皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。お姉さまが帝都へ赴かれると聞いたので、当たり前のように私も同行しています。もちろんリースさんの許可は頂いた上で、です。
『ライデン社』が様々な反対勢力に四苦八苦しながらも発展を促している帝都を見てみたいと言う思いもありますが、何よりも全てを失った場所に再び赴くのは勇気が要るものです。
躊躇無くそれを決断できるお姉さまは尊敬に値します。反論は受け付けません。
さて、帝都までは海路で向かうことになりました。お姉さまとの船旅は心踊るものがあり、夢のような心地でした。
……お姉さまが蒸気機関を見て、永久機関の考えに至るとは思いませんでしたけど。
確かにお姉さまのお考え通りにことが運べば原子力も真っ青な無限のエネルギーを生み出すことが出来ます。魔法の炎は、それそのものが奇跡の存在なので二酸化炭素などを排出しないんです。
つまり、公害を一切出さない火力発電の完成です。しかもお姉さまは属性に制限がありません。その気になれば水力発電すら可能にしてしまいます。
なにこのチートお姉さま。大好き。
その日の夕食は大きな海老みたいな生き物を豪快に丸焼きにしたものが出されました。伊勢海老みたいな形ですね。
「虫ですか?」
「虫じゃないよ、海老って生き物さ。見た目は人を選ぶけど、味は保証するよ」
「むぅ、しかし見た目がまるで虫みたいで……」
「シャーリィ、妹さん食べてるぞ?」
「はっ!?」
「なにか?」
いけない、久しぶりの海老で我を失ってた。味はまさに伊勢海老、それも天然物。まさか異世界でこの味を堪能できるとは思いませんでした。
「レイミ、それ美味しいのですか?」
「これ以上の物はないと断言できる美味しさですよ、お姉さま。召し上がってみては?」
私の感覚が正しいなら、この味はお姉さまも好きな筈。
「おいシャーリィ、無理はしなくても……」
「レイミが食べているのに姉である私が食べない選択肢はありません」
「ちょっ!?待ちな!シャーリィちゃん!頭から豪快にいくんじゃないよ!」
さすがお姉さま、豪快に頭からいきましたよ。バリバリって音が室内に響き渡ります。うん、淑女にあるまじき行為。お父様が見れば失神してお母様は豪快に笑い飛ばすでしょうね。
「固い部分がたくさんありますが、意外と美味しいですね」
「いや、私はシャーリィちゃんの顎の強さにびっくりしてるよ」
エレノアさんがひきつった笑みを浮かべてますね。殻ごと食べてしまえば私でも引くかもしれません。お姉さま以外は。
「へぇ、意外と美味いな。殻は固いけど、中身は柔らかくて歯応えもある」
「おいおいルイ、頭からいったぞ。大丈夫なのか?」
「いや、多分普通のやつは食べられねぇんだろ?エレノアの姉さんが柔らかくしてくれたからだろ?」
「確かに柔らかくはしてるけど……まあ良いや、美味しく食べてくれるならさ」
その日の夜はそれなりに豪華な部屋を用意してくれました。波による揺れもそこまで大きなものではなく、ゆっくり休むことが出来ました。
ですが穏やかな船旅は初日だけでした。翌日、蒸気機関の状態を確認するため低速で航行していると事件は発生したのです。
「船長ぉ!!舵が重い!」
それは昼食後の一時、操舵手の報告から始まりました。
「舵が重いだぁ?……っ!野郎共ぉ!戦闘配置だぁあっ!」
報告を受けたエレノアさんは少し考えて、慌てて戦闘配置を号令しました。
カンカンカンッ!っと鐘の音が響き武装した水夫達が慌ただしく行き交う。これはただ事じゃない。
「エレノアさん、何事ですか?」
「ああ、妹ちゃん。どうやら魔物の縄張りに入っちまったみたいなんだ。これから戦闘になる」
「望むところですが、相手はどんな魔物ですか?」
流石に空を飛ばれると厳しいものがありますが。
「そいつは……」
「きたぞーーっっ!!」
見張りの叫びと同時に多数の影が海から飛び出して甲板に降り立ちました。
それは、言ってしまえば二足歩行の蜥蜴でした。それらが革製の鎧を身に纒い、手には三又槍が握られていました。亜人!?
「出たよ!リザードマンだ!」
次々と上がってくるリザードマンは、私達を取り囲むように移動しながらこちらを見据えています。
「なんだよこいつらは!?」
「考えなくて良いぜ、ルイ。どうするか決めるのはお嬢だ」
皆が臨戦態勢を取る中、私の隣に居るお姉さまだけは静かにリザードマンを観察していました。
「エレノアさん、お尋ねしたいことがあります」
「なんだい?シャーリィちゃん!」
両手にカトラスを握ったエレノアさんが、リザードマンを睨みながらお姉さまに応えます。
「このリザードマンは、所謂亜人種と判断します。対話などは可能ですか?」
「そりゃ無理だよ!こいつらの言葉なんざ分からないからね!」
でしょうね。少なくとも友好的には見えないのですから。いや、それより獲物を見る目ですね、あれは。
「対話は成り立たないと。他に情報は?」
「話してる場合かよ!?シャーリィ!」
「他の情報!?見ての通り武器を使ってくる!けどその体も武器になるから気をつける!あとは、こいつら人間が大好物だって話だ!だから船を襲うのさ!」
「狩人みたいですね。お姉さま、戦闘は避けられません」
私は刀を抜きながらお姉さまに声をかけます。
「そうですか、人間が大好物。つまり彼らにとって私達は獲物ですか。理解しました。彼らには当然人間を襲う権利があります」
はい!?
「ちょっ!?」
「シャーリィ!?なに言ってんだよ!?」
「まあ待て。お嬢、続きを」
「ありがとう、ベル。ですが当然私達にも抗う権利はあるわけです」
俯いていたお姉さまがゆっくりと顔を上げます。
「ひぃっ!?」
エレノアさんが悲鳴を挙げます。
お姉さまは笑顔でした。それも、いつも私に向けてくれるものとは違う、背筋が凍るような笑顔でした。
「であれば、是非もありません。あなた方は私の敵です。敵であるならば遠慮は要りませんね?」
お姉さまは魔法剣の柄を取り出します。明らかに普通ではない雰囲気にリザードマン達も飛び込むことを躊躇しています。
「では、決まりました。これは闘争です。さて皆さん」
お姉さまが魔力を走らせると、柄から光輝く刃が現れる。
「食べられないように抵抗して、捕食者はどちらなのかを教えて差し上げましょう」
「「「おおおーーっっっ!」」」
リザードマン、今回ばかりはあなた方に同情しますよ。襲う船が悪かったと諦めてくださいね。
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