アリィ「すぅ……」
ジーク「…ろ…!」
アリィ「んん…後3時間…」
ジーク「…られるか…!」
アリィ「…うるさい……」
ジーク「すぅー…わっ!!」
アリィ「うわぁっ!?なになに!?」
アリィは耳元で大声を出されて飛び起きる。
ジーク「後3時間も寝てる場合じゃないぞ!まずいことになった!」
アリィ「まずいことって何…」
アリィがカーテンを開け、窓の外から景色を見る。
アリィ「…警備隊だ…しかもあれって…」
ジーク「どう考えても指名手配書だろうな。捕まえる時はアレがないと違法になるからな。ここに他の指名手配者なんて居ないし、まず間違いなく俺たちだろうな。ポルポルを持ったらすぐ逃げるぞ!」
アリィ「う、うん…!でもなんでこんな早く…!」
ジーク「違う、俺達が遅すぎたんだ…!アヴィニア村に長居し過ぎた…!」
アリィ「ま、まって部屋の鍵は!?」
ジーク「わかりやすい所に置いとけ!」
アリィ「分かった!」
(玄関から出るのは難しい…窓から…いや、最近捻挫したばかりで無茶は出来ない…!)
アリィ「裏口から出よう!」
ジーク「俺宿探索してないから裏口あるの今知ったんだけど!?」
アリィ「こっち!ごめん、ポルポル自分で飛んで!」
ポルポル「ギッ」
アリィは脇に抱えていたポルポルを離すとポルポルはその可愛らしい姿に似合わない速度でアリィに着いていく。
ジーク「はやっ!?」
アリィ(この時間ならまだ宿屋の主人はきっと起きてない。)
ジーク「なぁ、こっちカウンターの方だろ!?反対側の階段から…!」
アリィ「だから!ここから近いし、あの人客が来なければ寝てるからいける!この早い時間なら尚更起きてないはず!」
不意にアリィの前の部屋の扉が開く。
アリィ「なんで急に…!?」
ポルポル「ギッ!?」
部屋から2つの腕が伸びる。ほんの刹那のうちに、抵抗も間に合わず部屋に引き込まれる。ついでにポルポルも。
ジーク「えっ!?」
目の前の様子を目撃していたジークは、慌てて止まろうとするが、悲しきかな。全速力で走っていた体はすぐには止まってくれず部屋に全員に引き込まれる。
部屋の中には、イリアとシリルが立っていた。
イリア「…男の子だけど持てる?」
シリル「全然いける。」
イリア「じゃあお願い。」
シリル「うん。ちょっと狭いけどここに隠れててくれ。」
ジーク「ちょっ…!離せ…!なんだお前ら…!あいででで!」
シリル「暴れると痛いから大人しくしててくれ。」
ジーク「言うのが遅い!!」
イリア「時間が無いから簡潔にしか説明出来ないけど、同じ指名手配者のよしみで助けてあげる。」
ジーク「はぁ…!?」
イリア「いい?よく聞いて。私達は裏切らないし裏切れない。その子のことをね。」
イリアはそう言ってベッドの方を指す。ベッドのシーツからひょこっと出ていたアリィが問う。
アリィ「…ポルポルのこと?」
イリア「…そんな可愛らしい名前なのは知らなかったけどええ。その子のことよ。」
シリル「絶対手を出さないから、大人しくしててくれ。」
そう言ってシリルは軽々とジークを持ち上げ、アリィと同じようにベッドの下に隠す。
アリィ「うわジーク凄い顔…」
ジーク「…プライドをへし折られた気分だ…」
シリル「…ちゃんと食べた方がいいと思う」
ジーク「余計なお世話だ…」
アリィ「ど、どんまい…?」
イリア「無駄話はそこまでにして。今からは静かに。シリル、準備は?」
シリル「殆ど出来てる。…だけど本当にこれで行くの?」
イリア「ええ、これが成功率が高いもの。」
シリル「はぁ…分かった…。」
コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
イリア「はい。」
バスローブを着た薄着のイリアが扉を開ける。その体は汗のような水のような液体が張り付いている。
警備隊の1人「お取り込み中のとこ失礼、ここに指名手配者が…」
シリルが部屋の奥からイリアの元へ来る。そうしてイリアの首をあげ頬に口付けをする。酷く機嫌が悪そうにシリルは警備隊に反論する。
シリル「…見て分からない?」
シリルはそういうと警備隊の1人は何かを察したのか顔を赤くして別の場所に走っていく。
警備隊の1人「し、失礼しました…!!」
イリア「…成功ね。まっ、この町真面目な人あんまりいないみたいだしよっぽど成功するとは分かってたけど。」
シリル「はぁ…」
イリア「そんな私とキスするの嫌だった?」
シリル「嫌なわけないって君が1番知ってるでしょ。下心から言うと嬉しいけど、こういうのは君の同意を得て僕はしたい。」
イリア「してたわよ?」
シリル「あれは同意とは言わないよ。告白を受け取ってくれるまではね。」
イリア「残念だけど返事はずっとノーよ。」
シリル「せめて頬は拭いて。」
イリア「貴方こそ拭いた方がいいわ。」
シリル「いいやもう洗わない。」
イリア「しっかりなのかちゃっかりなのか…。足音がしなくなった。もう出てきて大丈夫よ。狭かったでしょう?」
アリィ達がベッドの下から出てくる。
アリィ「流石にずっとほふく前進状態は体痛くなるね…。」
ポルポル「ギー?」
アリィ「!?あっはは…なんだろうね今の音…それとさっき、この子を裏切れないとか言ってたけど…多分勘違いじゃないかな…?助けてくれたのは有難いけど…多分そっくりな子と間違えてるんだよ…あはは…。」
イリア「…その子が生きてるのは知ってるわ。その子、悪魔でしょ?」
突如ゴンと音がする。
アリィが隣を見ると、ジークが頭を床に打ち付けて土下座のような格好になっていた。多分本人も土下座をするつもりはなかったんだろうが。
ジーク「…ねぇこれ俺見ちゃダメなやつだよな?」
アリィには分からなかったが、イリアとシリルは何かを察したかのように気まずそうに笑っていた。
イリア「…一応そういう風に見せてるだけで健全よ。これも化粧だし。」
そういって首の赤い虫刺されのようなものを指す。
イリア「まぁほんとに付けてくれれば準備を昨日から始めることなかったんだけど…」
シリル「絶対嫌!あと服着て来て。水着のままだと不便だし。」
イリア「はいはい。」
シリル「…刺激が強かったかな…そうだよね…今丁度お年頃だもんね…。」
ジーク「…わざわざ言うな。」
シリル「あぁそれと、さっきの話なんだけど…そのポルポルちゃんは悪魔なのは僕達は知ってるよ。だけどどうこうするつもりはないから安心して。」
アリィ「なんで知って…」
シリル「えっとね、僕が少しだけほんの少しだけ他の人より悪魔や魔法に詳しくて。だからあぁ悪魔なんだろうなぁって。…言わないと随分怪しくなっちゃうけど…これ以上は…あっ名前言ってなかったね。僕はシリル。彼女はイリア。」
アリィ「…1つ聞いてもいい?」
シリル「うん。」
アリィ「同じ指名手配者ののよしみとして…って言ってたけど…」
シリル「あー…イリアは違うんだけど、僕が人殺しでね。しかもそこそこの偉い人を殺しちゃったものだから…」
イリア「それについては訂正させて。」
シリル「イリア。」
イリア「ちゃんと着替えてきたわ。さっきの話だけど…少し事情が複雑なの。殺人は悪いことなのは違いない。ただシリルの場合は自己防衛の為には仕方がないとしか言えないわ。私の両親がシリルを家族のとこから誘拐してね。実験台にしようとして返り討ちにあったってわけ。」
ジーク「実験台…ってことは研究者か?」
イリア「えぇ。因みに私も研究者よ。あいつらとは違うね。あと、正確には私も片方殺してる。ただ指名手配者にならなかったのは、私という価値を失いたくないから。だから押し付けたのよ、シリルに。」
アリィ「…でも普通は正当防衛なら考慮して貰えない?」
イリア「普通はね。でもそれは貴方達の国にとっての普通で、私が居た国の普通じゃない。私の故郷ドガール国は実力至上主義。価値が絶対なの。何年も高品質なものを生産していた工場が価値の分からないものに壊されたの。価値は分からなければ結局はゼロなの。ほんとくだらないわ…。先に手を出したのはこっちなのに…。」
イリアが強く拳を握りしめる。
シリル「イリア。力を緩めて、血がまた出ちゃうから。」
イリア「無意識にしちゃってたわね…。」
アリィ「随分包み隠さず、話すんだね。」
シリル「ああ、言ったところで指名手配者が指名手配者を突き出すなんてこと出来ないし、何より君たちから信用を勝ち取らなきゃいけないから。」
ジーク「そ、それも言うのか…。」
シリル「うん。今の目標はまた家族と再開すること。イリアはその手伝いをしてくれてる。といっても血の繋がってない傭兵集団だから今どこに居るのかも分からないんだ。名前は出せないし…とりあえずリーダーの外見だけでも…多分見たらすぐ分かるし絶対覚えてるよ。その人はね、有翼人なんだけど…背中に羽が生えてなくて代わりに腕が羽になってるんだ。」
ジーク「…奇形か。」
シリル「うん。見てない?答えて欲しいけど…答えなくても大丈夫。」
アリィとジークは2人で顔を見合わせる。
アリィ「それくらいなら…答えても全然いいけど…見てないよ。」
シリル「…そっか。ありがとう。この辺りはハズレなのかな…。」
イリア「…今日はダメそうね。明日になったら出発しましょう。今日はここで1日過ごして頂戴。そうそうもうこの付近は情報が回ってるから出発するなら砂漠方面にするといいわ。私達もそっちに行く予定なの。」
アリィ「あっ!そういえばなんで指名手配書なかったのに警備隊が…」
イリア「あー…それね。ここのオーナーに聞けば分かるわよ。」
シリル「…はぁ。」
ジーク「あっもう大体分かった。…金づるだと思われたか…。」
イリア「ご名答。一般人にとっては正義なんかより明日のご飯だもの。客になって貰えるなら何だっていいのよ。わざと剥がしてたってこと。まぁ通したのは流石にそれがルールだからだと思うけど…。ちゃっかりしてるわよね…ここの人たち。警備隊すらも不真面目だし。まぁでも人のまぐわいは誰も見たくないか。」
アリィ「へ、変な町…」
シリル「生活は出来るけどそれだけ貧しい町なんだよ。」
アリィ「な、なるほど…砂漠かぁ。」
アリィが砂漠という単語を発するとジークは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ジーク「確かに砂漠方面がいいんだろうけど…」
イリア「さっき等価交換でシリルの家族の情報は貰ったからこれはただの提案なんだけど、砂漠はしばらく私達と一緒に行かない?」
アリィ「等価ってなんだっけ…」
シリル「僕達にとっては等価だよ。それくらい簡単ってこと。まぁ…いきなり連れ出せば不審がられちゃうしそうしなかったけど…仮にも僕は傭兵だからね。その気になれば脱獄も出来る。…そうならないよう願うけど。」
イリア「シリルは傭兵で実力は確かよ。悪魔なら心配しないで。あっ、私は戦えないから隠れてるわね。」
アリィ「2人でも十分そうなのになんでわざわざ誘ってくれるの?」
イリア「単純に人数が増えれば確実に生存率が高まるからよ。砂漠では悪魔ではなく環境に殺されることが殆どだもの。」
アリィ「…どうする?」
ジーク「…警戒は緩めないようにしよう。…分かった。一緒に行こう。」
シリル「決まりだね。戦えなければなるべく避難しててね。」
アリィ「うん、戦えないことはないけど最近捻挫したばかりであまり無理したくないから私はイリアと一緒に隠れるね。」
ジーク「ああ。俺も近距離は期待しないでくれ。扱いが上手いのは弓だけだから。」
シリル「なら、バランスがいいね。僕は遠距離が苦手だから。」
イリア「捻挫にも色々レベルがあるけど…」
アリィ「歩けるから大丈夫」
イリア「ならいいわ。でも貴方達をその格好で砂漠に連れ回す訳には行かないわね。」
イリアはそう言ってジークとアリィの服を見る。
イリア「適当に見繕ってくるわ。好みはある?」
ジーク「いやこれは?1番砂漠連れ回しちゃいかんだろ…。」
ジークはそう言ってシリルの羽織を指す。
シリル「それなら心配ないよ。」
シリルはそう言うと、上着のポケットから涼し気な服を取り出す。
シリル「服はこれがあるし、羽織も同じようにしまえるからね。」
イリア「深く考えたら負けよ。」
シリル「自分でもよく分かってないんだよね。なんか種があったはずなんだけど忘れちゃって。」
アリィ「それ本来は忘れたらもう二度と扱えないやつでしょ…。」
シリル「こういう勘だけはよくって。」
イリア「君達荷物が見当たらないけど…」
アリィ&ジーク「ここ」
そう言って2人はポルポルを指す。
アリィ「ポルポル、だして。」
ポルポル「ギッ」
ポルポルは下に重たい荷物が入ったバッグを下ろす。
イリア「…ほんと不思議。あるならいいわ。服の好みは?」
アリィ「動きやすい服!」
ジーク「同じようなもので。」
イリア「それなら、装飾の少ないものを選んでくるわ。今はでない方がいいからそこで好きに過ごしてて。」
シリル「僕は?」
イリア「留守番。英気を養ってて。仲良くしててもいいけど。」
シリル「分かった。」
イリアが部屋を後にする。
ポルポル「ギー?」
シリル「?どうしたのポルポルちゃん」
アリィ「ポルポル、食べちゃダメだからね…」
ジーク「そういや前科あったなこいつ…」
シリル「…人を食べたことがあるの?」
アリィ「あっいや正確には、口に入れてただけですぐ吐き出したけど…」
シリル「どういう経緯か教えて貰っても?」
アリィ「…盗賊にあってそれで…」
アリィが質問に答えると、シリルは深く考え込む。
アリィ「あ、あのー…」
ジーク「だめだこれ聞いてないぞ。砂漠か…」
アリィ「珍しいね。ジークが乗り気じゃないの。」
ジーク「そりゃもう…他の人間より水分が必要なセヌス人にとっては砂漠に行けは、死ねと同義語だからな。」
アリィ「さっ流石に嘘でしょ…。」
ジークは何も答えないがしかめっ面をしている。
アリィ「嘘だよね…?」
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