クラスメートに話を聞いたところ、その少年はまったくいじめられていなかったという。それは、クラスメートが口裏を合わせているとか、いじめによくある、いじめた側はいじめたと思っていなかった、というのとも、少し違うようだった。
例えばその少年、――仮にMと呼ぼう、Mの残したノートには、こんな恨みが書かれていた。「教科書忘れたとき、○○のやつ、貸してくれなかった。友達だと思ってたのに……」
この○○というのは、Mのクラスメートだった。……お分かりだろうか。同じクラスだと、同じ授業を受ける。もしMに忘れた教科書を貸してしまったら、今度は○○君が困ってしまう。だから普通は、教科書を借りるなら別のクラスの友達に頼む。
ちなみに、○○君の方はMを友達だと思っていなかった。同じクラスで、もしかしたら一回か二回、話したことがあるかもしれない、けれど一緒に遊んだこともない、ということだった。
Mの「恨み」というのはすべてがこんな感じで、いわば言いがかりに等しい。だが、彼はクラスメートに冷たくされたと信じ込み、ひたすら恨みをため込み、そしてある日自殺した。
……いや、彼は本当に死んだのだろうか?
Mには一つ、特異な才能があった。彼は、「怪物」を生み出したのだ。これは、彼の歪んだ心が怪物だった、というような比ゆではない。あるいは、彼の能力は、自分の歪んだ心を具現化するものだったのかもしれないが、ともかく、実際に怪物を生み出す力があったのだ。
Mは、生前黒魔術にはまっていたという。それだけなら、陰キャな少年がオカルトにはまるという、よくある話だったかもしれない。ところが、彼は実際に悪魔を呼び出すのに成功したのだ。
とりあえず「悪魔」や「怪物」と呼んでいるが、その正体が何なのか、よくわかってはいない。だがとにかく、Mはこの世の理から外れた、異質な存在を生み出すことが出来たのだ。それらは人間には姿が見えず、ただ特殊な能力としてのみ存在する。だから「超能力の一種」ともいえるのだが、人間に力を貸す代わりに、対価を要求するという性質があった。そのため、超能力ではなく、何か意志を持った存在、「悪魔」や「怪物」と呼ばれたのだ。Mは、その力を使って様々な事件を起こしていた。
もしかしたらMは、最終的に対価として命を取られたのかもしれない。あるいは……。これは、Mが起こした事件と、彼の残した怪物と戦うハンターたちの記録である。