※ホラー?バットエンド注意
例えば、空を自由に飛び回る夢を見る。
俺はその日、飛行機事故で数百人が亡くなるニュースを見て、言葉を失った。
よくわからない何者かに追われ続ける夢を見た。
そしたらその日、友人がゴキ様を追っかけ回しているところを目撃した。
綺麗な風鈴の音色に耳を澄ます夢を見た。
次の日、工事が始まってあまりの騒音の大きさに布団に潜り込んだ。
俺は、見た夢全て逆さまになって現実となる。
そして、それは必ずしも毎日見るわけじゃなく、見ない日もある。
だが、見た日には必ず不幸なことが起こる。
俺は学んだ。夢を見てはいけない。見たなら、これから起こる「不幸なこと」に覚悟をしなくてはいけない。
夢について調べた。
夢は浅い眠りほど見やすいそうだ。
睡眠薬で、夢を見ないほど深い眠りにつく。
それでも夢を見てしまった場合、夢の内容から逆のことを考えて、これから起こる「不幸なこと」を予測する。
それが、俺の生き方だ。
俺は、夢を見てはいけない。
この生活にも慣れたつもりだった。
久しぶりに夢を見た。俺が友人に殺されそうになる夢。
呼吸が浅く、まだ心臓がバクバク鳴っている。
……この逆夢の欠点は、どこが逆になるのかがわからないというところだ。
例えば、今さっき見た夢。
俺が友人を殺すのか、それとも友人が殺されそうになるのか。
どちらにせよ最悪な不幸には変わりない。
どうすればいいのかわからない。はーっ、と大きく息を吐く。
……もし、俺が友人を殺すのなら、家に閉じこもって友人を徹底的に避ければいい。
俺はアイツとずっといい友達でいたい。
でも……アイツが、殺されそうになるなら、閉じこもるわけにもいかない。
アイツが死ぬくらいなら、俺が友人を庇って死んでやる。
これからも未来でアイツと一緒に笑いあいたいんだ。
ピンポン、とチャイムの音を鳴らす。
「イクト、いるか?いたら返事してくれ」
直ぐにドアが開いて、いつもと同じように笑うアイツが出てきた。
「ムーマから家くるなんて珍しいな。どうかしたのか?」
「……お前、大丈夫か?なんにもないのか?」
一瞬、絶望したような表情をした友人の顔を見て、もしかしたらもう何か起こってしまったのかと覚悟を決める。
しかし、アイツが口にしたのは意外な言葉だった。
「はい?何にもないけど。ムーマこそ急に来るなんて何かあった??」
「……い、いや。ちょっとお前が心配になって……虫の知らせ?的な……」
「ッハハ、なにそれオモシロ。あ、そうだ。せっかく来てくれたし、上がれよ」
いつもと同じ調子で、アイツは言った。あの顔は幻だったのかと思うほど、普通に。
「じゃあ、お邪魔して……、!!」
リビングに上がって俺は絶句する。さっきまでアイツの身体とドアで隠れて見えなかったけど、家に入った今、よく分かった。
不自然なほど赤く染まった床と、生臭い鉄の匂い。そして、そこにある死体。
「ッ、…………!」
「お前、変なところでカン鋭いよな」
さっきとは違う、別人のような泣くのを我慢しているような笑顔で、アイツは言った。
その手には、水で濡らされた包丁がある。おそらく、洗った凶器だろう。
その光景は、見たことがあった。
夢の内容と同じだ。
このあと、俺は殺されそうになった。……夢から覚めたおかげで、死ななかったけど。
……“殺されそうになる”、が逆になって“殺される”?
それなら……辻褄が合う。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。殺されたくない。
けど。
「……ごめん」
「本当だよ。気付くならもっと早く気付けよ。そしたらお前も、コイツも、殺さなくてよかったのに」
「ごめん……!」
「……俺、お前と未来で笑いあいながらずっといい友達でいたかったんだ。その“夢”は叶いそうもないけどな」
……あ。
違う。違う!
俺が見た逆夢のさしたものが「友人が“他人”を殺す」ことなら?
俺が「アイツとずっといい友人でいたい」「未来で笑いあいたい」と願って……言い方を変えると、“夢見て”しまったから、それが逆夢になったとしたら?!
俺は、アイツと友人でいられなくなって、未来がなくなる……。
だとしたら、アイツが俺を殺さなきゃいけなくなったのは、俺のせいだ!!
俺が、アイツを殺人犯にさせてしまった!!
「ごめん……!!」
「……俺の方こそ、ごめんね」
「夢真(ムーマ)」
コメント
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すっごく素敵なお話です✨