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「気持ちいいと言ってるくせに、毎晩2回しか抱いてくれないよな」
「それは、うっ!」
誤解をとこうと、慌てて口を開いた僕の唇に、健吾さんは人差し指を押し当てて止めた。
目に映る顔は、表現しがたい微妙な表情になっていて、余計なことを言ってしまったら、間違いなく傷つけてしまうと思えるものにも見えた。ここは慎重にならなくてはと考慮し、いいわけを飲み込む。
「夢の中じゃ、朝まで抱いてくれたんだ。実際この躰よりも創造主の作った躰のほうが、いいのかもしれないが……」
縛られた両手を駆使して、なんとか起き上がる。プラチナブロンドを乱したまま放心している健吾さんの肩に、そっと顎をのせた。
こんなときなのに、抱きしめられないのはすごく歯がゆい。
「記憶がないから比べることはできませんが、僕は健吾さんが一番だと思ってます」
「敦士……」
「2回でストップしてるのは、健吾さんの躰が大事だからです。僕のシたい気持ちに、無理して付き合わせるわけにはいかないと思いまして」
「そうだったのか。良かった――」
健吾さんは、両手を拘束している腰紐を解きだした。肩から顎を外して手元を見つめていたら、解放された僕の手首を指先で撫でる。愛おしそうに何度も撫でながら、ゆっくりと顔を上げた彼と目が合った。
安堵に満ちたまなざしに射竦められただけで、さっきよりも躰に火がついてしまう。
「健吾さん、僕は」
「このまま俺を抱いてくれ」
細長い両腕が首に絡みついて、密着する部分を一気に増やした。触れ合う素肌が思いのほか熱くて、自然と息が乱れてしまう。
「健吾さんを抱くって、もう抱き合っているのにですか?」
「こんなものじゃ足りない、抱きつぶして。夢の中で抱き合った以上に、俺を抱いてほしい」
告げられた言葉が刺激的すぎて、ごくんと生唾を飲んだ。
もっと抱き合いたいという気持ちと同じくらいに、健吾さんを大事にしなきゃという想いもあって、毎日心の中で葛藤を繰り返していた。
「健吾さんを抱きつぶすなんて、そんなの――」
今まで我慢していた分を含めて、思う存分に抱いてしまったら、それこそ言葉通りになってしまうのは、火を見るよりも明らかだった。
好きという気持ちのダムを決壊させようとする恋人が、興奮して息をきらす僕を見ながら、切なげに微笑む。自嘲的な笑みは何度か見たことのあるもので、こんな表情をさせてしまうことに、首を傾げるしかない。
「俺は絶望的な片想いをして、誰にも愛されないまま、一度死んでしまった。こんな俺でも、過去に愛してくれた人がいたかもしれないが、片想いをするまでは、そんな気持ちに一切見向きもしなかった」
「僕は誰かを好きになっても、相手にすらされなくて、いつも寂しい気持ちを抱えていました。そのうち自分に自信がなくなって、何をしても上手くいかなくなったんです」
向かい合って、静かに語り合う。下半身を結合したままという変な体勢だったけど、繋がっているお蔭か、妙に落ち着いて話すことができた。
(――不思議だな。いつもだったら過去の陰気な自分の姿を聞いて、嫌われるかもしれないという恐れがあって、話すことを躊躇っていたのに、今は素直に話すことができる)
「確かに出逢った頃のおまえは、どこか腐ったところがあったな。キャバ嬢に暴力を振るわれて、涙を流していたっけ」
「えっ!?」
「ドМなおまえが、自分を痛めつけるご主人様がいなくなると焦って、夢の番人である俺の腰に縋って、めそめそ泣いていたんだ。悪夢の原因であるキャバ嬢を消さないでくれって懇願されたが、無視して消し去ってやった」
ひと仕事を終えた、爽快感を表すような表情を目の当たりにして、ものすごく恥ずかしくなってしまった。
「そっ、その節はお世話になりました……一言付け加えると、そこまでドМじゃないです」
「いやいやドМだろ。手首をキツく縛っただけで、アソコを隆起させたくせに」
「違っ! あれは健吾さんのその姿が魅力的だったからで、縛られたからじゃないですっ」
頬がどんどん赤くなるのがわかり、どうにも視線を合わせられない。