自分のスマホを確認してみる。彼から〈会いたい〉とメッセージが来ていた。
「ごめんね! 気づかなかった。寒かったでしょ、入って」
「やだ風邪ひいちゃう。温かいお茶淹れるね。座って待っ……」
後ろから抱きしめられていた。夢にまだ続きがあるのか。サービスかな。
「話があるんだ」
なんだ、サービスタイム終了か。
「じゃあ、お茶を淹れるから、座って話そう?」
私は彼の腕を抜けて、お茶を淹れることに集中した。何を聞かされても泣かないように、頭の中で某子供向けアニメの主題歌を熱唱していた。
私たちは何故かソファの下の絨毯に向かい合って座っていた。
そして彼が、頭を下げた。土下座に近い下げ方。
次に来るのは「ごめん、別れよう」かな。
「ごめん」
はい、いただきました。
「今日聞いたんだ、この前片岡と会ったって」
「……片岡? あ、監督さん?」
「で、あいつ余計誤解させるようなこと言っちゃったかもしれないって今更謝ってきてさ」
「……?」
「……」
「あの」
「うん?」
「正直なところ、何が誤解なのかも、今何を謝られているのかも、私たちの今の関係もこれからの関係も、夢なのかも、何もわからないの。初めから話してくれない?」
「えっ、夢? あ、うん。そうだね、えっと……」
彼が一つ一つ話してくれた。
「誕生日の日、レストランとホテルを予約してて、プレゼントも用意してやる気満々だったんだ」
私は自分の耳が赤くなるのを感じた。
「そしたら、片岡から緊急事態だど連絡が来てさ、行ってみたら、片岡と劇団の若い女の子と、由梨がひどく揉めてて」
「由梨さん?」
「あ、姉貴。俺を介して知り合って片岡と結婚してるんだ。だから、片岡とは義理の兄弟になるんだ。で、今妊娠中」
「はぁ」
「姉貴の妊娠がわかってから、一度キャバクラ行ったのがバレて大喧嘩したばかりなのに、今度は劇団の若い女に手をつけたと思い込んで、乗り込んで行ったらしいんだ。彼女は本当に今後のことで相談したかったらしくて、それは俺でも良かったみたいなんだけど、俺は美里さんの誕生日があるから断っちゃっててさ」
「へぇ」
「で、俺が行って説明してたら、由梨、姉貴がお腹が痛いとか言い出して、病院に連れて行ったりしてたら夜中になってた」
「あらまぁ」
「姉貴の勤め先と、その友人の企業が俺たちの新しい劇場のスポンサーだから、そのこともあって、必死に説明してなんとかわかってもらえたんだけど」
「劇場? スポンサー?」
間抜けな返事しかできないながらも頑張ってついていっていたつもりだったが、理解し始めていた話が、またわからなくなってきた。
「そう、そこからだよね。ごめん。誕生日に話そうと思ってたんだ」
「昨日はありがとやっぱ裕二大好きハート×3は?」
「それか! 片岡がゴチャゴチャ言ってたのは。姉貴だよ」
そう言って白田くんはメッセージ一覧の〈由梨〉という人とのメッセージを見せてくれた。
明日実家に帰るから裕二もおいでよとか、旦那が帰ってこないんだけど一緒? とか、本当に姉弟らしい会話をしていた。そして、あのメッセージ。
〈病院の送迎までありがとう。頼りになる弟で姉は誇らしいよ〉
〈検査の結果は異常なしでしたテヘ〉
〈昨日はありがとやっぱ裕二大好きハート×3〉
そしてその後に、
〈彼女に私の分まで謝っといてねよろしく。今度会わせてね〉
とあった。
「別にわざわざ見たわけじゃないの。キッチンに行こうとしたらスマホが光って目に入っちゃったの」
今度は私が言い訳をしていた。
「聞いてくれればよかったのに」
「自信がなかったの。だって、私たち付き合っているのかわからなかったし」
「えっ。あんなことしてて付き合ってないつもりだったの?」
「だって、だって……」
絶対に泣かないって決めていたのに、涙は待ってくれなかった。彼は私を抱き寄せて、
「好きだよって言ったよね」
そういえば聞いたし、私も言った。
「うん。でもお互いの誕生日にも会えなくてもう終わりなのかと思ったの」
「美里さんの誕生日に、プロポーズするつもりだった。今すぐってわけじゃないけど」
「へっ」
「俺の誕生日の日の話もね、その日にするつもりだったんだ。だけど、プロポーズはちゃんとしたかったから、また次にしようとして、そのせいでそっちの話も後回しになっちゃって不安にさせてごめん」
「そっちの話って、さっきの劇場がって話?」
「そう。片岡と俺と、もう二人いるんだけど、もっと若い俳優が活動できる場を作ろうと前から計画してたんだ。で、いつも使っている劇場を閉めるって言うからそこを安く買い取らせてもらってさ。俺たちは監督や俳優、裏方なんでも屋として起業することにしたんだ。俺も今年で三十だから定職を自分で作ろうと思って。スポンサーも複数見つけてあるし、しばらくの劇の予定も入ってる。収入は波があると思うけど二人でちゃんと暮らせる、はず」
「そうなんだ……」
「で、今週末、誕生日なんだけど、こけら落としパーティーがあって、本当だったら美里さんを連れていきたかったんだけど、たぶん俺忙しくて美里さんを一人にしちゃうと思ったから」
「言って欲しかった」
「でも電話してももう寝るって言われちゃってたし」
「そっか。そうだよね。私が勝手に信じきれてなかった」
「まだ何か疑ってることとかある?」
「ない」
私は彼の胸に顔を埋めてキュッと抱きしめた。ほんのちょっと期間が空いただけなのにすごく久しぶりな感覚だった。
日暮ミミ♪
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latte
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#溺愛
星キラリ

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楽地みどり
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コメント
1件
第16話、読み終わりました……! よかった、本当によかったです。白田くんが土下座してちゃんと説明してくれるシーン、読んでてこっちまでほっとしました。あの「好きだよって言ったよね」の台詞、優しさが滲んでて最高でした。そしてプロポーズの話……! 思わず「おお」って声が出ました。誤解が解けて、お互いの気持ちが通じ合う瞬間の温かさが丁寧に描かれていて、とても心地よかったです。設定も複雑なのにきちんと回収されていて、気持ちよく読めました。楽地さん、素敵なエピソードをありがとうございます!