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「ただいま…」
といっても家には誰もいないけれど。
「お邪魔します…」
「ちょっとそこで待ってて、タオル取ってくる」
キヨくんを玄関に待たせて、急いでタオルを取りに行く。こんな広い家で一人なのは日常茶飯事だ。小さい頃からだから、今更寂しいなんて思わないけれど、『ただいま』って言葉を聞いてみたいとは思う。
「はい」
「ありがと」
「なにか温かいものでも飲もうか。拭いたらリビング来てよ」
雨で少し体が冷えたかもしれない。俺はお湯を沸かしつつ、マグカップを用意する。後から入ってきたキヨくんからタオルを受け取り、椅子に座るように言った。
「雨ばっかりやね…」
「梅雨の時期だからね」
「気が滅入るわ」
「だね」
椅子に座りながら温かいココアを飲む。この時期にしては少し気温が低いので、このくらいでちょうどいいのだ。ふと、キヨくんからの視線を感じて顔を上げると、少し不安そうな顔をしている。どうしたの、と声をかけると、
「いつもこんな感じなの?」
「え?」
なんのことだろうと思った。
「いつも、この時間は一人なの?」
ああなんだ、そんなことか。
「うん、これが当たり前。昔からそうだよ」
「そうなんだ…」
「なんで?」
「いや…」
ちょっと考える素振りを見せてから、
「俺だったら寂しくて辛いなーと思って」
「そっか…まぁ普通はそうだよね…」
俺はキヨくんに親のことを話した。仕事が忙しくて朝も夜もあまり顔を合わせられていないこと。でもそれは小さい頃からだったからもう既に慣れてしまっていること。俺にとっては当たり前なことでも、キヨくんからすれば変わってるんだろうな。
「じゃあさ」
「うん」
「俺がたまに遊びに来ても良い?」
「えっ?」
「夜とか、泊まりでもいいし、そうすればレトさん寂しくないじゃん」
そんな提案されるとは思っていなかった。正直嬉しかったし、うっしーとガッチさん以外の友人として交流ができるのが楽しかった。
「キヨくんのうちは平気なの?」
「うちは大丈夫、兄弟いるし、親も放任だし」
「そっか…」
今までの俺なら、傘を返してありがとうって言って、一緒に帰ろうなんて無視していたけれど。なんだか無性に気になって、ついには家にまで招き入れてしまった。この人といると距離感がバグるような感覚に陥る。
「じゃ…また来てもいいよ?」
「マジ?さんきゅ」
なんだかやけに緊張した。
なんか…なんだろう。
To Be Continued…