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サンフィア案内の下、おれとウルティモはエルフ族の長でもあるニーヴェアの所にやって来た。彼はサンフィアの兄でもあるが、滅多に姿を見せることが無いエルフだ。
「話はすでに聞いているよ。アック。そして、ウルティモ」
「聞いているってのは、ウルティモからか?」
「いいや、違うよ。分かるだろう? ぼくが何者か……」
どうやらイデアベルクに移り住んで来ても、やはり白の魔導士としての役目を果たしているらしい。そういう声が聞こえるというというのはどんな気持ちなのだろうか。
「ふむ。われが見える事象よりも、信憑性が高いとみえる」
「――ということは、やはり間違いないと?」
「そうなるね」
「うむ」
すでに日が暮れ、辺りは薄暗い。明るいうちだとシーニャがついて来そうだし、この時間に決めるのが良さそうだ。
「あんたも、おれが攻めることに賛成か?」
「イスティは外に出るべきだよ。それはアック自身がよく分かっているはず」
「――む」
正直言ってその通りだったりする。自ら国を建て直すのにどれくらいかかるか見当もつかなかった。しかし、エルフの他に獣人やネコ族が暮らしている。イデアベルクは滅亡前こそ貴族の為の国だったが、今は全く違う。
そういう意味でも、暮らす者たちに全て任せてしまった方がいいと感じてしまった。
「ふむ。後はアックくんとエルフで決めてくれたまえ。われは竜の元に戻るとしよう」
「……分かった」
彼らの話を聞く以上、どうやらここでゆっくりと過ごすのはまだまだ先の話になる。ここを出てすぐに攻めに行くのも可能だが、その前に他国も見て回る必要がありそうだ。
「アックには、今度こそ妹の面倒を見てもらうよ」
「同行させろってことだよな?」
「その為に抱きしめたんだよね?」
「…………く」
何でもお見通しのようだ。そうなるとエルフとは、改めて盟約を交わすことになるか。
「添い遂げろとは言わないけど、決めて欲しいと思うよ。これは兄としての希望だよ」
「彼女の強さは成長出来るのか?」
「伸びしろならまだまだある。誓約は結んだはずだし、妹の成長はアック次第だと言えるね」
何とも厄介な兄に頼まれてしまったものだ。サンフィアに決めるわけではないが、戦力として育てるしか無いか。
「そういうことなら盟約を交わしてくれ。別に彼女のことだけじゃなく、他の種族とも交わすことになるからな」
「エルフの長として、アック・イスティと盟約を交わそう!」
◇◇
エルフを相手にするのは何とも骨が折れる。味方とした今でも、未だに慣れないのが何よりの証だ。サンフィアの兄ニーヴェアと別れた後、おれは森林区に移動していた。
すでに夜だが、エルフの若者たちが作業を続けていたのを見て声をかけたくなったからだ。
「そこのきみ! え~と……」
いざ声をかけようとすると、やはり知らないエルフに声をかけるのは何とも言えない緊張がある。サンフィアはすでに休んでいて、ここには来ていないというのもあるが。
そうなると、自ら積極的に声をかけるしか無いということになる。
「おっ? アックのダンナじゃねえか! 見回りか?」
「お前は……ロクシュだったか?」
「忘れるなんてひどいな。せめてオレの名前だけは憶えてくれよ!」
「悪い」
エルフの森域で助けられたが、普段は会わなかったのですっかり忘れていた。彼は消極的なエルフに比べるとくだけた感じで話せる男だが、この流れで行くと他のエルフも覚える必要があるということのようだ。
「アックのダンナ。サンフィアの部下でもある彼女たちだけでも覚えてやってくれ!」
「そ、そうだな」
サンフィアの身の回りの世話をすることが多いサロリナとエレニは、おれに名前を名乗ると、そそくさと作業へ戻ってしまった。明るさの無い森林区でよく見えなかったが、二人ともサンフィア同様に綺麗な感じに見えた。
「まだ眠らないのか、ダンナ」
「まぁな。夜の方が獣人たちが活発だろう? 今のうちにやっておく必要があるからな」
「へぇ~、国の主も大変なんだな。アックのダンナのことは応援しているよ!」
「ああ。ロクシュも頑張れよ」
エルフたちが作業をしている中、おれは獣人たちがいる獣の森へ足を向けた。