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伸ばされた救いの手を引いても、伸ばした人が必ず幸せになるかは分からない。生きている限り運命は体に纏わりつく。
だから僕が貴方の手を引くかどうかも運命。
でも僕が出した答えは、分からないだった。
それでも意に反して、僕の手は貴方の手に触れようとしていた。
ふと僕は貴方の手から目を離し、顔を見た。
冷や汗がじわじわと額に浮かび、目は少し充血していた。泣いていたのかもしれない。手には力がこもっていて、体全体で僕のことを急かしていた。
湊(あ……..僕は……貴方の手を……..引くことはできない!
勢いをつけて咄嗟に出た言葉。
貴方は血の気が引いたように青ざめていた。
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きっと私は貴方のことを急かしていただろう。自分でも冷や汗をかいているのを感じた。決して暑いわけじゃない。けれど雨が降っているせいか体に服が纏わりつく。
正夢は現実にも影響を及ぼした。起きていても、脳裏に見たことの無い映像が永遠と流れてくる。正夢とは違う何かが私を襲っている。怖くて涙が溢れた。
私がシぬかもしれない。貴方がシぬかもしれない。どっちをとっても辛く悲しいことで、怒りを込めるように手に力を入れた。その矢先、告げられた言葉に私は青ざめた。
◆
───「あと数センチが遠いよ」
でもあと数十メートルは近くてあぁもうおしまいだ。私は貴方みたいに生き返ることもできない。貴方みたいに形無くしてシねたら、花のように散れたら、どんなに楽だっただろうか。
あと数秒でどちらかの命が消える。
蛇行する車が無造作に突っ込んでくる。唖然とし立ち尽くしていた貴方の手を引く私。代わりに私は路上に飛び出す。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
汚い鼻濁音が響き渡る。鮮血は宙を舞う。
この事件は、湊を含め軽傷者八名、重傷者五名、死亡者一名、運転手は警察に連行され、悲惨な事故として幕を閉じた。
◆
────「まさか私がシぬとはね。思ってなかったよ。」
「最後の言葉とか、何言えばいいか分からないから、ただ一つ。」
「貴方を好きになれて、良かった。」
湊(……..一般人の間では、死に際が一番美しいと言うけれど、本当にその通りだ。
僕も「愛してる」
初めて心から愛した人。もう二度と貴方のように美しい人には出会えないかもしれない。でも僕は「もう一度会えるなら」と、僅かな希望を抱き今も生きている。貴方に救ってもらった命はもう無駄にはしないと心に誓った。
第9話「the reunion suddenly
」〜再会は突然に〜