テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
土曜日の昼。
道枝駿佑は、自分でも信じられない行動に出ていた。
駿佑:「はじめまして、道枝です。今日はよろしくお願いします」
彼が立っていたのは――地域の小さな児童施設の入り口。
丈一郎の「ボランティアやってみたら?」という提案に、
「誰かの心を動かしたい」と願った自分の気持ちを重ねて、思い切って応募してみたのだ。
施設の中では、ちょうど小学生たちが遊んでいる時間だった。
小学生:「お兄ちゃん!こっちこっちー!」
小学生:「うわ、イケメンやー!」
小学生:「えー、芸能人ちゃうん?ほんまに?!」
――駿佑、あたふた。
駿佑:「え、ちょ、ちょっと待って!?順番順番!」
でも、気づけば自然に笑っていた。
駿佑:(……誰かに“見られてる”ってプレッシャーやと思ってたけど、“期待されてる”って思ったら、ちょっと違うかも)
子どもたちと工作をしたり、かくれんぼをしたり。
夢中になって時間が過ぎた。
帰り際、ひとりの男の子がそっと駿佑に折り紙を差し出した。
小学生:「これ、あげる。お兄ちゃん、なんか……ヒーローみたいやった」
駿佑:「……え?」
小学生:「オレ、お兄ちゃんみたいになりたい」
その言葉が胸に刺さった。
駿佑:(“心を動かしたい”って思った俺が、逆に“動かされた”)
帰り道。
スマホの進路希望調査票をもう一度開く。
【第一希望:心理カウンセラー】
【その理由:誰かの心に寄り添える人になりたいから】
駿佑:(まだ、ちゃんとした理由にはなってないかもしれへん。でも――“好き”や“憧れ”から始めてみたって、ええよな)
シェアハウスに帰ると、みんながリビングでゲームをしていた。
和也:「おかえり〜! って、え!?その顔どうしたん!?めっちゃ晴れやかな顔してるやん!」
と、和也。
恭平:「ついに彼女できた?」と、冗談を飛ばす恭平。
駿佑:「ちゃうわ! ……いや、まあ……ちょっと、自分の“やりたいこと”見えてきただけ」
謙杜:「おっ!みっちーが見つけた“初めての夢”ってやつか〜」と謙杜がニヤニヤ。
駿佑:「……うるさいって。でも、うん……ちょっとな」
顔を真っ赤にしながら笑う駿佑の表情は、どこか誇らしげだった。
そして、真理亜が静かに言った。
真理亜:「……それって、すごいことやと思うよ。“自分のままで誰かの力になりたい”って思えた瞬間が、一番強いから」
その夜――
駿佑は、久しぶりに自分の名前に誇りを持てた気がした。
“道枝駿佑”という一人の人間が、
“何者かになろうとする”物語が、静かに動き出していた。