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人生は皮肉だ。大事にしようと決めた物から失っていく。
だからすぐ次の大切なものができるのだけど、それもいつか必ず壊れるような危機感を抱いている。
雲の多い夜、仕事が終わった清心は都内の大学病院に来ていた。
理由はスマホに残っていた一件の留守電。身の覚えのない番号で、不思議に思いながら掛け直した。ところが相手は清心のことより、匡のことについていきなり話し始めた。
突然のことで話がスムーズに入ってこなかったけど、確かなことは匡が倒れた、ということだ。受付をして、指定された病室へ向かう。そこには一番奥のベッドで匡が寝ていた。
「匡……っ!」
呼びかけても彼は動かない。
しかし清心が来たことを知った医師と看護師がやってきて、事情を細かに説明してくれた。
既にMRI、臨床検査等を行ったが異常は見つからなかったという。それを聞いて安心したものの、医師の顔は険しい。
どこも異常がないのに目を覚まさない。それは油断ならない状態に変わりない。
匡の既往暦や服用歴、普段の様子について訊かれた。しかし知り合ったばかりの彼について答えられることなど一つもなく、首を捻るばかりだった。
彼のスマホには両親の電話番号が入ってるが連絡がつかず、唯一反応したのは自分だけらしい。
病気なんて詳しくなくても、昏睡は生命に関わる状態だということは知っていた。
このまま目を覚まさなければ毎秒リスクが高まる。医師は脳波検査に移行した方がいいと残し、看護師達も慌ただしく部屋を出て行った。その中で一人の女性看護師がこちらに気付き、戻ってくる。
「あの、検査室に入ったら外で待ってていただかないといけないんですけど。……できればまた、御家族様に連絡をお願いできますか?」
「あ、はい」
答えると、彼女は頭を下げて去っていった。
ベッドで寝ている匡は普段と何ら変わらない。
青白くて儚い。普通に見たら具合が悪そうだけど、会った時からこうだから慣れてしまった。
病院には何度も行ってると言っていたし、大丈夫だろうと甘く考えていた。もっと深刻に捉えて、一緒に病院へ行っていたら何か違ったかもしれないのに。
……ただ、こんな大きな病院で精密検査を受けても分からないなら、かなりの難病じゃないか。
彼をここまで苦しめた原因。それはずっと前から根付いて、見えない糸を張り巡らしていたのかもしれない。