【1】勢いで目が覚めることってたまにある。嫌な予感、曇るな、今日は。と目を開けたりする鬱陶しい朝。今日もそんな感じだ。そうか、今日はリコと会う約束であったか。
玄関のドアを開けると同時に外側のドアノブを掴み無駄なく飛び出した私は、忘れ物がないかという考えが頭によぎる前に今日親友に会う約束だったことを意識していたので、気軽な気分でそんなこと考えなかった。公園に彼女を見つけることが出来た。
わざわざ隠れて、待ち合わせ時間ちょうどに出てきて軽く挨拶をしたがそれは答えてくれない。2人の行き付けのカフェが普段とは違った雰囲気に違和感を覚える。重い相談だった。どうやら詐欺に引っかかってしまったらしい。彼女はこれからどうするのだろうか。いかにも、その事を相談された訳だが私にはリコの気持ちに共感出来なかった。
私は少し悩んで、んー、これは難しい問題だね。と返した。人が相談してくる時ってのは2パターンある。ひとつは適当な共感を求めてる時、つまりただ話を合わせて欲しい時。それともうひとつはその問題の答えを知りたい時、追い詰められてる時。今回はその後者であったのだ。
【2】
リコはニュースになっていた。テレビに釘付けになりながら、共通の友人のスミレに連絡した。自殺しちゃった、相談乗ってたのに。そう言って彼女と少し会話を始めた。
あの子、最期何じゃべったの?そうスミレに言われて意表をつかれた。私、なんて言ったんだっけ。最期の会話なのに、何も思い出せない…。彼女のことは一生の友人だと思っていたのに。どうしてどうしてと考えても答えが見つからなかったし、最期の言葉もハッキリとは思い出せないままであった。
墓が立てられていた。お参りに来るからね。お盆に来るよここに。そうメッセージを墓の段の上にそえた。そうして暫くは、私殺したも同然かもしれないと考えるようになっていった。そしてその後悔は私の仕事の邪魔をした。上司に怒られる回数も増えた。
それから全てが嫌になった。墓参りなどもいかずに、現実から逃げて生きていた。朝の満員電車、ネチネチ口調の上司、社会のいつまでも解決しない規模の大きな問題までにも腹が立ち、結局私も死のうと決めて線路を見下ろした。そして身を乗り出して、なんだかよく分からないまま視点が転がり、ふんわりした気持ちのまま逝った。
【3】
スミレは後追い自殺かと悟った。アキナもリコも、どちらも大切な親友なので、自分の立場が恐ろしくて身が引けた。この歳で友人の墓参りを2人もしないとならないなんて尋常じゃない。そう思った。私は2人を忘れることが出来なかった。
気づけば占いやカルト宗教に足を突っ込み今までの自分とは考えられないほど私生活が不安定になった。日々迷い、葛藤し、不安を抱えていた。イタコの先生に出会ったのはその中でも不幸中の幸いだった。
先生の下ろしてきた2人の友人はそれぞれ私に感謝と、これからも強く生きて欲しいと言ってくれた。私は2人の友人のイタコの嘘でも偽りでもあるだろう言葉に翻弄されていたのかもしれない。それでも信じたいと思った。それにも理由があった。
それはリコはアキナに遺言を残したからだ。その内容はこうだ。彼女、勘違いしちゃったみたい。私ね、相談に乗ってくれただけで良かったの。別にね、明確な答えを知りたかった訳じゃない。だからあなたも私を救えるわけなかったの。それを聞いて結果的に私は日常を取り戻せた。いつも通り仕事に出向き、上司には怒られっぱなしだが、それは単調に感じられたし、何より私は2人に気を使わず生き続けようと覚悟を決めていた。イタコの呼んだ存在の言葉は嘘とも考えられるが、私はもう既に、生に固執する、気に入ったエンディングを見つけたから。~完~