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#主人公最強
しめさば
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「ってか、あんた、その頭……角(ツノ)……!?」
ツバキが目を丸くして私の頭を指差した。
「ッ!!?」
その瞬間、私の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
サァッ……と、全身の血の気が引いていくのがわかる。
(いやッ……!!)
私は反射的に、両手で自分の頭のツノを覆い隠した。
頭の中に、一瞬だけ昔の景色がよぎった。
放課後の教室。
くだらないことで笑い合っていた三人。
ツバキのノートに落書きして、
カエデが買ってきたパンを食べて、
どうでもいい毎日を、永遠みたいに思っていた頃。
あの頃の二人の前に、
今の私は立っていいのだろうかと思った。
そうだ。
私は一度、死んだ。
恥ずかしさのあまり死んだ。
みっともなく。
そして──この世界で、鬼になった。
でも、カエデとツバキは違う。
あの頃のまま、人間のままでここにいる。
(見られたくない……!)
親友にだけは、化け物になった姿を見られたくなかった。
変わってしまった私を見て、二人はどう思うだろう。
怖がるだろうか。
それとも──「サクラじゃない」と言われるだろうか。
どちらにしても、
元の『バカやって笑い合える三人』には、
もう戻れない気がした。
「ち、ちがッ! これは違うの!
この世界の最新トレンド!
ツノカチューシャ的なやつだから!
見ないで!! 頼むから!!
あんたたちは……見ないでよ……!」
声が震えた。
必死に隠そうとする手が、小刻みに震えている。
涙が出そうだった。
せっかく会えたのに、嬉しいはずなのに。
すると、カエデがきょとんとした顔で首を傾げた。
「え? なんで隠すの?
ツノが生えてようがサクラはサクラだし?
むしろやっと外見が中身に追いついた感じ。」
「え……?」
カエデがあっけらかんと言うと、
隣でツバキが深くため息をついた。
「そうそう。ていうかさ?
あんた子供の頃から見えないツノあっただろ。
なんならシッポも生えてたわ。
だから何を今さらって感じ」
「は……?」
私の悲壮な決意とセンチメンタルが、
一瞬で宇宙の彼方に消し飛んだ。
「私、悪魔扱い!?」
「悪魔みたいなもんだったろ?」
「ツバキの言う通りだね!ふふ。」
「あんたたち……感動の再会でそれ言う!?」
私が怒鳴ると、ツバキの顔が急にくしゃりと歪んだ。
「……でもさ。
あんたが死んだって聞いた時……
私……息ができなくなったんだからね……ッ!
……バカ。
なんで死ぬのよ。
なんで勝手にいなくなるのよ。
なんで今さら、そんな顔して出てくるのよ……ッ!」
怒鳴っているはずなのに、声が震えていた。
ツバキの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
カエデも、鼻をすずりながら私の手をぎゅっと握った。
「……サクラ」
少しだけ沈黙が落ちる。
「もう二度と……
パシリさせてもらえないんだって……
毎日泣いたんだから……ッ!」
「カエデ……それ喜んでない?」
私がツッコミを入れると、二人は泣きながら笑った。
そしてカエデは、
私の頭を隠していた手をそっと下ろさせると、
ツノに優しく触れた。
「……かっこいいよ、サクラ。すごく似合ってる」
「……はは。どんな姿でもさ?
あんたは私たちの自慢の親友(バカ)よ」
ツバキの言葉に、私の胸の奥で、
ずっとつっかえていた冷たい氷のようなものが、
音を立てて溶けていくのがわかった。
「……あんたたち……」
私は涙を乱暴に拭うと、
照れ隠しのようにいつもの不敵な笑みを作った。
「……でもさ、ツバキ。
あんたのその包帯と黒歴史ルックも大概だからね!?」
「これは神の試練(不可抗力)なの!! 一緒にするな!」
痛いところを突かれたツバキが顔を真っ赤にして叫ぶ。
その背後から、さらに見知らぬ修道服の女が、
カシャカシャとペンを走らせながら進み出た。
「おお……! 聖女様の親友は、まさかの鬼族!
異種族の壁を超えた、魂の絆……!
これは、カメリア聖典に新たな章を追加せねば……ッ!」
「誰!?」
私は思わず突っ込んだ。
「私の……付き人(狂信者)のローザ……」
ツバキが顔を覆って呻く。
「えと。あの!あのッ!……お姉ちゃんから離れて!」
今度は、玉座の隣からエスト様が飛び出してきた。
口の周りにソースをつけ、銀髪を揺らし、
杖を構えてカエデとツバキを威嚇している。
「だ、誰よあんたたち! 私は魔王のエストだよッ!
お姉ちゃんは……私の家族なんだからねッ!
勝手に抱きつかないでよ!」
エスト様が、精一杯の背伸びをして、
私を庇うように両手を広げた。
「それに……お姉ちゃん、夜寝てる時も……
お酒飲んで泣いてる時も……
ずっと『カエデ……ツバキ……』って、
あんたたちの名前呼んでたんだから!
私、最初は誰だろうって思ってたんだから!
私の大事なお姉ちゃんを、
これ以上泣かせるやつは許さないんだからッ!」
その言葉に、私の顔から一気に火が出た。
「ちょ、小娘!?
ばッ、それ一番言っちゃダメなやつ……!!」
でも──
叫びながら、私はエスト様の顔を、
ほんの一瞬だけ見てしまった。
杖を構えて、精一杯背伸びして。
見ず知らずの相手に、
それでも必死に「お姉ちゃんから離れろ」と、
叫んでいるその顔を。
(……この子)
(ずっと、そばにいてくれてたんだ)
胸の奥が、じわっと熱くなった。
泣きそうになった。
でも今は絶対に泣けない。
顔が既に十分赤い。
ツノと顔を真っ赤にして慌てる私を見て、
カエデとツバキはポカンとした後──
ふわりと、優しく微笑んだ。
すると、カエデとツバキは顔を見合わせ、
エスト様と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
カエデは、しばらくエスト様の顔をじっと見つめた。
それから、ゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとね」
それだけだった。
でも声が、少し震えていた。
「……ありがとう、小さな魔王様。
私たちの親友の家族になってくれて」
ツバキが、真剣な顔で続けた。
「えっ……?
あ、あの……えっと……えへへ……」
毒気を抜かれたエスト様が、
オロオロと照れながら私を振り返る。
カエデが、そっと私の頬に触れた。
その指先は小さく震えていた。
確かめるみたいに。
壊れものに触るみたいに。
「……あったかい……。よかった……
サクラ、ちゃんと生きてる……っ」
ツバキも、私のもう片方の手を両手で強く、
痛いほどに握りしめた。
「……バカ。あんたが死んだって聞いて……
私たちが、どれだけ……どれだけ……っ!」
私の前で、声を上げて泣きじゃくるカエデとツバキ。
そして、照れくさそうに私の袖をぎゅっと掴んでいるエスト様。
その三人を見つめる。
言葉が出ない。
胸が詰まる。
もう、強がっている意味なんてなかった。
「えっ……サクラ……?」
「ちょっと、痛いってば……」
「むぎゅっ……お姉ちゃん、くるしい……」
気がつくと、私はカエデとツバキの二人を、
両腕で強く抱きしめていた。
そして、その腕の中には、
ちゃっかりエスト様も巻き込まれていた。
「あんたたちにさ……ずっと会いたかった……」
私が鬼でも。
ここが異世界でも。
もう元の世界に戻れなくても──
そんなことは
どうでもよかった。
私は、家族達の肩に顔を埋め、声を殺して泣いた──。
泣いた。
止めようとしても、止まらなかった。
*
三人が抱き合って泣いている光景を、
少し離れた場所から辰夫と辰美が見ていた。
その隣で、ローザが静かにペンを走らせていた。
「……」
辰夫は腕を組み、しばらく黙っていた。
やがて、ポツリと呟く。
「……なんだか……」
「はい?」
「……我、場違いではないか?」
辰美が小さく笑った。
「今さらですね」
「いや、そうではない。なんというか……」
辰夫は視線を逸らしながら言った。
「……サクラ殿が、あんな顔をするとは思わなかった」
辰美は静かに頷いた。
「私もです」
「……聖女様の親友は、鬼族……
これは、新たな聖典の幕開けですね……」
ローザが感極まった声で呟いた。
玉座の間の真ん中で、
三人と一人の小さな魔王が、ぐちゃぐちゃに泣いている。
サクラの肩が、小さく震えていた。
「……あれが」
辰夫は小さく息を吐いた。
「……サクラ殿の”弱点”か」
辰美は少し考えてから答えた。
「いえ」
そして、静かに微笑んだ。
「たぶん……あれが、サクラさんの”強さ”ですよ」
辰夫は何も言わず、
もう一度その光景を見た。
それから、小さく頷いた。
「……なるほど」
「……涙は、魂の祈り……尊い……」
ローザが呟く。
少し間を置いて、辰夫は言った。
「……だが」
「はい?」
「……あの状態で抱きつかれたままでは、
焼きそばパンが潰れてしまうのではないか?」
「辰夫さん」
「む?」
「空気読め?」
ローザは静かにペンを置いた。
そこには──
『──焼きそばパンもまた、絆の象徴なり』
*
そして、1分後──。
感極まったツバキのヘソからビームが出た。
ビーーーーー♡
……。
ツバキが、ゆっくりと自分のヘソを見下ろした。
「なんでぇえええええ!?」
「ツバキ凄い!新スキルだね!」
カエデがツバキを見て手をパチパチ。
「……は?」
ツバキを二度見する私。
私は我が目を疑った。
いやいやいや。ちょっと待って。
ツバキって、私と同じ地球出身の、
ただの中二病をこじらせた幼馴染(普通の人間)だよね?
いつもの痛いロールプレイかと思ってたら、
なんでレーザー光線(ビーム)出してんの!?
サイボーグか何かに改造されたの!? いつ人間やめたの!?
「お姉ちゃん怖いよ!!」
私に抱きついてくるエスト様。
「へ……ヘソは母なる大地と繋がる……?
生命の……えっと……神聖なる、砲門……ッ!?」
ローザが言葉に詰まった。
「……ヘソ砲門!?」
そして、ローザが自分の言葉に戸惑った。
「……。」「……。」
辰夫と辰美は、黙って下を向いた。
「ち!ちがうの!こ、これは!
感情エネルギーが臍下丹田に集中して──
その……えっと……制御が間に合わなくて……!」
「えと、うん!」
「出ちゃったの!!」
ツバキが謎のいいわけ。
「何言ってんの!?」
*
私は涙を拭った。
拭っても、また滲んできた。
「……ほんと、変わんないわね」
私はエスト様の頭にポンと手を置いた。
(つづく)