雨が頬を伝うように、涙も頬を伝った。
見間違いだったかもしれないが。雨に消されて、よく見えなかった。もしかしたら、自分が泣いていたのかもしれない。
湊(泣かないでくださいよ
こっちまで哀しくなる。
震えているその声は、まるで自分の人生を全て知っているかのようだった。
**********************
自分の運命から逃れたいと誰かに救いの手を伸ばしても、その手を引いてくれる人はいなかった。
だが奇跡は突然やってきた。
六年前、新聞で貴方の名前とインタビュー内容を見た瞬間、僕を救ってくれるのは貴方しかいないと確信した。
不思議と見覚えのあるその名前と顔に、僕は幼少期の記憶を掘り起こした。
振り返ってみれば、どうして忘れてしまったのだろうと後悔するような日々がたくさんあった。
夫婦と言われ揶揄われても、気にしてないよと笑ってくれる貴方。
隙あらば音楽室でピアノを弾く姿は美しく、少し冷たげな瞳と長い睫、鍵盤を叩く小さな手、君の全てに僕は惹かれていた。
でも僕は一度、鮮血の変わりに桜の花を散らせながら深い眠りについた。
2月05日君の誕生日に君が欲しいと言っていた満開の桜を、僕の身体を捧げた。
「ねぇ。どうして君は泣いているの?」
**********************
僕ら花の一族は愛する人と心中するしか本当の意味でシねなかった。そうやってシんで行った家族を僕は何度も見てきた。もう何回かも分からないくらいにずっと見てきた。
でもそれをしない限り僕達は何度も生き返る。その光景も何度も見てきた。僕はもう何回目だっけ?
だから僕が心から好きになれたのは、愛することができたのは君が初めてなんだ。
僕はずっと心中する相手が見つからないまま何十年何百年生きてきた。
僕本当は君より歳上なんだ。
僕が次に生き返ったのは身を捧げた日から二年後。
だから僕今は君より二歳、歳下なんだ。
**********************
湊(………これが僕。
貴方の心に埋もれていた僕。
咲羅(………………..
ずっと欲しかった満開のさくらは、桜空のことだったのかもしれないね。
私は自分が貴方の救いの手になれたことを光栄に思う。
だからと言ってはなんだが今度は…..
咲羅(…..今度は私が救いの手を伸ばしてもいいかしら?
第8話「fate can’t be changed」
コメント
2件
今回の話も本当最高なんだよおおおおおお!