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#主人公最強
しめさば
2,152
ラウワ王城での感動の再会から、一時間後。
私たちは王都の路地裏にある、
赤提灯の揺れる大衆酒場に席を取っていた。
「……というわけで、カンパーイ!!」
カチンッ! と木製のジョッキがぶつかり合う。
私とカエデ、そしてツバキの三人。
それに辰美、小娘(エスト)、そしてローザも同席している。
いろいろと狂った異世界だけど、
こうしてジョッキを交わせば、
あの頃の東京の居酒屋と何も変わらない気がした。
そして、ツバキがジョッキを持ったまま、
大泣きしながら叫んだ。
「……うわぁーーー!サクラー!!生きてたー!!
またこうして飲めるなんてねー!!うわーん!!
ホント会いたかったよー!!
カエデもいるしさ!!昔みたいで嬉しいなーーー!!!」
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、ツバキが笑う。
「……ずっと、一人だったんだよ……?」
ぽつりと、こぼれた。
「そこのローザ……
教会の人たちがさ……ずっと監視しててさ……」
少しだけ、視線が揺れる。
「……怖かったんだよ」
ぐしゃ、と涙を拭う。
──でも。
「でもね!」
顔を上げた瞬間、いつものツバキに戻る。
「この国の大魔王を倒さないと、
私が『偽物の聖女』として処刑されちゃうの!」
「だからサクラ!」
一瞬だけ、笑顔。
「嬉しいけどごめん!!」
──次の瞬間。
「食らいなさい! 聖なる魔法! ホーリービーム♡」
ビーーーーーッ♡
「情緒どうなってんだお前ぇえええ!?」
私は横に飛びながら叫んだ。
ホーリービーム♡は一直線に辰夫へ向かい──
ドバァァンッ!!
光が弾け、辰夫の着ていたエプロン(バイトの制服)を焼いた。
「ギャーーーーーッ!!!!!
せっかく支給された制服がァァ!
これでは、ば、バイトにィイイ……ッ!」
「辰夫さん!?」
「さすがお姉ちゃんのお友達!他人に迷惑しかかけない!」
隣の席でウーロン茶を飲んでいた辰美と小娘(エスト)が、目を見開いて驚愕した。
「……『第11章:竜王、バイト制服を失う』……」
ローザがメモし──
「ローザ! 辰夫さんの話まで書くな!!」
ツバキがツッコむ。漫才かよ。
そしてローザがペンを置くと叫んだ。
「聖女様! やるんですね!?今……ここで!!
このローザもお供いたします!」
分厚い『カメリア聖典(ハードカバー特装版)』を構え、
ツバキの隣に並び立った。
「大魔王サクラよ! 聖女様の御前なれば、
この教えの重み(物理)で、そのツノをカチ割ってくれよう!」
「へぇ?」
「ローザはいいから引っ込んでて!
おのれ大魔王サクラ! 避けるなぁー!
私だって死にたくないのよぉお! ホーリービーム♡」
再び、ツバキの左目が輝き、
光が収束すると同時にビームが発射される。
ビーーーーーッ♡
「あぶッ!」
私が素早く避けると、再度ビームは辰夫に命中した。
「ギャーーーーーッ!!!!!
今日はポイント5倍デーで……お店が激混みするのに……
このままでは店長に……お客様にご迷惑を……ッ!!」
「おお……!
聖女様の慈愛の光が、大衆酒場を浄化していく……ッ!
『第12章:赤提灯と聖なる光』……追記せねば!」
ローザが、さっきまで鈍器として構えていた聖典をパカッと開き、猛スピードでペンを走らせる。
「辰夫さん!? まさかの接客業なのーッ!?」
「辰夫?怒っていいよw」
辰美が驚愕の悲鳴を上げ、小娘が煽る。
巨大ドラゴンがレジ打ちしてる姿を想像してはいけない。
「カエデ! こいつ抑えつけて!
……あと♡にイラっとするッ!」
「うん! たしかにイラっとする!」
カエデが背後からツバキを羽交い締めにする。
「ああっ! 聖女様に何をするのです勇者様!」
ローザがカエデに叫ぶ。
「はなせぇー! はなしてぇー! ローザも来ないでぇー!
大魔王を倒すって約束したんだぁー!
私が世界を平和にするんだぁー!
まだ死にたくないよぉお!」
「この曲がった感じに真面目でヘタレなとこ変わってないねぇ」
カエデがツバキを抑えながら笑顔。
「相変わらずのめんどくさい性格……
大変なのが来たわね……はぁ」
私はため息をつくと肩を落とした。
「でもさ!でもさ!
こんなとこでサクラとツバキに会えるなんて嬉しいよね!」
カエデがのんきだ。今はそれどころじゃないだろ。
「くっ! 右腕の左目が疼く……!
私は闇に輝く無神論者の聖女!
漆黒より出でし純白の暗黒騎士!
すべてを救済して滅ぼすために、
悪魔から奪われた神の力を持って、
お前を回復させて討つ! 物理属性・ホーリービーム♡」
再び、ツバキの左目が発光しビームが放たれる。
ビーーーーーッ♡
「あぶなッ! やっぱり♡うざッ!
設定全部矛盾してるけど?」
私はサッと魔法を避ける。
「ギャーーーーーッ!!!!! お客様の笑顔を……ッ!!」
倒れている辰夫にまた当たる。
「……邪魔ねこれ。店壊されたら出禁になるし」
ポイっ!!
私は倒れている辰夫を拾い上げると、
酒場の外へポイッと投げ捨て、戦闘に備えた。
「ば、バイトに……バイトに行くのだ……うぅ……」
「「た、辰夫さん……」」
酒場の外の路上で、ボロボロになりながらもバイトに向かおうとする辰夫の姿に、カエデと辰美が泣いていた。
「もう今日はバイト休みなよ」
小娘が辰夫に厳しい。
「ぬあああああああああーーーーーッ!」
そして辰夫が叫んだ。
「「「「な、なに!?」」」」
──やがて辰夫はゆっくりと口を開いた。
「……ち……遅刻は……
許されないのです……
バ、バイトに行ってきます」
「「「あ、はい。どぞ。いってらっしゃい」」」
辰夫は人間の姿のまま、
背中から大きな翼だけを広げ、
フラフラとしながらも空へ飛び立とうとした。
辰夫の頬を伝う雫が涙なのか雨なのかは、
辰夫にしか分からない。
そしてその様子を見ていた街の人々が、
酒場の外から声を上げ始めた。
「辰夫さん、がんばれー!」
「負けないでー!」
「気をつけていってらっしゃい!」
「何のバイトしてんだろ?」
「休めば?」
辰夫は声援に応えることなく、
ゆっくりと重い翼を広げ、
雨の中に消えて行った。
「神よ、あの者に……どうかご加護を……」
ツバキは雨の中を飛び去る辰夫を祈り続けていた。
いや、お前が撃ったんだろ……神も困るわ。
辰夫が見えなくなると、街の人々は静かにその場を離れた。
私たちは黙ってその場に立ち尽くす。
──冷たい雨が降り続ける音だけが響いていた。
その後、その場にいた皆が思った。
(バイト休めよ)
(つづく)
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