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穂乃里のカフェに到着して、いつものようにガラス戸越しに中を確認する。
あんな助けを求めるくらいだから、どれだけ混雑しているだろうかと覚悟して覗き込むが、店の中は至って空いていた。
首を傾げつつ、中に入る。
カウンターに座る客と談笑していた穂乃里が、雪緒に気づいて手を振る。
「雪緒ちゃーん! ありがとー!」
「おはよ……あれ、私来るの遅かった? 空いてるじゃ……」
店内をもう一度見回して、カウンターに近づく。――穂乃里と話していた男性客がこちらに向いた。
真――じゃない、郁だった。
思わず足が止まる。
何度見ても、頭に混乱を引き起こすこの顔。
「おはようございまーす。つーか、今起きたみたいな顔だね。寝坊した?」
ひらひらと手を振って、にっこりと雪緒を見上げている。
どういうことかと穂乃里を見ると、小さく舌を出してから、ゴメンと口の動きだけで言った。
「義理の弟さんなんでしょ? ……お義姉さんをびっくりさせたいって言うから、のっちゃった」
それは嘘ではない、けれど。
穂乃里としては、罪のない嘘で、友達を店に呼んだだけ。
郁とのやりとりを知らない穂乃里を、責めることはできない。
ちらりと郁を見る。何を考えているのかさっぱり読めない。
郁は何食わぬ顔で、カウンターの飲みかけのコーヒーカップをソーサ―ごと持つと、
「たまたま通りかかったら、この間『お義姉さん』と一緒にいた人が店の中にいたからいろいろ話してたとこなんだけど。びっくりさせようかと思ってさ。せっかくだから窓際でコーヒー飲まない? ――ここ、コーヒーめっちゃ美味しいね」
最後の言葉は穂乃里に聞こえるように、大きめの声で囁いて立ち上がった。
雪緒は憮然として郁の背中を見ていたが、
「雪緒ちゃんも座って。今、コーヒー淹れるね」
と穂乃里に促され、渋々郁の隣に移動した。
窓際の、外がよく見える席に腰かける。
隣の郁の今日の服装は、高級ブランドマーク入りの緩めのスウェットに黒いパンツ、スポーツサンダル。これも、真が選ばないタイプの服だ。
美味しそうにコーヒーを飲む郁を横目で見ていると、郁が涼しい顔で笑い、
「そんな警戒しなくても。――姉弟でしょ? 義理だけど」
「姉弟ってほど親しかった覚えないけど」
それに、このあいだきみがくれた言葉はなかなかの鋭さだった。
私未だに引きずってるよ。