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多喜二の手首を逃がさんと言わんばかりの力で掴み取る
「直哉…サン…離して…ください…っ」
「多喜二、お前は俺の……」
言いかけた言葉を飲み込んだ
目の前で多喜二が再び苦しそうに胸を抑えたからだ
志賀が距離を詰めれば詰めるほど多喜二の肺の中で「志賀直哉」という毒が花を急成長させる
「っ…かはっ……ごほっ……!」
今度は花弁ではない
ぽたりと完全な形を保った白梅が多喜二の口から零れ落ちた
純白の花びらには僅かに赤い血が滲んでいる
「多喜二!」
「はぁ…はぁ…っ、見ないでください…こんなの…」
多喜二は床に散った「自分の恋」を隠そうと震える手でそれを掻き集めた
だがその真っ白な花を志賀の手が横から奪い去る
「白梅、か…」
志賀は血の混じった花弁を忌々しげに見つめ、多喜二の顎を強引に上向かせた
「俺の住んでた家に咲いていた花だ。お前が隠したところでこの花が全部答えてるぞ」
「……………っ」
多喜二の顔が一気に熱帯びる
志賀の観察眼は多喜二がひた隠しにしてきた花の意味を正確に射貫いていた
「俺を想って病むなんて不遜だ。だが俺以外の男のために花を吐くなどもっと許せねぇ」
志賀はそう言い捨てると多喜二の抵抗を封じるようにその唇を自分の唇で塞いだ
「──んっ!?」
多喜二の目が見開かれる
「神様」と称される男の熱く強引な体温
口内に残っていた花の苦みが志賀の吐息にかき消されていく
一方的なはずのキスは多喜二の肺を締め付けていた呪いを驚くほど鮮やかに祝福へと塗り替えた
「……ふはっ、直哉サン…何を…」
「特効薬だ」
志賀は唇を離すと親指で多喜二の端に残った血を乱暴に拭った
その顔には獲物を仕留めた後のように傲慢でひどく満足げな笑みが浮かんでいる
「お前の胸の内の花を俺が全部毟り取ってやる」
「二度と他の男の前で花を吐くなよ」
志賀は多喜二の手首を掴んだままぐいっと前へ歩き出す
多喜二は志賀の背中を見つめながらこっそりと空いた手で自分の胸を確かめた
もう花は出てこない
代わりに志賀から移された熱が全身を心地よく焦がしていた
遅くなって申し訳ないです
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