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85 - 第85話 七の罪状 ~前編② 勧誘

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2025年06月09日

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勝敗は決した。だが熾震は具現刀を解く事無く、血溜まりに沈んだ遺体を見て取る。



――遺体は微動だにしない。どうやら完全に絶命している模様。



それでも熾震が臨戦態勢を崩さないのは、一つ気になる事があったからだ。



この得体の知れない者が、気配を消しながら自分に近付いて来たのは分かる。それに気付けたのは、熾震がこれ迄培ってきた実戦的な勘に他ならない。



だが幾ら気配を消した処で、直前まで気付けない事は“絶対に有り得ない”。



狂座に属する者は、誰でも専用の生体測定機『サーモ』を兼備している。これにより周囲の生体反応を事前に察知する事が出来るのだ。



だが今回の件は、この者に対して何も反応を示さなかった。



“サーモの故障、もしくは誤作動?”



しかしそれ以前のターゲットへの反応は通常と変わりなかったので、それも考え難い。



もしこれが故障でも誤作動でもなく、正常な状態で反応を示さなかったのだとしたら、これはかなりの非常事態となる。



“狙われたとしたら、気付かないまま暗殺される可能性が高い”



熾震はその可能性に焦燥感を駆られながらも、今自分が為すべき事を冷静に把握する。



“上層部への通達を”



その手の役目は別部門の仕事だ。エリミネーターは執行及び、戦闘専門。此処で幾ら考えても、この状況が解決出来る筈もない。



熾震は腕に装着してあるサーモより、狂座と通信連絡しようと手を伸ばすが――



“パチパチパチ”



「――っ!」



不意に聞こえてきた手拍子に反応し、その音の出所へと振り返った。



“他にも居たか!”



其処には何時の間にか、同じく純白のフードに包んだ人物が。



先程の者と同様、サーモは無反応を示していた。



熾震は即座に構える。今度は有無を言わせず――斬る。



「くっ……」



しかしどうした事だろう。抜こうとするが、身体が抜く事を拒否している事に熾震は戸惑いを隠せない。



それは眼前の者から感じられる、本能を突き刺す悪寒か。既に彼の額からは、冷や汗がびっしりと滲み出ている。



サーモでは解らなくとも、この者が同じ純白の姿形とはいえ、先程の者とは比較にならないだろう事は肌で感じ取っていた。



「……以前とは桁違いに腕を上げたね――熾震」



新たな純白の人物はゆっくりと近付きながら、そう熾震へと呟き掛けた。



「――っ!?」



“この者も自分を知っている?”



だが先程の者とは違い、その口調は何処か“知り合い”へ向けてのもの。



それにこの中性的な声は、何処か聞き覚えがあるような気がしていた。



「随分と久しいね。君の成長、私も嬉しく思う――」



怪訝に固まっている熾震へ、この者は純白のフードを上げてその素顔を晒け出す。



「あっ――貴方はっ!!」



その姿に熾震は驚愕の声を上げていた。



「そうか、貴方が全ての……」



熾震も顔見知りであるその人物。突然の邂逅に戸惑いを隠せないでいる。



「それにしても本当に成長したね――熾震。君の潜在能力には、私も一目置いていた」



戸惑う熾震を他所に、その人物は讃えるように語り掛ける。その口調に敵意は感じられなかった。



「うっ……」



だが熾震は思わず後ずさる。明らかに怯えている。



「うん、なるほど……臨界突破レベルも『180%』を越えているね。後天性がこの短期間で第一位にまで上り詰めたのは、狂座の歴史の中でも特筆に値するよ。一体君にどんな心境の変化があったのかな?」



この人物は何者なのか。熾震の反応からも狂座に近しく、もしくは――



「わ……私を殺しに?」



熾震は一番危惧した事を、震える口調で訊いていた。



先程の者との関係性を考えると、それが一番辻褄が合うからだ。



「殺す? 嫌だなぁ、私は君の力を見極めに来たのだよ」



「えっ!?」



だがその人物は、熾震の危惧を否定する。



「試すような事をして済まないね。先程の者だが、彼は“探索師団長”の任に着く者でね。かつての君より、少し上の位に在ったレベルの者だ」



その者は横たわる遺体に目をやり、先程の者の事を促した。



同じ姿形で現れた事といい、やはり関係性があった。



「今の君に彼では少々荷が重いとは思っていたが、此処まで差が在るとは驚いたよ。うん――“合格”だ」



「それは……どう言う?」



“合格”



その人物の意味深な一言を、当然熾震は理解出来ないでいる。そもそも話の筋が見えてこない。



「言った通りだよ。君は私と共に歩む資格が有る」



それはつまり――熾震を此方側への引き込み。



「もうすぐ新たな世が幕を開ける。それに伴い古い世も終わりを迎え、同時に狂座も瓦解……。君は新たな世で私の力になって欲しい」



「そっ――そんな馬鹿な事を!」



熾震は狼狽えながらも、その誘いを否定――考えあぐねているようにも見えた。



この人物は一体何がしたいのか。



――今の世も狂座も終わる。そして新たな始まり。



「まっ……まさか?」



熾震はその真意に気付き、心底震撼する。



「そう、そのまさかだよ」



俄には信じ難いが、彼がやろうとしている事は――実質的全政権奪取。即ち世界的クーデター勃発。



――全く馬鹿げている。そんな事が実現出来よう筈がない。“普通”の感覚なら鼻で笑って終わり。



「な、何故そんな……貴方程の人がそんな事を?」



だがそれでも熾震が危惧したのは、この人物ならそれが可能である事を示していたからだ。



「フフフ……君も知っての通り、この世は救いようがない迄に病んでいてね。転移した末期癌――って感じかな? このままでは人は遅かれ早かれ、自ら滅びの道を歩む事になる。ならその前に、正しい道を示せばいい。君にも……この現状は分かっているだろう?」



彼の言い分にも一理有る。繰り返される人の世の業は、狂座の力を以てしても終わらせる事は出来ない。



「し、しかしそれは……」



だが熾震は頷ききれない。それ即ち、国際的テロ行為と何ら変わらないからだ。



特に裏が表へ進出する等――



「君は本当に強くなった」



戸惑い続ける熾震へ、彼は不意に話を逸らす。



「――が、素のままでは越えられない壁が在る。それが後天性と先天性、特異点との決定的な差だ。君はもっと強くなりたいのだろう? 人を超えた先に在る、その領域へ」



「――っ!」



まるで心を見透かすような、その一言が熾震の心を揺れ動かした。



――そうだ。強くなりたかった。



第一位に到達しても、その心が晴れる事は無かった。



“上には上が居る”



SS級――熾震はかつて痛感したその者達との、如何ともし難い差を決して忘れる事は無い。それを糧に己を鼓舞してきた。



それで現在の自分が在る――だがそれでも、越えるべき壁は果てしなく高い。



自分には到達出来ない事は、薄々感付いてはいた。



“所詮、与えられた紛い物”



だがそれでも――



「私なら君をその高みへと連れて行ける。さあ行こう――共に新たな世界へ。君は此処で終わるべきではない」



熾震の揺れる気持ちを汲み取ったのか、そう彼は手を差し伸べていた。

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