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Eliminator~エリミネ-タ-

67 - 第67話 六の罪状④ 出会いは何時も突然に

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2025年06月06日

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************



「――本日は貴重な情報をありがとうございました」



「いえいえ」



二時間程は居ただろうか。店外へ出た二人は各々の帰路へ。



亜美にとっては非常に有意義な情報だった。早速戻って検証せねば。



だがその前に――



「でも杉村さんはどうして教えてくれたんですか? 殺人代行……それを外部へ漏らす事で、自分の身に危険があると思わなかったんですか?」



亜美にとって、どうしても解せなかった事。それは狂座がそれ程までに強大な力が働いてる組織だとすれば、その秘密を漏らした葵への危惧。



普通なら徹底した秘密保持に努めるだろう。



「構いませんよ。狂座の依頼規約に、この事を外部へ漏らすな――なんてなかったですから……。だから都市伝説として広まってるんじゃないですか?」



だが葵は意に介さない。



確かにそれが事実なら、かつて狂座へ依頼した者達が外部へ漏らした事で、現在の都市伝説として浸透したのだとしたら納得だ。



それにしても――



“狂座は自身が外へ漏れる事を全く恐れていない?”



余程看破されない自信があるのか?



それとも敢えて存在をアピールしているのか?



どちらにせよ一つ確かな事は、狂座は司法国家権力を全く恐れていないだろう事。もし本当に国家と繋がっているとすれば尚更だ。



その底知れぬ狂座という名の持つ裏の真意に、亜美は心底震撼した。



もしかしたら自分は絶対に関わってはいけない、とてつもないモノを追求しているのではないかと。



だが今更断念は出来ない。



どうしても追い続ける“理由”が亜美にはあった。



それは狂座を社会悪として、白日の元に晒そう――ではなく。



「それと……」



「――っはい?」



不意に掛けられた葵の次の一声に、我に返ったように亜美は声を上擦らせた。



「興味があったんですね……狂座の事をここまで取り上げようとするジャーナリストさんに。他の雑誌では怖いのか、もう取り上げようともしないのに」



葵が亜美に、亜美だけに自分が知る情報を提供するに至った理由を。



「それで……どうでしたか?」



亜美が返すそれは、彼女が実際に自分に会ってみて、どのような印象を受けたか。



「ええ……笑える位の偽善者って感じですか?」



葵はそう少しだけ嘲笑うかのように。



これには誰だろうと立腹するだろうが、亜美は反論しない。ありのままとして受け取る。



図星な上、葵の言い分が分かるから。



「でも……只の偽善者とは違う感じも受けました。水無月さんは単なる正義感や興味本位だけで、狂座を追っている訳ではないんでしょう?」



「…………」



まるで全てを見透かされているような気がした。



「それは……お答え致しかねます」



亜美は葵の己へ受けた印象に、肯定も否定もしなかったが、それは暗に認めたという事。



「別に言わなくてもいいですよ。知りたいとも思いませんし……」



「…………」



二人の間にある確かな壁。決して分かり遇える事はない。



「それに私は何も狂座が全て正しいとまでは思ってません。本来必要無い……必要であってはいけない存在な事も」



葵は理解していた。狂座も――自分がやった事が真に正しい筈がない事は。



「……では何故私に?」



そこまで分かっていながら、己へわざわざ情報を提供した事に、亜美は改めて不思議に思った。



興味があったから――とは言ったが、果たして興味本位だけで取材に応じるものなのかと。



葵はその問いには答えず、亜美に背を向けて歩き出す。



最後まで理解し遇える事はなかったと、何処か複雑な想いで見送っていたが、不意に葵はその歩みを止めた。



「……ただ、正義感や綺麗事が“無力”である事を知って欲しかった」



少しだけ振り返って放たれたその一言。



“無力”



そう。どんな綺麗事や御題目を並べられても、力無き正義は無力でしかない。



「では……」



自分の考えを改めようとも、ましてや手放しで称賛もしないが――



「今日は本当にありがとうございました」



反論は必要無い。それが彼女への礼儀だろう。亜美は遠ざかっていく背へ向け一言、感謝の気持ちを述べる。



そして深々と頭を下げ、葵の後ろ姿を見送っていた。



彼女の行き場の無い想いだけは――痛い程に分かったから。



「あっ!」



何かに気付いたかのような葵の一声。それはてっきり自分に向けられたものだと思った。



「はい?」



亜美は顔を上げるが――それが違う事は明らか。葵の視線は既に亜美には無い。



彼女が向ける視線の先――



「先生!」



短い間だったが、亜美にはこれまでの彼女からは想像も出来ないような、明るくも黄色い声を聴いた。



“先生?”



駆け寄っていく葵の先に見える人物。それは白衣の長身痩躯。



「あっ! 葵君じゃないですか」



彼も葵にすぐに気付いた模様。



「偶然ですね先生。今日は往診ですか?」



「いえいえ、少し買い物を頼まれて……これ」



その手には紙袋が。



「彼女へのプレゼントか何かですか~?」



「違いますって。ジュウベエの奴への首輪ですよ」



「ああ~! そう言われてみれば、何時も先生にべったりのジュウベエがいませんね。ようやくジュウベエにも首輪ですか~。でも何故今頃?」



「親戚の子に頼まれちゃってね……はは」



「ああ~あの子ですね」



二人は暫しの間、立ち話に興じていた。



笑顔で話す葵は明るく、とても自然に。これが本来の彼女の姿なのだろう。



「――葵君も買い物か何かに?」



「いえいえ、先程まで取材を受けてたんです。こちらがその――」



葵が振り返り、手を伸ばそうとした矢先の事。



「あれ? もう帰っちゃったんだ……」



先程まで居た筈の亜美の姿は、既に二人の視界には映ってはいなかった。

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