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好きだったのはきみじゃない

31 - 第31話 てんてこ舞い4

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2025年07月06日

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「これから親しくなるかも」


それも、ないよ。きみの兄さんと私は終わってしまったんだから。


口を噤んだまま、心の中で切り捨てるように呟く。


そこへ、穂乃里が淹れたてのコーヒーを運んできた。


「お待たせしましたー、オリジナルブレンドです。ごゆっくり」


雪緒と郁の間からコーヒーを給仕した穂乃里が二人に微笑みかける。郁が見せた極上の笑顔に一瞬見惚れ、穂乃里が慌てて戻っていく。――その笑みは、剥がれ落ちるように素っ気ない表情に変わった。


外向けの顔と、身内に見せる顔の違い。

とすると、私はまだ身内扱いなんだ。


「親しくない義理の姉に、何の用?」

「この間、中途半端になっちゃったから。あ、お茶、ご馳走様。あれ、美味しいね」

「どこのスーパーでも売ってるよ。買って帰って自分で淹れたら」

「淹れてくれる人によるんじゃないかなぁ、味」


しれっと、ご機嫌を取るようなことを言う。こういうタイプは油断がならないと、大人だから知っている。


せっかくのコーヒーを、冷めないうちに味わう。

会社で飲むオフィスコーヒーとは別の飲み物のように豊かな香り。


「俺が持って行ったアレ、どうしました? 捨てた?」


コーヒーの香りで逸れていた思考を、容赦なく軌道修正する声が尋ねてくる。


「アレ……結婚指輪のこと?」


郁が当然でしょ、という顔で頷く。


「捨ててない。仕舞ってある」


部屋に持ち込みたくなくて、玄関先だけど。


「そうなんだ。兄貴が戻ってくると思ってるから?」


その郁の言葉に、自分の右頬が引きつったのを感じる。


この子は、私の急所が見えているんだろうか。


コーヒーを飲む手が止まった雪緒の隣で、郁が窓の外の向かいのビルを見上げる。


「どこに行っちゃったんだろうね、兄貴。心当たりないの?」


雪緒は腕の関節が錆びついたように、ぎこちなくカップをソーサ―に戻した。

それとない口調だったが、その言葉で郁の行動の理由が読み取れた気がする。


「……それを、訊き出しに来たわけか。……お義母さんに、言われた?」

「直接言われたわけじゃないよ。まぁ、兄貴が消えたのが原因で、家の中は荒んでるけどね」

「もう、話したよ。どこにいるのかも、なんでいなくなったのかもわからないって。信じてないみたいだけど」

「信じてないと言うよりは、話していないことがあるんじゃないかなって。俺もそう思ってる」


「なるほどね、ようやく本音が出てきたね」


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