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みら

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1件
ああ…第38話、読み終わりました。温泉旅行の夜の、賑やかでありながらどこか静かな空気感がとても素敵でした。ゲームに興じる9人の笑い声や、阿部くんが感じる「傷だけじゃない、今ここにある温かさ」――天使の言葉を思い出すシーンが特に好きです。それでいて最後の深澤さんの背中…あの、ずっと場を回していた人が一人窓辺に座る余白に、また別の物語がある気がして、胸がぎゅっとなりました。みらの描く空気感、大好きです。
38
部屋へ戻ると。
さっきまでより。
さらに賑やかになっていた。
佐久間とラウールは、もうアイスを食べ終えている。
康二は窓際で夜景を撮っていた。
岩本は畳の上に座り。
深澤は、まだマッサージチェアにいる。
「ふっか」
阿部が呆れる。
「まだ乗ってるの?」
「最高なんだって」
「さっきからずっとじゃん」
「肩が軽い」
渡辺が言う。
「もう壊れるまで使えば」
「翔太冷たくない?」
「俺も使いたいから」
「あ、そういうこと?」
深澤は渋々立ち上がる。
「はいはい、どうぞ」
渡辺がすぐ座った。
「これいい」
「でしょ?」
「翔太、寝ないでね」
宮舘が言う。
「寝ない」
そう答えながら。
もう目を閉じている。
阿部は笑った。
「絶対寝るじゃん」
目黒も隣で笑う。
少しして。
佐久間が箱を抱えてきた。
「これやろ!」
「何?」
「カードゲーム!」
ラウールも覗き込む。
「やる」
康二がカメラを置く。
「俺も!」
「写真は?」
阿部が聞く。
「今は遊ぶ!」
「切り替え早」
岩本も。
「じゃあみんなでやろっか」
と座る。
結局。
九人全員が。
大きなテーブルを囲んだ。
最初のゲームは。
すぐにぐちゃぐちゃになった。
「待って!」
佐久間が叫ぶ。
「今のずるい!」
「ルール通りだよ」
ラウールが笑う。
「いや絶対違う!」
「さっくんが弱いだけやろ」
康二も笑う。
「康二もさっき負けたじゃん!」
「それはそれ!」
「何が違うの!」
深澤が。
そのやり取りを見ながら笑う。
「うるさいなあ」
でも。
すぐに次のカードを配り。
「はい次ね」
と進める。
阿部は。
目黒の隣に座っていた。
「めめ」
「ん?」
「それ出したら負けるよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあやめる」
「聞くのずるくない?」
渡辺が言う。
目黒は何でもない顔をする。
「あべちゃんが教えてくれたから」
「恋人特権?」
深澤が笑う。
阿部が顔を赤くする。
「違うよ!」
「違わないでしょ」
佐久間も乗る。
「蓮、ずっとあべちゃんのカード見てるし」
「見てない」
「見てる!」
「集中して」
岩本が笑いながら止める。
次は。
ボードゲーム。
チーム戦になった。
岩本と深澤。
宮舘と渡辺。
佐久間とラウール。
阿部と目黒。
康二は。
「俺余るやん!」
と文句を言ったあと。
途中から好きなチームに入ることになった。
「康二、さっき俺らのチームだったじゃん」
佐久間が言う。
「今こっちのが勝ちそうやから」
「裏切り!」
「勝負の世界や」
ラウールが笑う。
「じゃあ康二くんいらない」
「冷たい!」
みんなが笑う。
阿部も。
声を出して笑った。
少し前まで。
重い話をしていた。
宮舘のこと。
渡辺のこと。
それを思い出せば。
胸の奥はまだ痛い。
でも。
今は。
その痛みだけではない。
佐久間の大きな声。
康二の笑い声。
ラウールの楽しそうな顔。
翔太と館さんのやり取り。
照とふっか。
隣にいる目黒。
全部。
同じ時間の中にある。
阿部は。
ふと。
天使の言葉を思い出した。
傷の話ばかりしていても疲れる。
遊んで。
食べて。
笑えばいい。
「……こういうことかも」
小さく呟く。
目黒が聞く。
「何が?」
「ううん」
阿部は笑った。
「なんでもない」
ゲームは。
夜が深くなるまで続いた。
途中で。
佐久間がまたアイスを食べ。
ラウールも二個目を取り。
渡辺はマッサージチェアから戻ってきて。
宮舘の隣で眠そうにしていた。
康二は。
また途中からカメラを持ち始める。
「普通にしててな」
「ゲーム中に普通も何もないでしょ」
阿部が言う。
「こういうのがええねん」
康二は。
何枚もシャッターを切る。
岩本が笑っている。
佐久間が怒っている。
ラウールがカードを隠している。
渡辺が宮舘の肩に寄りかかっている。
目黒が阿部を見ている。
深澤が。
みんなを見ながら笑っている。
「ふっか」
阿部が。
ふと呼ぶ。
「何?」
深澤がすぐこちらを見る。
「いや」
阿部は少しだけ首を傾げた。
「なんでもない」
「何それ」
深澤は笑う。
そして。
また佐久間に向かって言った。
「佐久間、それ違うって」
「違わない!」
「さっきから同じミスしてるよ」
「してない!」
「してるって」
みんなが笑う。
その中心に。
深澤がいる。
いつも通り。
場を回して。
誰かに突っ込んで。
誰かが黙れば話を振って。
空気が止まらないようにしている。
でも。
阿部は。
なんとなく引っかかった。
深澤は。
ずっと笑っている。
けれど。
自分から楽しそうに笑っているというより。
誰かを笑わせている時の顔に見えた。
時計を見ると。
もうかなり遅い時間だった。
「そろそろ寝る?」
岩本が言う。
「えー」
佐久間が不満そうな声を出す。
「まだやりたい!」
「明日もあるでしょ」
「温泉も入りたい」
ラウールが言う。
渡辺は。
すでに眠そうだった。
「俺もう寝る」
「翔太、歯磨き」
宮舘が言う。
「分かってる」
「今寝そうだったよ」
「寝てない」
「寝てた」
深澤が笑う。
「完全に目閉じてたじゃん」
「うるさい」
一人ずつ。
片付けを始める。
カードを箱へ戻し。
飲み物を片付け。
布団へ向かう。
阿部も。
目黒と一緒に寝る準備をした。
部屋の電気が。
少しずつ消えていく。
佐久間は。
布団に入ってもまだ喋っていた。
「明日朝風呂行こうね」
「行く」
ラウールが答える。
「俺も行くで」
康二も言う。
「写真は置いてきて」
渡辺の声。
「風呂では撮らへんわ!」
「当たり前」
しばらく。
笑い声が続いた。
でも。
少しずつ。
静かになる。
一人。
また一人。
眠り始める。
阿部も。
目黒の隣で横になった。
「楽しかったね」
目黒が小さく言う。
「うん」
「来てよかった?」
「うん」
阿部は。
少し笑う。
「天使に感謝したくないけど」
「そこはね」
「でも楽しい」
「よかった」
阿部は目を閉じる。
その時。
少し離れたところで。
布団が動く音がした。
目を開ける。
深澤だった。
「ふっか?」
小さく呼ぶ。
「ん?」
「寝ないの?」
「もうちょっとしてから寝る」
「眠くない?」
「うん」
深澤は。
いつものように笑った。
「昼寝したからかな」
「そっか」
「先寝てて」
阿部は。
「うん」
と返した。
でも。
少しだけ気になった。
深澤は。
一人で窓際へ移動する。
外を見ながら。
静かに座った。
さっきまで。
あんなに喋っていたのに。
今は。
何も言わない。
阿部は。
暗い部屋の中で。
その背中を少しだけ見つめた。
今日。
深澤は。
誰よりも場を回していた。
笑って。
突っ込んで。
みんなを見て。
ずっと。
いつもの深澤だった。
だからこそ。
阿部は。
少しだけ思った。
――ふっかは、本当に楽しかったのかな。
それとも。
また。
みんなが楽しくいられるように。
いつもの自分でいただけなのか。
答えは。
まだ分からなかった。