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駿佑:「恭平〜、朝から鏡見すぎやって!」
恭平:「いやいや、これは確認や。顔のコンディションは一日のテンションに関わるからな」
朝のリビングは、今日もにぎやかだった。
シェアハウスの洗面台を独占するように立っていた恭平は、ウインクとピースを鏡に向かって飛ばしていた。
恭平:「うん、今日も完璧☆」
誰がどう見ても自信満々のナルシストキャラ。
それが、高橋恭平の日常だった。
でも――
その夜、シェアハウスの皆が寝静まったあと。
恭平は一人、自分の部屋の隅に座っていた。
スマホの画面をぼんやりと見つめながら、SNSのコメント欄をスクロールする。
「かっこいいけど、頭悪そう」
「どうせ中身ないんやろ」
「顔だけのやつってほんまつまらんよな」
恭平:(……なんやねん、これ。結局、“顔だけ”しか言われへんやん。なんも知らんくせに、勝手に決めつけやがって)
スマホをベッドに投げたあと、鏡に映る自分を見た。
恭平:「……お前、ほんまにこれでええんか?」
自分に問いかけたその声は、思っていたよりも冷たかった。
――次の日、放課後の学校。
女子生徒:「恭平くんって、ほんまナルシストやんな〜!でも、そういうとこ可愛いから許す!」
女子に囲まれて笑われながらも、恭平は心の中で笑えていなかった。
恭平:(“そういうキャラ”でいた方が、楽やし。黙ってても“面白い奴”って思われるし。……でも)
その日、帰り道を一人で歩きながら、ポケットの中の捨てられずに持っている紙切れを握りしめた。
それは、小学生の時に担任が書いてくれた“将来の夢”の作文のコピー。
「ぼくは、絵を描く仕事がしたいです。ぼくの絵で人をわらわせたいです」
恭平:(……あのときの俺は、まだ“自分”をちゃんと持ってた。今の俺って、ただの“キャラ”やん。ほんまの自分なんか、誰も見てくれへん)
シェアハウスに戻ると、真理亜が玄関で荷物を持っていた。
真理亜:「あ、恭平くん。タイミングよかった。今日、私ちょっと残業で遅くなるから」
恭平:「おーけー。俺が家の守護神になっとくから大丈夫☆」
そう笑いながら、エプロンを受け取る。
でもその笑顔も、鏡の前とは違って、どこか揺れていた。
リビングで一人、ふと呟く。
恭平:「……なぁ、みんなは“ほんまの俺”を知ったら、引くんかな」
笑うのが好き。
でも、笑わせる“自分”がウソくさくてたまらない夜もある。
本音を隠して生きることがクセになっていた恭平。
けれど、その“仮面”がそろそろ剥がれはじめる予感がしていた。