テラーノベル
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勇斗くんと遊びに出かけてから数日後、期末テストは無事に終了。
かなり広いテスト範囲だったが、勇斗くんとの勉強会が功を奏してか、1年生時に比べて点数が上がっていた。
テスト返却日の放課後、勇斗くんと得点の発表をし合い、お互いの高得点を褒めあった。
こうして期末テストを無事乗り越えた俺たちは、終業式を迎える。
そして、高校2年生最初で最後の夏休みが始まった。
自室には、クーラーと本をめくる音だけが聞こえている 。
夏休みが始まってから一週間以上経つが、俺はいつもと変わらず家で過ごしていた。
一学期最後の日、勇斗くんと「夏休み会おうね」なんて約束をしたが、自分から誘える勇気のない俺は、勇斗くんからの連絡を待つことしか出来なかった。
最初の数日は、早く連絡来ないかと落ち着かなかったが、一週間経っても連絡が無いので、もうスマホを確認するのは止めてしまった。
会うことを楽しみにしていたのは俺だけだったのかと、少しだけ拗ねてしまう。
「……勇斗くんの、バカ……。」
本を閉じ、1人ぽつりと呟く。
こんなに誰かに会いたいと思ったことは今までに無くて、初めての感情だった。
1人、ベッドの上で勇斗くんのことを考えているとドアがノックされる。
その直後に、「入るよー」と母親の声。
「なに?」
「仁人さ、ちょっと花火大会行ってきて。」
「え!?なんで?」
母親からの話を要約すると、弟が花火大会の屋台飯を食べに行きたいと駄々をこねているそうなのだが、弟一人じゃ心配だからついていけとの事らしい。
何で俺がと思ったが、家にいてもやる事がない。
重い腰を上げて、俺は花火大会に向かった。
「うわ、人やば……」
つい声が出るほど、会場は人で溢れていた。
人混み苦手だから、あんまり来たくなかったんだよな。
勇斗くんとなら来たかったけど……。
「で、どれ食べたいんだよ。」
「えーっと、まずあれ!」
「あ、おい!走るなって!」
元気よく走り出した弟の後を追う。
あれも食べたい、これも食べたいと走り回る弟に必死について行く。
ほぼ休憩無しで動き、俺はもうヘトヘトだった。
そろそろ休ませてほしいと思ったその時、俺の前にいた弟の足が止まる。
すると、「おーい」と大きな声を上げて手を振り始めた。
手を振っている方向を見ると、弟と同い年くらいの男の子2人が、こちらに向かって手を振っていた。
「なに、友達?」
「そう!……あ!俺、アイツらと回るわ。」
「はぁ?」
「だから、ここで解散ね!遅くなる前に帰るからー!」
そう言いながら弟は、人混みの中に消えてしまった。
賑わう会場で、ポツンと一人。
こんな事になるなら、付き添わなきゃ良かった。
弟に呆れながら、もう帰ろうと振り返る。
少し歩き始めたところで、ずっと会いたいと思っていた人の姿が目に入った。
彼の姿が視界に入った瞬間、無意識に走り出してしまう。
「……は、勇斗くん!!」
「あれ、仁人!?」
久しぶりに見る勇斗くんの姿に胸の奥が明るくなる。
「勇斗くん、花火大会来てたんだね。」
「まー、ちょっと誘われてね…。仁人は誰と来たの?」
「弟。でも、友達見つけたらしくて置いてかれちゃった。」
「ははっ、そうなんだ。」
「そうだ、勇斗くんさえ良ければ、この後俺と一緒に」
「勇斗、お前何してんの? 」
知らない人の声によって俺たちの会話が遮られる。
勇斗くんの周りを見ると、そこには勇斗くんのクラスメイト達がいた。
勇斗くんに会えたことが嬉しくて、近くに人がいた事に気が付かなかった。
みんな高圧的な見た目で、目を合わせられず下を向いてしまう。
どうしよう、ちょっと怖いな……。
「なんでもないって。ごめん仁人、コイツらがいるから、また今度……」
「あ、俺コイツ知ってる。去年同じクラスだったわ。」
クラスメイトの内の一人の声で、ゆっくりと顔を上げる。
その人の顔を見ると、全く関わりは無かったが、確かに見たことがある顔だった。
「なんかさ、ずーっと本読んでんのコイツ。1人だけ浮いてたんだよね。」
「マジ!?ウケんだけど笑 ぼっちってこと?」
「ヤバすぎ、恥ずかしくないのかね。」
心無い言葉が突き刺さり、また下を向いてしまう。
下唇を噛み、両手を握り締める。
逃げたい。逃げたいのに、足が動かない。
「おい、いい加減にしろよお前ら。」
頭上から勇斗くんの、聞いた事のない程冷たい声が聞こえた。
恐る恐る、視線を上げる。
すると、そこには眉間に皺を寄せ、鋭い目つきで相手を睨んでいる勇斗くんがいた。
「は、なに勇斗。マジになんなって笑」
「お前らはふざけているつもりなのかもしれないけど、仁人は今ので傷ついただろ。謝れよ。」
「チッ……だる…。」
「謝れ。今すぐ。」
「はぁ?なんでお前にそんな事言われなきゃいけないわけ?」
勇斗くんと一番派手な見た目の男との距離が縮まる。
お互い睨み合っていて、かなり険悪なムードだ。
このまま、喧嘩になってしまいそうで心配になった俺は、二人の間に割って入る。
「あの……喧嘩は やめたほうが、。」
「部外者はすっこんでろよ!!」
怒声と共に、勇斗くんと言い合っていた男に突き飛ばされる。
思いっきり、尻もちをついてしまった。
「いっ、た……..」
勢いよく地面に打ち付け、顔をしかめてしまう。
痛みに息を詰めたその時、大きな怒鳴り声が聞こえた。
「お前!!何してんだよ!!」
驚いて勇斗くんの方を見ると、勇斗くんが相手の胸ぐらを掴んでいた。
通行人達が、足を止めこちらを見ている。
ダメだ。勇斗くん、周りが見えなくなってる。
このままじゃ、まるで勇斗くんが悪者みたいになっちゃう。
そんなの絶対に嫌だ。
止めなければと必死な俺は、後ろから勇斗くんに抱きつく。
どうか、その手を離して。
「勇斗くん、俺大丈夫だよ。どこも怪我してない。だから、やめよ?…ね?」
ぎゅっと腕に力を込め、勇斗くんを見つめる。
沈黙の後、男の襟から勇斗くんの手がするりと離れた。
相手の男が、勇斗くんの肩を乱暴に押し、大きなため息をつく。
「なんか萎えたわー。お前らもう行こうぜ。…勇斗、お前学校始まっても俺達に話しかけてくんなよ?もう縁切るから。」
そう言い残し、男達はどこかへ言ってしまった。
周囲の賑やかな雰囲気とは異なり、勇斗くんと俺の間には重い空気が流れる。
「…………ぁ…はやと、くん…あのね、」
「あーーー!!!!スッキリした!!!」
その重たい空気を払拭したのは、勇斗くんの以外な一言だった。
「え、…あの……勇斗くん?」
「俺もうさ、アイツらと一緒にいるのうんざりしてたんだよね。だから、縁切れてスッキリって感じ。」
勇斗くんがニコッと歯を見せて笑う。
笑顔になるような場面ではないはずなのに、俺の事を気遣って明るい表情を見せてくれる。
そんな勇斗くんの優しさに、目頭が熱くなってしまう。
「ごめ、…ごめんね…俺のために怒ってくれたんだよね。………でも、俺平気だよ?気にしてないから…。」
「俺が平気じゃなかった。俺が嫌だったんだよ。」
「…え?」
「仁人が目の前で嫌な思いしてるのに、黙って見てるなんて出来なかった。
だって俺、仁人の良いところいっぱい知ってるもん。 仁人が持つ、人と違う感性も、何事にも真っ直ぐなところも、全部好きだなって思うし。」
勇斗くんの言葉に、思わず思考が停止する。
俺の聞き間違いじゃないよね…。
「は、はや、とくん……今、すきって…////」
「ん?………あっ!わ、わー!違う!いや、違くないけど、深い意味は無いから!普通に尊敬してる的な!意味だから!!」
「だっだよね!?もー、びっくりさせないでよ…。」
お互い、焦ってしまって言葉も動きもぎこちない。
何だかそれが面白くて、二人目を合わせて笑い合った。
先程あった、息が詰まるような空気はもう無くなっていた。
「…この後どうする?仁人が良ければ、一緒に花火大会回る?」
「うーん、……なんかもう花火大会の気分じゃ無くなっちゃったかも 笑」
「わかる、俺も。…あ!じゃあさ、俺ん家の近所の公園から花火見れるんだけど、そこから見る?結構穴場で、誰もいないと思う。」
「え、行きたい!」
「よし、じゃあ行こっか!」
花火の時間が近づいていることもあってか、道中は会場へ向かう人達でいっぱいだった。
その流れに逆らって、勇斗くんと並んで歩く。
周りとは違うことをしているだけで、何だかそこだけ二人だけの世界になったみたいだった。
「仁人、ここ座って。」
勇斗くんが公園のベンチに座り、空いている隣のスペースを叩く。
小さな公園の、小さなベンチ。
ただ隣に座るだけで、肩が触れてしまうほどの近さだった。
距離の近さにドキドキしていると、大きな音と共に夜空が明るく照らされる。
「わ、仁人見て!超きれい。」
「ほんとだ…すごいね。」
どん、と腹の奥に響く音がして、空が輝く。
次々と咲く大輪の花がとても眩い。
気づかれないように、勇斗くんの方へ視線を送る。
まるで、小さな子のようなキラキラとした顔で空を見上げていた。
なんだか、可愛くて思わず微笑んでしまう。
そいうえば、こうして誰かと花火を見ることは初めてだった。
前に勇斗くんと行ったカラオケも初めてで。
勇斗くんは、俺に初めてを沢山くれる。
遊びだけじゃない、気持ちの面でも勇斗くんに対しては初めてばかりだ。
誰かに会いたいと思うのも、何かしてもらってこんなに嬉しいのも。
距離が近いと恥ずかしいのに、もっと近づきたいと思ってしまうのも。
全部が全部、初めてだった。
俺は、この気持ちになんて名前をつけたらいいのかな。
コメント
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青春って感じでいいですね 甘酸っぱいです