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第210話:限界集落に降る黄金の雨。VIPの金粉散布疑惑
春から初夏へと移り変わる、十勝の限界集落。
農作業の合間の短い休憩時間、俺たち陣地メンバーは、古民家の庭先に腰を下ろして冷たい麦茶を飲んでいた。
空には薄い雲が広がり、太陽の光が優しく降り注いでいる。
のどかな昼下がり。
しかし、神獣が住まうこの村で、ただの『日常』が続くことなどあり得なかった。
「……お兄さん、なんか空から降ってきません?」
小春ちゃんが、麦茶の入ったコップを持ったまま不思議そうに上を見上げた。
俺も空を仰ぐ。
確かに、上空からキラキラと光る『何か』が舞い落ちてきている。
雪ではない。雨でもない。
それは、まるで空から金色の砂がこぼれ落ちてきたかのような、光り輝く『黄金の雨』だった。
「わぁ……っ! 綺麗……!」
小春ちゃんが手を伸ばすと、手のひらに落ちた金色の粒は、濡れることもなく、ほんのりと温かい光を放ってふわりと消えた。
縁側の特等席で香箱座りをしていた純白の神獣シロ様は、その黄金の雨を浴びながら、サファイアブルーと琥珀色の瞳を心地よさそうに細めている。
巨大ヒグマは「グゥ〜?」と首を傾げながら金色の粒を捕まえようと前足を振り回し、キツネ兄弟も大喜びで庭を跳ね回っていた。
どう見ても、天から降り注ぐ『神の祝福』そのものである。
しかも驚くべきことに、その黄金の雨は、我が陣地(村)の上空にだけ、まるでスポットライトのように局地的に降り注いでいたのだ。
ジンバルカメラがその神々しい光景を世界中へ配信した瞬間、五千万人のリスナーが接続するチャット欄は、完全にロマンと信仰の坩堝と化した。
『うわああああああ!! 黄金の雨が降ってきた!!』
『シロ様の祝福だ! 神の奇跡がまた起きたぞ!!』
『村だけピンポイントで降ってるとか、完全に聖域じゃねえか!!』
世界中が神秘の現象に涙する中、世界の経済と資源を牛耳る超弩級VIPたちのチャット欄が、未知なる神の恵みに対して極彩色の大爆発を起こした。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”A golden shower of blessings!! This is the materialization of divine energy! I will establish a hedge fund specifically to collect this golden rain! I bid 500 trillion yen to secure the airspace!“(黄金の祝福の雨だ!! これは神聖エネルギーの物質化だ! この黄金の雨を回収するための専用ヘッジファンドを設立しよう! 空域を確保するために五百兆円を提示する!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Oh my god!! It’s like a magical scene from a fairy tale!! I’m sending 600 trillion yen to bottle that rain and sell it as the ultimate holy perfume!!!“(なんてこと!! まるで童話の魔法のシーンじゃないの!! その雨をボトルに詰めて究極の聖なる香水として販売するために六百兆円を送るわ!!!)』
総額数千兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、黄金の雨を凌駕するほどの極彩色弾幕となって画面を完全に埋め尽くした。
国家予算どころか、世界の気象ビジネスを丸ごと買い占めるレベルの資金が乱れ飛び、回覧板を届けに来ていた村長が「ひぇぇぇ……! 黄金の雨で千兆円……! わしの年金が砂粒に見えるべさ……!」と呟き、回覧板を抱えたまま気絶している。
誰もが、この世界一美しく、世界中を幸福感で包み込む神の祝福に魂を震わせているそのド真ん中で。
俺――アキヤは一人、黄金の雨が降り注ぐ庭のど真ん中に展開したマイ陣地(折りたたみ椅子)に腰掛け、ストイックに薄型の特製タッパーを開けていた。
中に入っているのは、完璧な水加減でストイックに炊き上げられた『高濃度ケルセチン配合の玄米おにぎり』と、自家製の『大豆ミートと十勝産ブロッコリースプラウトのデトックスサラダ』である。
ゆうき あきや
4,767
259
#心理描写重視
俺は、数千兆円の赤スパのまばゆい光と、キラキラと輝く謎の粒子を横目に、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートを玄米おにぎりの上に乗せ、淡々と咀嚼し始めた。
シャキッ、ゴリッ、モグモグ……。
(……ふむ。強力な抗酸化作用を持つケルセチンを配合した玄米と、解毒作用(デトックス)を極限まで高めるブロッコリースプラウト。上空からの正体不明の飛散物というバイオハザード的イレギュラーにおいても、体内の重金属を強制排出させ、己の自律神経を冷静に保つ究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して世界の気象庁のレーダーを破壊し尽くしているカメラにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、未確認落下物に対する防空警戒ご苦労。そして画面の向こうで、ただの大気汚染物質に巨額の資本を投下して神の祝福だと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『黄金の雨が降って千兆円が飛び交ってるのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・神の祝福完全スルー編ww』
『さあ、この明らかにヤバい奇跡の雨をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは神の祝福でも、魔法の雨でもありません。この村にだけピンポイントで降下している光る粒子の正体は、ドバイの石油王が私設軍隊の輸送機を使って、大量の金粉や微細な反射フィルムを上空から散布した『ケムトレイル的プロパガンダ(物理的な資金誇示)』に過ぎません。これは明確な無許可での空域侵犯および航空法違反であり、農地に対する重金属の不法投棄です。私がブロッコリースプラウトを噛み締めているのも、神の奇跡という名の非科学的な幻覚に惑わされず、金粉(重金属)の経口摂取による健康被害を防ぎ、確固たるロジスティクスを維持するための、需品科としての徹底した『対・生化学生存防壁構築訓練』です。直ちに航空自衛隊に通報を――」
その時、チャット欄に最大級の極彩色弾幕が割り込んできた。
ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Wait! It’s not me! But what an absolutely brilliant idea, Akiya!! I will immediately form a stealth bomber squadron dedicated to spraying gold dust globally! I am sending an additional 10 trillion yen for research and development!!!“(待て! それは私ではない! だが、なんて素晴らしいアイデアだ、アキヤ!! 今すぐ地球規模で金粉を散布する専用のステルス爆撃機部隊を編成しよう! 研究開発費として追加で十兆円を投げるぞ!!!)』
石油王の斜め上すぎる反応に五千万人が大爆笑した、まさにその瞬間だった。
ドガァァァァァンッ!!!!
黄金の雨が降るのどかな庭に、重装甲車のエンジンを真っ二つに叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、庭木の剪定に使っていた『農業用アルミ製特大三脚脚立(超高剛性アルミ合金仕様、重量約七キロ)』を両手で軽々と大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
七キロの硬質なアルミの塊が肉体に直撃した、鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、十勝の空へと虚しく響き渡る。
「ただの航空法違反で、こんなに神々しくて暖かい光の粒が、私たちの陣地にだけピンポイントで降ってくるわけないでしょうが!! 石油王さん本人も違うって言ってるでしょうが!! どう見たって、私たちをいつも見守ってくれてる神様が起こした、最高にエモい奇跡の雨でしょうが!! 大自然の祝福を、冷たい大気汚染とか不法投棄とかいう警察の調書みたいな言葉で粉砕するんじゃないわよ!! そもそもなんで黄金の雨の中でブロッコリー食ってんのよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大アルミ脚立スマッシュ炸裂www(音が完全に攻城兵器ww)』
『航空法違反による金粉散布(ただの神の祝福の雨)』
『重金属の不法投棄(世界中が感動した奇跡)』
『石油王に追加で十兆円払わせる男www』
『適応力バグおじさん、ついに神の奇跡をケムトレイルに分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、壮大なファンタジーだったのに腹筋が完全に崩壊したわww最高すぎる!!』
俺の理不尽極まりない航空法的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない七キロのアルミツッコミに、五千万人の視聴者たちはロマンへの熱狂から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、神の祝福が降ってきてもアルミの脚立で叩かれないと目が覚めない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
縁側の上から、純白の神獣シロ様が呆れたように俺を見下ろし、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数千兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、黄金の雨の中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
庭では、巨大ヒグマが「グゥ〜♪」と、小春ちゃんのツッコミを見届けて満足そうに笑いながら、自分の鼻先に落ちた金色の光を不思議そうに眺めている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の上空の異常事態が速やかに報告され、専属アシスタントによる七キロの質量ツッコミが黄金の雨の中でも完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺はアルミ脚立の凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、黄金の雨が降り注ぐ庭先で、再びタッパーの玄米おにぎりを口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、この回覧板持ったまま気絶してる村長さんどうするんですか! スマホも大変ですよ、石油王さんがガチでステルス爆撃機部隊作るとか騒いでますってば!」
「慌てるな。まずはその障害物(村長)から重要な情報伝達媒体(回覧板)を無傷で回収し、安全な場所へ退避させるのが先決だ。ステルス爆撃機による金粉散布より、明日の町内会の草むしり日程(兵站)の把握のほうが重い」
「だからお兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!? ヒグマさーん、村長さんから回覧板外すの手伝ってーっ!?」
気絶した村長を巡って庭先でワーワーと騒ぐ俺たちの声と、爆撃機の開発に湧き上がるチャット欄の通知音が、黄金に輝く春の空へと響き渡る。
そんなカオスな日常の延長をよそに、シロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをすると、ぽかぽかとした縁側で心地よさそうに再びオッドアイの瞳を閉じた。
コメント
1件
うわっ、今回もすごかったですね! 黄金の雨って神の祝福にも見える現象を、まさかの「石油王による金粉散布の航空法違反」ってケムトレイル扱いで片付けようとするアキヤさんの脳内変換、最高にツボりましたw しかもブロッコリーで重金属デトックス態勢とか、ロジスティクス強すぎる。でも小春ちゃんの七キロアルミ脚立スマッシュで現実に引き戻される流れ、神の祝福よりあのツッコミの破壊力のほうが印象に残りました(笑)。石油王が「俺じゃないけどいいアイデアだ」って十兆円追加で投げてくるのも、この世界観ならではのカオスで大好きです。