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冷淡な美女、フランチェスカに答えるバストロは再びの大声であった。
「レイブっ! 剣を離すんだっ! このっ、このっ、良しっ! 取り上げたぞっ! ペトラっ! ヴノぉっ! もう一度レイブに回復を頼むぅっ!」
『微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)! 微回復(プチヒール)!』
『高回復(ハイヒール)、ふうぅ』
脅威の八回連続詠唱を唱えたペトラに対して、ヴノは回復の上位互換スキル、『高回復(ハイヒール)』で応えた、これはかなり難しいスキルらしかった様でさしものヴノであっても随分くたびれてしまったっぽい声を漏らしていた。
ギリギリで死んでいなかったらしいレイブは再び復活の声を漏らす。
「う、うーん…… おじさん? バストロおじさん? 僕、生きてるの?」
バストロは力強い声で答える。
「ああ、レイブっ、もう大丈夫だぞ! お前から魔力を奪い続けていた魔剣、俺の妻フランチェスカの愛剣、『モクスラ・ベ』は今や俺の手の中だからな! お前を害する事は無いっ、安心して良いぞぉ! そもそもな、それ専用の刃物ってヤツは手にしている魔術師から生命力、所謂(いわゆる)魔力ってやつを吸い取り続けてしまうんだよ、えっと、俺たち流に言うとMA力だな、判るよな? レイブ! だから扱う時には細心の注意が必要に…… う、ううぅ、うー…… きゅうぅ~」 パタリ!
「お、おじさんっ! ってかし、師匠おぅーっ!」
フランチェスカは無表情のままで叫ぶ。
「ば、馬鹿、大馬鹿ぁっ! アンタが握ったままじゃないのぉっ! ヴノっ! 回復出来るぅっ!」
『済まぬ、魔力切れじゃ……』
「くっ! おいでっザンザスっ!」 ピイィー、ピピピッピイィー!
無表情なくせに声音だけは緊迫した風情を加えて叫んだフランチェスカは、言葉に続けて、見た目に似合わぬ指笛を吹き鳴らしたのである。
一瞬後、いいや正確に言えば瞬の時を経ずに大きな声が響く、正に刹那の嘶(いなな)きである。
『ヒヒヒィーン! お嬢っ! 呼ばれて飛び出てザンザスですよぉっ! ヒヒンッ!』
「ザンザス回復! バストロに!」
『りょっ! ヒヒヒ『ヒール』ぅっ!』
どこからとも無くこの場に現れて回復スキルを唱えた存在は、驚くほど大きな馬、である。
元々の種族としては恐らくだが、イギリス原産の巨体の馬、シャイヤーだと思われたが……
特徴的な四肢を覆った長毛がその予測の理由で有った、しかしぃ……
原種が何であったとしても、この魔獣、獣奴(じゅうど)のサイズは大き過ぎたのである。
肩高(かたこう)で八メートル位だろうか? つまり背中までで巨大なヴノの半分ほどに届いている。
そこから高く伸びた馬型の首は、世界でも最大種の一体であろう我等が大猪(おおいのしし)の顎まで達するほど高い物だったのである。