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第五章 封じられた真実
第三話 影の条件
翌朝、中庭には柔らかな陽光が差し込んでいた。
噴水の水音。
鳥の声。
先日の事件が嘘みたいに、穏やかな朝だった。
その中で、ハヤトは昨日調べた記録を、ジュウタロウとシュンタへ共有していた。
「……共通点が分からないんだ」
テーブルの上へ、記録の写しが並べられている。
シュンタは紙を覗き込みながら、眉を寄せた。
「ん〜……」
しばらく考えた後。
「でも、何となく分かる気ぃする」
ハヤトとジュウタロウが顔を上げる。
シュンタは紙へ視線を落としたまま、ぽつりと言った。
「みんな、心にデカいもん抱えてる」
「デカいもん?」
「不安とか、執着とか、苦しみとか」
シュンタは静かに続ける。
「酒に溺れるくらい荒れてた男も、
病気の子も、借金まみれの商人も」
「きっと、ずっと何かと戦ってたんやと思う」
ハヤトがゆっくり目を細める。
「……負の感情」
「うん」
シュンタは窓の外を見る。
「瘴気ってそういうもんから生まれるんやろ?」
その時だった。
ジュウタロウが、静かに口を開く。
「……それだけじゃない」
銀の瞳が、記録へ落ちる。
「全員、死に近い」
空気が変わる。
ハヤトが息を呑む。
「病人、老人」
「荒れた生活をしていた男」
「老犬もそうだ」
ジュウタロウの声が低くなる。
「皆、“終わり”が近かった」
その瞬間、ジュウタロウの脳裏へ、過去の記憶が蘇る。
雪の庭を駆け回っていた白銀の狼。
幼い頃から共に育った大切な存在、リュカ。
けれど最後の頃、リュカはほとんど走れなくなっていた。
目も、耳も、少しずつ衰えていった。
食欲も落ち、眠る時間ばかり増えていた。
『リュカ……』
幼い自分が、泣きそうな声で呼ぶ。
『離れないで』
白狼は、ただ静かにこちらを見ていた。
あの瞳は、どこか悲しげだった。
そして、数日後。
リュカは瘴気へ呑まれた。
ジュウタロウの指先が、僅かに震える。
「……そうか」
掠れた声が漏れる。
ハヤトとシュンタが見る。
ジュウタロウは、遠くを見るように呟いた。
「死への不安、恐怖、執着」
「……そういう感情が、瘴気を引き寄せるのか」
静かな風が吹く。
噴水の水面が揺れる。
三人は、光に守られているはずの世界の裏側で、見えない何かが静かに動き始めていることを感じていた。
コメント
2件
死が近いんだ…まじか 続き楽しみに待ってますね
ああ、なるほど…「瘴気が引き寄せられる条件」って、単なる負の感情じゃなくて“死の近さ”だったんですね。確かに、シュンタの言う「心にデカいもん抱えてる」だけだと漠然としすぎてて、ジュウタロウが具体例を重ねてくれたおかげで一気に説得力が増しました。 それにしても、リュカの回想が胸に刺さります…最後まで一緒にいたかったけど、どうしようもなく離れていく感覚。あれが瘴気の引き金になるっていうのは、すごく切ない設定だなと。この世界の仕組み、もっと知りたいです。