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ぱしゃり、と歩く度に水溜まりを踏む音が鳴る。
雨が降る。
雲は分厚く空を覆い、太陽の少しの光さえも許さない。
…いつか、私はこんな天気の日に何か言ったな。
顔も名前も思い出せない誰かに、まっすぐな純粋な目で、将来の夢を語り合った。そんな日も過去にはあった。
でももう今じゃそんな夢も、今も持つ希望さえ叶わないんだと分かってしまった。
こんな世界じゃ、綺麗なだけでは生きていけないのだから。
頭がずき、と僅かに痛んだ。
(早く帰って、明日の用意して寝なきゃ…)
痛みから目を背ける様に、早足で家路についた。
「ただいま〜」
そう言い家に入り、玄関の扉の鍵を閉める。
家着に着替え、少しの間ゆっくりしようかと思ったその時、携帯から着信音が鳴る。
着信音が鳴るのと同時に震える携帯を手に持つと、画面に映った相手に一つ溜息をつく。
「…もしもし、姉さん。」
応答と表示された画面を押すと、私がそう言うのと同時に相手の声が聞こえる。声が大きすぎて音量下げなきゃ軽い近所迷惑になる。
「もしもし〜峯夏、姉さんよ〜。元気にしてるかしら〜?」
「特に変わらないよ。そっちはどうなの?」
「こっちもね〜、特に変わりは無いのよ〜。相変わらずお姉様と妹ちゃん達が騒がしいわね〜。」
毎度の電話と全く同じ内容が繰り広げられている。電話を切ろうか…なんて思いながら話半分に聞いていると、それを察知したのか話題を変えてきた。
「…そうだ、峯夏〜?今年の年末こっちに来るのかしら〜?妹ちゃん達が気になって仕方が無いってね〜、それだけ確認しても良いかしら〜?」
「去年と同じで…」
思わずそこで言葉を止めてしまう。
どうせ今年も普段通り仕事も休み、やる事も無いのなら、たまには良いのかもしれない。
「…いや、やっぱり行こうかな。」
電話の向こうから何かが落ちる音がする。椅子か布団から転げ落ちてるのが目に見えるのは気のせいだろう。笑ってしまいそうになるのを必死に抑え、向こうからの返事を待つ。
「ええっ!?ほ、本当に来てくれるの!?」
少ししてから返事は返ってきた。よほど驚いたのか、普段の口調が跡形もなく消えている。ここまで驚いた姉さんを見るのは何気に初めてかもしれない。
「ほんとだけど。」
「…そうなのね?分かったわ、お姉様と妹ちゃん達に伝えに行ってくるわね!」
そう言い放つと、返事を待つ事無く電話を切られる。
「…じゃあ、また。」
ホーム画面しか表示されない携帯画面を見つめ、聞こえる筈が無いと分かりながら一人そう言った。
にしても、家族との電話はほんとに疲れる。今回は姉さんでまだ良かったけれど、他の人だったら今頃疲れ果ててるんだろう。
「やっぱり、普段と違う事なんてやらない方が良かったかな。」
洗濯してお風呂入ったら寝よう、と早く寝る為に携帯を起き、急いで家事を始めるのだった。