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66 - 第66話 六の罪状③ 偽善者

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2025年06月06日

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“水無月 亜美”



ティアマト出版のティーン向け情報誌『エターナル』の編集者。



彼女は凡そジャーナリストには向かぬ程に、一際人目を惹いた。進む道を間違ったと思える程。



容姿端麗。一言で現せば陳腐とも取れる形容表現も、彼女の前では霞んで見えた。



動きやすさ重視のジーンズ主体のカジュアルなスタイルながら、一目瞭然な程に手足が素晴らしく長く、身長は平均ながらその抜群の体型のせいで、やたらとプロポーションが良く見える典型だった。



顔立ちも素晴らしく整っており、艶やかで癖っ毛の無い黒髪は、下ろせば今では決して見られぬ純正の大和撫子風の様相を呈していた。



本人には自覚が無いのか、化粧も程々にお洒落にも気を使っている風にも見えないが、それでも道行く人々が思わず振り返らずにはいられない程、彼女の存在感は際立っていた。



重々、彼女は別の道を選ぶべきだった。その天性の存在感を活かしていれば、今頃ひとかどの人物になり得た事だろう。



それが何故、よりにもよって業界でも禁忌とされる、狂座を追うジャーナリストなのか?



彼女と関わり合う編集部の者達にとっても、それは理解出来ぬ不思議であった。



“誰かの為?”



否、誰か男の影も彼女には不思議な迄に見当たらない。これ程の器量なら如何程にでもなるだろうが、彼女はこれまで全てを、事も無げにあしらってきたのは周知の事実。



色恋沙汰にうつつ抜かしている暇が無い――というより、彼女の頭に、目に映るのは――



“狂座”



この事に関する一点のみ。



――予定の時刻。待ち合わせとなる場所、オフィス街の場末のカフェテリアに到着した亜美は、店のガラス扉を押してテラス内へと入る。



ちょうど昼下がり。店内は疎らながらも、一息つきたいビジネスマンで、それなりに賑わっていた。



待ち合わせの人は――居た。



何処か物憂げに、奥に一人で腰掛けている。



事前連絡で目印は確認済みなので、亜美は確信を以て彼女の下へと歩を進めた。



淡いグレーのスーツを着込んだ、ショートカットの一見少女とも取れる女性。



まだ十九歳との事だから、あどけなさは残るにしても、年相応以上に幼く見えた。



「杉村……葵さんですか?」



間違いないだろうが、亜美は彼女へと一応の確認を促す。



「……はい。貴女が――」



間違いないようだ。



「はい、初めまして。『エターナル』編集者の水無月と申します」



亜美はそう名刺を手渡しながら、少女の対面に腰掛けた。



“この子が……狂座に?”



ようやく訪れた情報の当事者を前に、亜美は目の前の少女に動揺を隠せない。



それは凡そ“殺人代行”とされる狂座と、関わりがある風には見えなかったからだ。



人は見た目にはよらない。だが彼女がガセを提供するような雰囲気の人物にも思えない。



「私の顔に……何か?」



不思議そうに問いただしてくる少女。



「いえ、済みません。何か頼みますね」



「お構い無く……」



お見合いをしにきた訳ではない。亜美は二人分のアイスカフェオレを頼み、本来の主旨に入る。



この少女が何を知っているのか。その霧の掛かったように掴めない狂座――その真相を。



「――では杉村さんは、都市伝説として実態の無い狂座へ、殺人代行を依頼した事があると?」



「はい……間違いないです」



此所に来てからどれ程経ったか。少なくとも取材は既に一時間を越えていた。



それでも聞き入るように、二人の間でやり取りは続く。



それは亜美にとって、これまでに無い程貴重な情報の数々だった。



そして俄には信じ難い狂座の実態に、亜美の思考も混乱していた。



狂座とはウェブ上には存在しない。



だが確実に存在する。此方から探すのではなく、向こうからやってくるのだと。



亜美以下、普通の人々がアクセス出来ないのも当然。



少女――葵が言うには、相手を殺したい程憎んだ時、それは突然やってくるのだと。



――己の携帯に。アドレスも存在せず、勿論送れる筈も無いのだが。



亜美は葵にその受信内容を見せて貰えるよう頼んだが、彼女が言うには依頼完了と同時に、受信された狂座に関する全てのものは消去されていたと。



証拠となるものが何も無いのなら、全てを鵜呑みにする訳にはいかない。



だが彼女が嘘を言っているとも思えない。



狂座の徹底した証拠隠滅。現代では到底考えられぬそのやり方。



やはり呪いと云った類いなのだろうか。



亜美はその可能性も考えたが、すぐに振り払う。



呪いで人を殺せる訳がない。葵の話が本当なら、狂座とはれっきとした人の力によるものだと確信。



なら考える――狂座とは人の手によるもの。



そしてある一つの可能性に行き着いた事に、亜美は思わず震撼していた。



これだけ噂以上に成立した“殺人代行”という、類を見ない重大犯罪の噂が蔓延しているというのに、警察組織は――国は何も打開策を取ろうとしない。



証拠が無い。単なる噂――と言ってしまえばそれまでだが、余りに腑に落ちない不自然さ。



“国ぐるみで黙殺している?”



いや、それよりもっと可能性として恐るべき事実。



“狂座と国は密接な関係で繋がっている!?”



これは単なるジャーナリストとしての“勘”だ。常識的にその考えに行き着く方がおかしい。



だがもし――そうだとしたら?



辻褄は合う。そして法治国家そのものが、根底から覆されない程の。



蔓延し留まる事を知らない凶悪犯罪。追い付かない法の裁定。



それを秘密裏に、国家の裏の法として裁くのが狂座の正体だとしたら。



考えれば考える程、欠けたピースが埋まっていく。



発覚しないのも当然だ。存在しないのだから――“表”に。



恐らく狂座とは超法規的組織。そして現状では、我々の考えも及ばぬような力を持った組織だと推測する。



葵のこれまでの話から推測した、まだまだ憶測の域を出ないこの仮説だが、亜美の推測は存外的を射ていた事になる。



――それにしても葵だ。



何故このような、一見大人しそうな少女が狂座へ依頼出来たのか。



「……どうかしましたか?」



「あっ! い、いえ……」



何時の間にかまじまじと見詰めていたらしい。



葵が怪訝そうに返すと、亜美は慌てて目を逸らし、言葉を濁した。



少しだけ気まずい雰囲気。



狂座の事は憶測だが、葵の情報提供のおかげで少しは掴めた気がする。



不毛なこれまでに比べると、これは大きな一歩だ。



後は――



「話は変わりますが、杉村さんは何故……これが殺人代行だと分かった上で依頼したのですか?」



彼女が狂座へ依頼したきっかけとなる、その心理状態の程を。



これは人の傷口へ踏み込む行為かもしれない。



葵は狂座へのアクセスの鍵を、恨み――と言った。



殺人をいとわない程の憎悪。それが如何程のものかを、亜美はこの少女から知りたいと思った。



「…………」



亜美の問いに葵は応えない。



やはり時期早尚だったと暫しの沈黙が続いたが。



「……水無月さんは誰かを、殺してやりたいと憎んだ事は無いんですか?」



葵は不意に口を開く。それは亜美への逆の問い掛け。



「えっ? そ、それは……」



亜美は言葉を詰まらせた。まさか逆に返されるとは思わなかったからだ。



人間とは喜怒哀楽の生物。時には思いがけぬ事で、他人を憎む事もあるだろう。



それは恋愛感情のもつれだったり、対人関係のトラブルだったり。



場合によっては殺意を抱く事も。



「でも……それで殺人代行依頼はどうでしょう? どんなに憎くても、そして犯罪は法の裁きで解決すべきだと思っています」



実に正論だ。彼女の信念として、犯罪を犯した者は法によって裁かれるべきだと。そうでなければ法治国家としての意味が無い。



狂座を暗に認める事は、無法地帯と同意語。



それが亜美が狂座を追求する一因なのか。



「ふふふ……。随分と甘い考えをお持ちなんですね」



葵はそんな亜美を一笑に伏す。心なしか嘲笑っているかのような。



「どう言う……意味ですか?」



その態度に少しばかり勘に障ったのかもしれない。亜美は穏やかな口調を崩さないながらも詰め寄った。



「犯罪には法の裁きを――。ではそれが表に出る事なく、のうのうと暮らしている犯罪者はどうでしょう?」



「それは……」



「仮に捕まって法の裁きを受けたとしましょう。犠牲者が一人と言う理由で死刑を免れたり、未成年者と言う理由で本来なら死刑に相当する犯罪で減刑。なら……被害者の、その被害者達の無念さは何処にいけばいいんでしょうね……」



「…………」



亜美は反論出来なかった。



どちらが正しくて、どちらが間違っているのか。



答は――出ない。



「そう言えばこんな事もありますね」



葵は尚も続ける。



「死刑廃止論者。彼等は皆口を揃えて、命以外で罪を償う道を進ませるべきだとか、一見格好良い事言ってますけど、いざ当事者の家族が殺された時、手のひら返したように死刑存続を掲げちゃったり……。おかしいですよねそれ?」



「つまり……偽善者だと?」



「それ以外何かあります?」



つまり葵は亜美の『犯罪は法による裁きを』の考えを、遠回しに皮肉っているのだ。



それは当事者以外分からない思い。どんな綺麗事や御題目を並べても、当事者でない以上、只の偽善だと。



「では……狂座は必要悪と、そうおっしゃりたい訳ですね?」



「私はそう思います。法では決して賄えない事まで、彼等は代行してくれるのですから……」



葵の言っている事は、あながち間違ってはいないのかもしれない。



彼女の瞳から消えたのであろう光。救われない想いを亜美は“痛い程に”感じていた。



きっと以前は表情豊かで、よく笑う子であっただろう事は容易に想像出来た。



無力にも等しい法。狂座以外では晴らせなかった想い。


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